見出し画像

「小説家は会社を辞めるな」は本当か?

随分前から、小説の新人賞を受賞した新人作家に対して編集者の方が「会社を辞めないでください」とアドバイスするのが鉄板でした。
このアドバイスが鉄板だったのはちょっと前の話で、今では当たり前すぎて、編集者の方もわざわざ言わないのではないでしょうか。
僕は「ポプラ社小説新人賞」奨励賞を受賞しましたが、編集者の方にそう言われませんでした。受賞する前にすでに辞めていたからですが。

会社員として毎日働き、時間がない中で執筆したのに、何度も新人賞を落選した結果、ようやく受賞して商業デビュー。退職して専業作家になって執筆に専念したくなる気持ちは充分に理解できます。
でも、新人小説家が小説の印税だけで暮らしていくのは、(ほぼ)不可能です。

それは小説家の収入についてちょっと調べればわかります。作者の印税は、8%から10%といわれています。それに書籍の定価と発行部数を掛ければ、作者の収入がわかります。
もちろん、これは手取りではありません。会社員を辞めて個人事業主になったら、税金、年金、国民保険料を自分で支払わらないといけません。
ちょっと計算すれば、今の出版業界で新人小説家が小説の印税だけで食べていくのはとてつもなく難しいことがわかります。
もちろんデビュー作が大ヒットして、会社員の平均年収ぐらい稼ぐことはあるかもしれませんが、専業作家として生きていくには毎年ヒット作を書く必要があります。
結構リスキーですよね。編集者が「会社を辞めるな」と助言するのは妥当な気がします。

それでも、会社を辞めて、全身全霊を込めて小説に懸けたい気持ちはわかりますけどね。
ちなみに、僕は商業デビューする4年も前に専業作家になりました。無謀ですよね。でも、後悔はしていません。会社を辞めてから賞をいただき、過去の作品が書籍化されたわけですので。

結局、人生においてなにを選択してなにを捨てるかは自分で決めることです。人によって状況も想いも異なります。他人のアドバイスを聞きつつ、最後は自分で判断しないと、その先の人生への推進力が生まれてこないと思います。
まあ、でも、会社を辞めることはいつでもできるので、焦る必要はないと思いますが。


この記事が参加している募集

退職エントリ

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?