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Nothing is real


これから話す話はどうか話半分に聞いてほしい。

でないときっと

あなたの意識を

どこか不思議なところへ連れて行ってしまいそうだから……


🔸 🔸 🔸 🔸


夜が始まろうとしていた。

師走の繁華街はすでにクリスマス一色だ。

渋滞で全く進んでいない車の列までイルミネーションのように反射して輝いている。

道ゆく恋人たちは手と手を固く握り合いLet me take you down, cos I'm going to Strawberry Fieldsって感じだ。

それにしても今夜はとくに手繋ぎデートの割合が多い気がする。

僕はといえば、ひとりととぼとぼと歩いていた。寂しい限りだ。

Nothing is real and nothing to get hung about
Strawberry Fields foreverって誰かに言って欲しいくらいだ。

その出来事はなんの前触れもなく起こった。

急に「ちょっと失礼します」という、可愛い声がして、僕の手に温かい誰かの手が触れた。というよりは手を握られた。

驚いて横を向くと、まずポニテが見えて、次に制服姿。完全なるJKがごく自然な形で僕の横に収まっていた。手を繋いだまま。

「説明はあと、しっ、今は黙って」

何か言おうとする僕を制してJK。

しばらくそのまま歩く。

そわそわして仕方ない。

Living is easy with eyes closed Misunderstanding all you see

「よし行った、これでもう大丈夫ね」辺りを見まわして何かを確認するJK。

「何がどうなってるの?」

「あ、すいません離しますね」

僕らの手はそこで離れた。

「鬼に捕まっちゃうんです、手を繋いでないと」

「そういうあそび?」

「遊び……うーん、どうかな。でもこの街はみんなそんな感じでやってる人ばかりですよ」

済ました顔になった。

「そういうもんなんだ」

街の恋人たちをそんなふうに見た事なかった。

It's getting hard to be someone but it all works out   It doesn't matter much to me

「僕には鬼なんて見えないけど」

たぶんもう少し僕はその子と話したかったんだと思う。

「なら、あなたはもう捕まった人なのね」

JKは言いながらするりと僕の前へ出てポニテで軽やかに円を描くと、音階のようにスカートをたなびかせて笑いながら駆け出した。

「鬼に捕まるとどうなるんだい?」

まだ声の届くところの彼女に投げた。

振り向くJK。

「そうやって聞く人になる」「でもまだ逃げられるわ」

何かのリズムの一つみたいに大きく笑っている。方々に隠れていた友達たちが合流して人混みの中をまた鬼から逃げに走って行った。

Let me take you down, cos I'm going to Strawberry Fields

Nothing is real and nothing to get hung about

Strawberry Fields forever

12月特有のセンチメンタリズムが僕の胸を駆け巡った。立ち止まって鬼を探した。すぐに走り出して何かから逃げるフリでもできればよかった。

東京の冬の恋人たちは相変わらず手を繋いだままデートを楽しんでいた。



                      終

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