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ウチの猫と太宰治


あまり読ませないようにはしていた。

でもそこはウチの猫のことだ。

いつのまにかこっそり読んでいたらしい。

── 太宰治を。

ある夜、僕がトイレに起きてみると、書斎に明かりが灯っていた。

消し忘れかと思って覗いたら、ウチの猫がまるで書生のようにかしこまって読書をしていた。

夜行性なのに、あんなにじっとして読むなんてよほどの本だと思って確認したら太宰だった。

周りには他にも太宰の本がたくさん積まれている。

僕に気づいたウチの猫は顔を上げてこちらを向き、

「あ、いたんだ?」とだけ言うとまた本の世界に戻ってしまった。

腕組みしながら“ふんふん”頷き、「深りみが分かい」とかなんとかごにょごにょ言って読んでいる。

「あんまり猫が読む本じゃないと思うけどな、違う本にしなよ、ハリーポッターとか三毛猫ホームズとかさ」

僕はなんとかウチの猫を太宰から引き離すべくあれこれ説得してみたけど、心酔しきっていてまったく効かない。

このままでは太宰みたいな猫になってしまう……。

妙案☟

でもきっとあれには勝てないだろうと思い、急いで僕はキッチンの方から“ちゅ〜る”を持ってきた。

「おーい、ちゅ〜るだよー。美味しいよー」

さあ、書を捨てよ、ウチの猫!

「あのー」と言って振り向いたぞ。

ほらほら、と僕はちゅ〜るを差し出す。

🐱「あのーちょっと、聞いてもいいですか?」

僕「え?いいよ」

🐱「ちゅ〜るは悲劇名詞ですか?それとも喜劇名詞ですか?どちらでしょうか」

なんなんだその質問は……、それに話し方も全然可愛げがなくなってしまっているし、よそよそしい。

僕「んー、難しい質問だなー」

🐱「文学ですからね」

僕「まぁ、敢えて言うなら“美味しいメシ(名詞)”ってとこかな」

と冗談で言ってみたら、

メロスは激怒したらしく、

本気のネコパンチがきた。

みなさんくれぐれも猫に太宰は読ませないように笑



                      終

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