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やたらと爆発物に遭遇する男


この世には2種類の失恋がある。

ひとつ目は“失う”タイプの失恋。

もうひとつは、

“はじめから何もない”タイプの失恋だ。

僕ははじめから何もない失恋をきっちり通過し、思春期でもないのに自分探しの旅に出かけた。

余談だが、この世には2種類の思春期がある。

後から思春期だったとわかるものと

そもそもはじめから何もないものだ。

僕ははじめから何もない思春期が遅れてやって来るという最悪のパターンで自分を探し続けた。

自分探しの旅というのは自分とすれ違うまでするものなのだろうか。

きっと自分探しにも二つの種類があるんだろう。

例えば、そう

海外に行くやつと

国内のみのやつだ。

僕は国内組なので、スケジュール的にも余裕がある。

そんな自分探しの旅にも疲れて、失恋そのものを失いかけていたそんな時、ある街で、道ゆく人に声をかけられた。

「もしかして爆発物処理班の方ですか?」

買い物帰りの主婦のようだ。

全くもって信じられない声のかけられ方だけど、自分探しの旅の途中だと不思議と正当性のようなものが感じられてしまうから不思議だ。

「いいえ、違います」

僕がそう答えると、主婦の人は落胆して「どうしましょう」と狼狽える。

訳を聞くと、どうやら近くのスーパーマーケットに時限爆弾が仕掛けられていて、大変なことになっているんだとか。

「そういうことは専門家にやってもらわないと。通報したんですよね」

「ええ、もちろんです。でも到着まで時間がかかるらしくて……、とにかくタイマーがセットされていて爆発まであと僅かしか時間がないんです」

えてして、失恋して自分探しの旅をしているような僕みたいな男は英雄になれるチャンスに飢えていたりするものだ。

そうすれば少なくとも自分は救える。

「なんとかしてみましょう。とにかくみなさん安全なところに避難してください」

ことはトントン拍子に進んだ。

最後に店長が僕の肩を叩いて店の外に出た。

「まったく犯人もなんでわざわざ鮮魚コーナーに仕掛けるんだ?ダイナマイト漁と間違えたのかな?」

一人で呟きながら、しゃがんで、時限爆弾と対峙する。

細かくはわからないが、ざっと見積もってこの店が軽く吹っ飛ぶ量の爆薬だ。

これはマジな話だが、爆弾には2種類ある。

液体窒素とか使ってじっくり処理する時間があるやつと

あと1分少々のやつだ。

チキショー。

店内の電話がなり、ビクッとする。

犯人からかと思い、取ると、爆発物処理班の人だ。

“今出た”とか“これから向かう”とか、“もう出た”とか蕎麦屋の出前的なことを言った後で、「ブルーとイエロー2本の線のうちどちらか一方を切ってください」と、さりげなく丸投げされた。

下請けの下請けをまに受けた気分だ。

さて、はじめますかね。

僕は時限爆弾のブルーとイエローの線を持ち、文具コーナーから持ってきたハサミを交互にあてがった。

いったいどっちだ……。猫の手も借りたいくら位に入れづらいハサミだ。

すると、「にゃあー」とすぐ近くで聞こえた。

え?猫の鳴き声。

見るとそばに黒猫がいた。

なんで?魚の匂いに誘われたか?まさか犯人??な訳ないか。

その猫をよく見ると、その目はなんとオッドアイ。ブルーとイエローだ。

黒猫にオッドアイは珍しいと聞く。これは幸運の前兆かな。

刻一刻、タイマーの音。

「どっちだと思う?」僕はすがる思いで猫に聞いてみた?

すると黒猫は片目だけゆっくり閉じた。

── イエロー。

僕は頷いて、イエローの線を思いっきり切った。


カチッ。

やった!タイマーが止まった。

何も起こらない。

助かった。

このあとはマスコミにもみくちゃにされるだろう。

僕はおしっこちびってないか確認してから、身だしなみを整えつつ、猫にお礼を言おうとした。でももうその姿はなかった。

魚でもくわえて帰ったか……。

偶然だろう。

僕は爆発物にピンッとデコピンを喰らわした。


💣  💣  💣  💣



その日から僕の人生はガラリと変わった。

まるでそれまでの人生が全て吹っ飛んだみたいに。

僕は行先々で爆弾に遭遇した。

オフィス、公園、球場、発電所、ありとあらゆる場所だ。

テロリズムもここまで来ると、もはや第三次世界大戦と言っていいんじゃないだろうか。

憎むべき犯人の意図もまったくわからないまま、しかし、僕は毎回、爆発物処理班の人と間違われた。

そして、毎回とても時間がない。ドラマでしかあり得ない展開がこんなにあると、現実とは見逃し配信なんじゃないかとさえ思える。

「とにかくお願いします」

立場は人を作るというけど、爆弾は人を作り上げる。

僕は毎回ことにあたり、すっかり“流しの爆発物処理班”としての地位を確立してしまった。

でも実はそこには、裏があって、毎回みんなが避難したあとに、例のオッドアイの黒猫が現れて、片目を瞑ってヒントをくれるのだ。

ブルー  イエロー  ブルー  イエロー

凄まじい成功率

だから僕はここにいる。

たまたま爆発物に通りかかってなんとかしてしまうくらい神対応なことってないだろう。

この世の中はいつだって二つだ。

ブルー  イエロー  ブルー  イエロー

気分に似た色だ。

とにかく気分がいい。

そんな風に僕が喜びを噛み締めていると、「ワンワン」と犬の鳴き声。

今度は犬か。また幸運かな。

見るとそれは爆発物探知AI犬だった。

僕の体をくんくん嗅いでいる。

マジか嘘だろ。

ワン!


その吠え方を聞きつけて、すぐに本物の処理班の人が集まってきた。

「動かないで!あなたの体に時限爆弾がセットされている」

さらっと言っていいことと悪いことがある。

そしてもちろん悪いほうだ。

なんとかしてくれようとしてくれるところを僕は制して、「僕に任せてください」と不適切気味に発言した。

なぜなら僕には自信があるのだ。

「とにかくみなさん僕から離れてください」

まずは体を探ってみる。見つけた!

こんなところに、いつのまに……。

てかセットされて気づかない僕も僕だな。

いつも通りの手順で2本の線を引っ張り出す。

楽勝だ。

と、


思ったが違った。今回は。


両方とも白だ。

なんだよ聞いてないよ💦

流石に焦って来た。

タイマーの音と僕の跳ね上がった心拍音がシンクロする。

もう時間がない。

猫は?猫は来ないのかよ

「にゃおにゃお」

あっきた!

でも白猫だ。いつもと違う。

それに目がオッドアイじゃない。

「なんでもいい、ヒントをくれ」僕は叫ぶように言った。

“にゃおにゃお”

白猫は僕を向いて、ゆっくり両目を瞑った。

両目を……だ。

さらに猫の背中から羽が生えてさっと羽ばたくと大空へと消えていった。

なんだよ置いてけぼりかよ、チキショー。

カチッ

時間切れの音。

そして…そして…


真っ白な世界が僕を包む。

何もない白い世界。

そう

そうなんだ。

これが、すなわち、あの失恋の時に僕の頭の中で起こったショックさ。

キミが聞いたからドラマチックに説明したまでさ。



                      終







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