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あのたび -重い腰をあげる-

 シンガポールに赴任している友人Nの部屋に転がり込んで2週間になってしまった。いつまでいてもいいよという言葉に甘えてぐだぐだしている。ナイトサファリに行ってみたら? と提案されるのだがそれすらもめんどうだ。DVDを見たり本を読んだり近場を散歩したりしているだけで働きもしていないので完全にひきこもりに近い状態であった。

 日本を船で出国しほぼ1年になる。中国とベトナムのビザだけは取得していたがあとは一切決めていなかった。旅行資金100万円弱だけ持ってあとは帰国しなくてもいいやという投げやりな旅だった。親兄弟にも内緒で家財道具も処分済みなので戻るべき場所も無い。

2002~2003年の旅路

 中国からスタートしおおよそ数字の6の字のように周った。理由は単純で持っているガイドブックが、『地球の歩き方・東南アジア編』と『旅行人・メコンの国』だけだったからだ。中国・ベトナム・カンボジア・ラオス・タイ・マレーシア・インドネシア・東ティモール・フィリピン・ブルネイ・シンガポール。

 ひとつ自慢できることと言えば一切飛行機を使っていないことだ。船とバスと電車だけでこれまで移動してきた。ただし世の中にはもっとスゴイ人もいる。飛行機を使わずに6年かけて世界一周したダイスケさんという方だ。配信終了したポッドキャスト『たびたびニュース』でお話されていたので知りました。以下で記事になっています。

 それに比べると自分の行った範囲と国の数はごく狭いし少ない。全く誇れるものではない。残りの資金は10万円ちょっと。
 これまでアジアで会って話した旅人はインドへ行く予定だという者が多かった。そしてパキスタンから中東を抜けヨーロッパへ行くという小説『深夜特急』の人気ルートである。

 ただそれをするには飛行機でインドに飛ばなければならないし情報が全く無い。20年前の当時はスマホがなくネットは黎明期。本の形式のガイドブックか個人旅行ブログくらいしか無かった。圧倒的に知識が少なく不安である。お金も足りないだろう。

 バリであったバックパッカーは、中国からモンゴルへ抜け北からヒマラヤ山脈を越えてネパールへ行けると言っていた。興味はあるが山を登る装備はない。またイスラエルにはキブツというコミュニティがあり自給自足で暮らしている。旅行者や外国人も受け入れているらしいという話も聞いた。そこへ行くのもいい。
 そういった諸々のことを考えてどうしようと悩んで結局ずっとシンガポールから動けずにいた。

「チケット買った?」と友人Nが聞いてくる。長居しすぎたようだ。
「仕事紹介しようか、恩田さんエンジニアやってたんでしょ」とも。

そのSEの仕事で嫌になって辞めたんだよ。またやる気は無い。海外で働くのには興味があるが英語力が圧倒的に足りない。

 当時は物価が安く、約1年間の東南アジア旅行で60~70万円ほど使った計算になる。移動をしないで1都市に滞在するならばおそらく1ヶ月3万円あれば暮らしていけるという体感。宿代1泊500円、食費3食で500円✕30日というアバウトなんだけれども。

 将来暮らしたい国はダントツでタイ。人も優しく物価も安くメシもうまく暖かい。コンビニの店員さんですら笑顔でコプクンカー(ありがとう)と言ってくれる素敵な国だ。
 中国の麗江は石畳でできた映画セットの中のような町で素敵だったが冬は寒い。ベトナムは食べ物が一番美味かったが圧倒的に人が悪い。バイクの排気ガスとボッタクリが多すぎて疲れる。世界遺産はカンボジアのアンコールワット遺跡群が最高だ。何もなく静かなラオス。島でのんびりするにはマレーシア。山や渓谷、動植物に感動したのはインドネシアとバリ。紛争直後で国土が荒れていて昭和初期を思わせる東ティモール。ビールと肉が安く酒飲みにはたまらないだろうフィリピン。最先端の国シンガポール。

 そうやってボクは住みたい国を探しながら歩いていたのかもしれない。しかし住むことを目標とするにもお金がもう無い。もっと他の国も知りたい。

 そう考えを巡らせて結論が出た。帰ろうか、日本へ。と

 働いてお金を貯めてまた旅に出るのだ。それが旅人だ。でも今いるシンガポールから日本へ飛行機で飛んでしまうのは味気なさすぎる。1年かけた道のりが5時間で終わるなんてしっくりこない。とはいえまた北上し陸路から日本を目指すのは遠すぎる。一度通った道を戻るのもつまらない。

 そこで東南アジアでまだ立ち寄っていない香港へ飛ぶことに決めた。可能ならばそこから船で台湾、沖縄、九州と進むのが旅の締めくくりとしては良いだろう。

 旅行代理店を何軒かまわり、シンガポールから香港へ2日後の航空チケットを購入した。298S$+TAX28S$。合計約21000円。飛行機のチケットは買ったことが無いので高いか安いかわからない。こんなものだろう。

 旅の終わりが近づいている。寂しい

シンガポールルート

(つづく)


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