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フィンランドでの設計スタジオ(秋学期編)

 12月13日に最終発表があり、9月から始まった設計スタジオも終わりを迎えました。秋学期の中で1番時間をかけてきたこのスタジオの様子や学びをまとめてみたいと思います。

履修の様子

 アアルト大学ではMasterの正規学生は最低二つのスタジオの履修が求められているようです。交換留学は単位がそれほど必要な人は多くないと思いますが、各学期30ects相当の履修を望まれるため、単位数の多いスタジオを取ることは選択肢に上がりやすいです。Studio Autumnは12ectsでかなりの単位数をこの授業でカバーできます。
 このスタジオは6つぐらいのテーマで構成されていて、最初に自分の取りたいテーマの希望を出して、人数が多すぎなければそのままそのテーマに配属になります。僕はここでBuilding design studioに希望を出し、そのまま通りました。アートに触れることが留学のメインの目的だけど、建築物をちゃんと設計できるようになりたいと思い、このテーマを選びました。

授業の概要

 Building design studioはヘルシンキに現在あるフィンランドデザイン美術館とフィンランド建築博物館を統合した新しいミュージアムを設計するテーマで行われました。現在の建物の老朽化の問題や世界に向けた文化の拠点を新たに作りたいという想いがあるそうです。この話題は現実のプロジェクトとして進んでいるもので、今はコンセプトを固めている段階です。実際わからないですけど、何か現実の案に反映されることがあるのかも?

 敷地はヘルシンキ南の港、フェリー乗り場の近くです。オールドマーケットやスタータワーマウンテン公園などのスポットがあり、比較的元の二つのミュージアムから近い立地になっています。
 海外に関心ある人は「ヘルシンキ グッゲンハイム コンペ」とかで調べてみるといいかもしれません。このコンペと同じ敷地の北半分が自分達の設計する範囲でした。 

敷地周辺 西には元のミュージアムがある

授業の進め方

 この授業はレクチャー(一応別の授業)と一緒に履修することが条件でした。毎週火曜日午前中レクチャー、午後エスキス(こっちではtutoringって言います)の流れで2ヶ月ぐらい行い、最後の方はレクチャーが終わってエスキスだけ毎週行っていました。大きな流れはこんな感じで3ヶ月進みました。
 設計はグループワークではなく、一人で行いました。自分の課題や興味を突き詰めたかったので、この形式でよかったです。
 また、エスキスとレクチャーに加えて、みんなでストックホルムに見学旅行に行ったり、グループで事例調査を行い発表するといったこともプログラムに含まれていました。
 これらの内容や進め方は日本のスタジオとあまり変わらない印象でした。見学旅行にちゃんとお金を出してくれるところは嬉しいポイントでした。

見学旅行 in stockholm


9/15-9/18の間で隣国スウェーデンのストックホルムに見学旅行に行きました。行き帰りのフェリーで一泊づつ、ストックホルムで一泊の3泊4日の旅行でした。
1日目はミュージアムを回りました。national museum とarkdesはそれぞれキュレーターの方の解説を聞くことができました。美術館の説明や展示の考え方などすごい興味深い内容でした。建築物の設計だけでなく、運営などの視点もインプットできた気がします。

National museum sweden

その後行ったリリエバルク美術館はとても自分好みの造形で、ファサードの洗練のされ方にとても感銘を受けました。内部は時間の関係で見れませんでした、、、
近現代の建築が好きな人なら気持ちわかってくれるんじゃないかと思っています。

リリエバルク美術館 新館ではなく旧館が好きです

 この日の夜にはÅrsta churchの設計者であるJohan Celsingの事務所にお邪魔し、事務所のプロジェクトについてお話を聞きました。次の日には実際Årsta churchに向かい現地での説明もしていただくというかなり有意義な時間でした。質問をできるタイミングがあったので、窓のディテールについて尋ねたところレンガ造ならではのマッスな存在感に対する考え方を教えていただきました。景色をフレーミングする上で開口部の厚みが印象を変えること、それを凹凸のあるディテールにすることで軽い印象に変える工夫にとても感銘を受けました。留学の最後はこの人のところでインターンしてみたいな。

Årsta church

ちゃんと森の墓地も行きました。

有名な十字架

エスキスや中間講評の様子

 このような旅行でのインプットを経て、エスキスがスタートしました。
 最初から進め方が少し違うなという感じがしました。海外、少なくともフィンランドではコンセプトの部分の深い探求をし終えた後、形に進むというような流れではないのかもしれないと当時思っていました。日本でのスタジオは美術館というプログラムが決まっていてもどういう存在であるか、地域との関わり方とかリサーチやコンセプトの段階と設計段階が分かれている印象でしたが、進め方はかなり違うことに最初はびっくりしました。
 今終わってから振り返ってみると、コンセプトの探求はスタジオの主題ではなかったのかもしれません。それよりも建築として、大きな公共建築を成り立たせる手法の探究をすることがこのスタジオで求められていたと思います。そう思うと、もっと意識的に形の論理を考えるべきだったかもしれないと思いました。ブラッシュアップ時の課題にしたいと思います。
 そのような進め方の中で特に重要視されていたのが、平面計画です。利用者が迷うような動線にしないとか、エントランスの位置はこっちがふさわしいとか人に寄り添った目線で空間のプランニングをすることが求められていました。断面の話はあまりしなかったような気がする。居室の名前を毎回のエスキスでしっかりと入れてその上で一緒に検討をすることがこのスタジオの中で1番長い時間だったかもしれません。
 マテリアルなど、ディテールの話もできたことも自分にとって大きかったです。今回は日本ではあまり見かけないレンガのディテールにチャレンジしてみました。
 模型はボリューム模型しか使いませんでした。誰も1/500以外の模型は持ってきていなかったと思います。モデリングでの検討がやっぱり海外では主流なのかなと感じました。一回耐えきれずに1/200の模型を作ったところから案が進みだしました。

最終から2週間前ぐらいのボリューム模型1/500

スケジュール感

 スケジュールに関しては、海外の人は徹夜をしないイメージを自分は思っていました。スタジオを経て、確かに限界まで起きて振り絞るように案を作る人はいない気がします。夜遅くまで残って作業する人は大体アジア人だったかも笑
 思うに、日本人は仕事が大好きなのではなく、スケジュール管理をしようといないだけなのかもしれないと今は感じています。日本で、同期と話していても、後輩とのエスキスでも4週間前からレイアウトの作業やタスクをスケジュールに当てはめる人はほぼいなかったと思います。このスタジオでは大体提出の3〜4週間前から必要なプレゼンテーションの内容やレイアウトを考え、逆算して制作を行なっていました。これが普通ならそりゃ徹夜なんかするわけないなと思わされました。時間を資源としてちゃんと捉えて、そこに損得の考え方が根付いているのかもしれません。長くやることが正義ではなく、それだけ長くやってしますとどんどん損につながっていってしまうっていうことをしっかり覚えておきたいと思います。

評価のされ方

 初めのうちはコンセプトはいいけど、形がよくわからないとずっと言われてきました。シンプルにしろって毎回のように言われていた気がします。コンセプト発表会、中間講評は共に芳しくないまま進んでいましたが、プランを丁寧に毎週見せることを意識して、シンプルに収めようと考え始めてからは順調に進み最後は先生方はみんな褒めてくれました。好意的な講評だったと思うし、「あなたの案はとても発展したし、このスタジオで得たものは多かったんんじゃないか。」というような言葉もいただきました。一方でプランとファサードはまだ検討の余地があるという評価ももらい、それはその通りだなと受け入れられました。またコンセプトがスタジオを通して一回も変わらなかったことを自分も含めて何人か言われていました。それもいいところだったのかな、、、

加工前俯瞰パース

まとめと今後の課題

 最後にこのスタジオでの学びをまとめていきます。
建築のプランニングに関する意識の変化
 しっかり収める、使いやすい空間を目指すことの大事さが勉強になりました。人間の感覚に寄り添うフィンランドだからこそ、得られたことかなと思っています。
ディテールまで考えて、空間構築をする
 ディテール図面を求められたことで立面、平面、断面との関係をより深く考察できるようになったと思います。
大きい建築に対する苦手意識の解消
 自分の中では過去二番目ぐらいの規模の建築でしたが、丁寧に積み重ねるような設計ができたと思います。元々よくやっていた規模のものではないので、まだ甘いところはあったと思ってはいますが、先生たちの言葉を信じてこれから伸ばしていこうと思います。
スケジュール感の正確な把握
 きつい設計になってくるほど、怖くなってきてスケジュールの把握から逃げてしまうことはあると思いますが、逃げずに向かい合うことが結局1番不安や焦りを取り除けるんじゃないかなと気づきました。元々スケジュール整理する癖はあったので、より磨かれたと思います。
・コンセプトを最初から最後まで貫く
 このスタジオを通してコンセプトは一回も変えませんでした。解釈を別の視点にしてみたとかもなく、最初から最後まで同じダイアグラムを用いて空間を考えられたことは初めてでした。短い時間だからこそ、強いアイデアにできていたのかもしれません。

 次に今後の課題についてです。
 このスタジオの中でだいぶ克服できたと思っていますが、設計する際に形の論理にもっと意識的になることは依然として課題です。今までコンセプト、ストーリーの部分の話が長くて、図面とかパースになると、一瞬で話すことがなくなることがあり、そこがすごい嫌でした。そこを克服するために留学に来る前からこのスタジオを取ろうと決めていました。この部分は改善は見られたものの、まだ自分で意識しきれていない部分がある気がします。単純に設計の時に意識するだけでなく、建築見学するときも少し意識して見てみることで、より自分の感覚を探求してみようかなと思います。
 もう一つ課題としては、ストーリーとは別の、形を作るための自分の武器や視点を見つけたいと思っています。

 冬休みは長めのヨーロッパ旅行に出かけるので、リフレッシュメインにしながら、このスタジオで得たことを反芻しながらじっくり建築見学してみようと思います。読んでくださった方、長い文章になりましたが、お付き合いありがとうございました。

成果物

最終成果物のスライドはここに上げています。
よかったらご覧ください。

https://issuu.com/daikitoyama/docs/helsinki_homebase_of_art_daiki_toyama


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