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夏がくれば読み返す|スノーボール・アース |Review

『スノーボール・アース――生命大進化をもたらした全地球凍結』
ガブリエル・ウォーカー 著、渡会圭子 訳、早川書房、2004年
レビュー2023.07.08/書籍★★★★★

クソ暑い真夏の休日に読み返したくなる、自分にとってはもはや甲子園以上の夏の風物詩。地球が上から下まで全部凍っていた・・・と頭で想像するだけで涼しくなれる、脱炭素コスパの高い本。人生の愛読書ランキングでも五指に入るだろう。

サイエンスライターの著者ガブリエル・ウォーカーはケンブリッジ大卒の才媛。ぱっと見、ガブリエルなのに女性?と思ってしまった。スノーボール・アース仮説には何人ものキーパーソンがいるが、指折りのへそ曲がりポール・F・ホフマンをメインに据えた勇気を称えたい。でもそのかいあって、反目や対立、罵倒、皮肉、和解など怒涛の人間模様がストーリーを引っ張り、地球史になじみがない読者もスラスラ読める。いやこの本を読む限りじゃ、ホフマンはほんと嫌なヤロウなんですけどね。

改めて解説すると、スノーボール・アース Snowball Earthとは、赤道も含め全体が氷に覆われた状態の地球のことで、2回から5回くらい過去に起きたらしい。そのうち原生代末期の全球凍結がホフマンらが取り組む研究テーマだ。そしてこの仮説が全世界で注目されたのが、エディアカラ生物群〜カンブリア大爆発のような多細胞生物の一斉出現の引き金になったのでは?という生物史に横たわる大きな謎の解明への期待からだった。

謎といえば、本書は謎解きの要素が随所にあって、推理小説を読むような爽快感が得られるのも人気の秘訣だろう。パズルのピースがはまるように疑問の一つ一つが解き明かされ、文字どおりスノーボール・アースの形が塑造されていく。

以下では、夏休みの研究課題としてスノーボール・アースを選んだ意識高い系の中学生の質問に、改心してやさしくなったホフマンが答えるテイの一問一答形式で、謎解きを要約してみよう。


――もし地球が全部凍ったら、白い氷が太陽光を反射するから、ずっと寒いままで二度と元に戻らないんじゃないですか?

ホフマン ああ、アルベド(入射光に対する反射光の比率)のことを言ってるんだね。雪氷に覆われる面積が増えるとアルベドが大きくなる。すると地球が受け取る太陽エネルギーが小さくなって、寒冷化が加速する。それがスノーボール・アースの原理だよ。

だけど、地球の火山活動はその間も続いていて、火口から二酸化炭素(CO2)やメタンを含んだ火山ガスをずっとはきだしている。今の地球なら海がCO2を吸収するけど、凍った海は吸収してくれないだろ。そうすると、いつかは温室効果がアルベドによる寒冷効果を打ち負かしてしまうというわけさ。

――地球が全部凍ってる間に生物は絶滅してしまわないですか?

ホフマン 大量絶滅が起きたのは間違いないね。でも、凍結しない場所、例えば海底の熱水噴出孔、火山の周辺などで生命は生き延びたと考えられる。氷の切れ目のような太陽光が届くところが少しでもあれば、それが生命のオアシスになったはずだよ。

――地球が全部凍ったっていう証拠はあるんですか?

ホフマン あるよ。ひとつは私の研究対象の炭酸塩岩層(キャップカーボネイト)だ。キャップカーボネイトは氷河堆積物の真上に堆積していることが多くて、この二つのセットは世界中に分布しているんだ。これは寒冷化がどこでもみられて、それが終結すると同時にCO2の固定が始まったとみることができる。つまり氷が溶けると、大気中に溜まっていたCO2が海に吸収されて結晶化したということだよ。

もうひとつは縞状鉄鉱床だ。地球にまだ酸素がなかった頃――そうだな、約20億年前までかな――は海水に鉄イオンが溶けていたんだ。だけど光合成生物が出現すると、鉄イオンは酸素と反応して酸化鉄となった。そして鉄鉱床として海底に沈殿したんだ。この縞状鉄鉱床がスノーボール・アースが終わったあとの氷河堆積物中から見つかった。当時の海は氷で大気と分断されていたから、海中の酸素がなくなって、20億年前の状態に戻っていたんだよ。氷が溶けると、大気中の酸素が海水に吸収されて、また酸化鉄が鉄鉱床をつくったのさ。

――地球は今も氷河時代で、私たちは間氷期を生きているといいますが、今の氷河期がスノーボール・アースにならないのはなぜですか?

ホフマン 原生代後期は超大陸ロディニアの時代だった。内陸の岩石は侵食されて、イオン化したカルシウムやマグネシウムは大量に海へと流れ込んだ。そうするとCO2が炭酸塩鉱物になるから、大気中のCO2濃度が大幅に低下する。地球の寒冷化が起こったのさ。

さらに悪いことに、ロディニアは赤道付近にあった。陸地は海洋よりも熱の反射率が高く、赤道近くにあると太陽エネルギー吸収の効率を下げることになる。そういう条件でスノーボール・アースが起こったんだ。今は大陸が南北にバラけているから、深刻な凍結にはならないと安心していいよ。

* * *

地球で最初に生まれた光合成生物(細菌)であるシアノバクテリア――オーストラリアの西側シャークベイ、その湾内のハメリン・プールという浅瀬のエリアで、シアノバクテリアの一種ストロマトライトと出会える。死ぬまでに絶対行ってみたい場所のひとつだ。

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