見出し画像

グラフィック・デザイナー(50代)の苦悩 テーマ#04 A、B、Cの約束

みなさん、こんにちは。フリーランス・グラフィックデザイナー(50代)のブブチチと申します。デザインを生業にして30数年。気がつけばシニアと呼ばれるにふさわしい年齢になっていました。noteでは、デザイナー人生においての出来事や学んだ事を自身の体験を交えながらつらつらと自由に書き連ねています。お時間ございます時にゆるくご一読いただければとても嬉しく思います。

まだまだ残暑厳しい毎日ですね。みなさんはお変わりなくお過ごしですか?僕はと言いますと、つい最近は少し大きめの競合プレゼン案件のお手伝いをさせていただきました。この文章を書いている時点では残念ながらその結果はまだ出ていないのですが、せっかくの機会なので、今回は提案するデザイン案についてのお話しを少しだけさせてもらおうかなと思います。

3つの案、セオリーと関係

多くの場合、僕たちデザイナーは、ワークに着手する前にクライアント側からその案件における要望や条件についてのオリエンテーションを受けます。口頭で済んでしまう規模の場合もありますし、いったいこれを作るだけでどれだけ時間がかかったのだろうと思うほど分厚く要件がまとめられた立派なオリエンシート(というかオリエンブックと言っても過言ではないもの)を渡されることもあります。僕たちはそこに書かれている様々な要望や条件、または参考資料などを丁寧に読み解きながらデザインワークに着手するわけですが、提案のために制作するデザイン案がひとつだけということはまず滅多にありません。もちろん全てのデザイナーの方がそうだというわけでは決してありませんが、提案においては、たいてい自分なりの格付けをした3案くらいを用意することが多いと思います。中には10案近く用意するデザイナーの方もいらっしゃいますが(気持ちは良くわかります)、僕の場合はやっぱり3案くらいが一番多いかな。

3案にはA案、B案、C案という風に名前と順序が設けられます。

A案:
オリエンシートに提示された条件や要望を十二分に踏まえ、クライアントのブランドイメージから大きく乖離しないよう細心の注意を払いながら、新しい見え方を提案するもの。明日から市場に出てもなんら抵抗がないようなリアルなもの。とっても優等生な案。

B案:
原則A案の流れを汲んだ別バージョン。が、クライアントの要望からはみ出したエッセンスを盛り込むことがしばしばある。そもそものコンセプト的なことだったり、メディアの形態的なことだったり、すでにあるブランドイメージからの若干の冒険だったり。言うなれば実施するには少しばかりの勇気と社内説得が必要かもしれないけれど、市場に対してとってもインパクトあるよねというような案。

C案:
AにもBにも関係なく、またオリエン条件もあまり気にせず(気にしないと言っても必要最低限なことはもちろんきちんと守りながら)、大きくクリエイティブ・ジャンプを図るようなアイディアやデザイン案。ユニークかつインパクト最重視。自由奔放な案。

うまくご説明できているか、いささか自信はありませんが、僕の場合はざっとこんなカテゴリーでABCの3案を制作することが多いです。そうそう、あまり大きな声では言えませんが、戦略のひとつとしてD案を作ることもたまにあります。これは推したい案をより輝かせるための比較材料として用意する案です。ほら、価格戦略法のひとつによくあるでしょう?例えば、松18000円竹12000円梅7000円、高すぎず安すぎずの本命の竹12000円を売りたいがための梅7000円の存在。D案は梅7000円に該当するようなもので、決して採用されないように細心の注意を払って制作される(笑)、いわば捨て案です。

話が横道にそれてしまいましたね。ごめんなさい。話を元に戻しますと、僕は本命をB案に設定することが多いです。順序からすればA案では?と思われがちなのですが、誤解を恐れずに言えば、実はA案は言い訳ができる案なんです。「もっとこうしたかったけど御社の要望にそぐわなかったのでこういう表現にした」とか「本当はこうありたかったけど予算条件があわないのでこうした」とか。とにかくオリエンで提示された要望や条件をバカがつくほど真面目に守って考え、絵にしたものがA案なので、僕にとって制限も多いA案というのは、ある程度の調整というか妥協が含まれている場合がよくあります。

でも、これはこれで絶対に必要な案なのです。なぜならプレゼンテーションの順序からいえば、当然A案を一番初めにプレゼンテーションします。ここで事前に言われた事から大きく乖離したものをプレゼンテーションしてしまうと、クライアントに「この人はオリエン内容をちゃんと把握しているのだろうか?」「弊社のことをわかってくれているのだろうか?」とぬぐえない不信感が生まれます。そうなるともう手遅れ。続くB案もC案もほとんどお相手の心には届きません。昔はそれで何度も苦い思いをしました。真面目なA案で安心いう地盤をしっかりと作って、冒険要素を含んだ本命のB案につなげる。このコンビネーションが好き。

C案の魔力

でも、これを読んでくださってる賢明なみなさまなら、もうお気づきですね(笑)。そう、ここまでAだのBだのと散々偉そうに語ってきましたが、結果、なぜかC案が採用になって競合プレゼンに勝利することがままあります。

「えっ〜!?」と幾度そんな体験をしてきたことか・・・。クライアント的にも越えなければいけない壁やハードルを多分に含んだ恐ろしいC案がなぜに勝利要因になるのか?競合プレゼンに勝てたことには、ゴールを決めたサッカー選手のようにクネクネして喜びをアピールしたいけど、これから進むイバラの道を思うと思わず苦笑い。

勝手な解釈ですが、おそらくC案が採用になる理由は、上手に肩の力が抜けた押し付けがましくない感がC案にはあって、それがとても良い方向に作用しているからではないだろうかと思ったりしています。しつこいようですが、僕はA案とB案にそれはそれは多大な集中力と精力を注ぎ込みます。まさにこの身を削り、この世に生み出す自身の分身という思いで。そんな思いと労力を経てからとりかかる最後のC案は、スタンスがちょっとちがっていて、なんといえばいいのだろう・・・ここまで頑張った自分へのご褒美みたいなものと言えるかもしれません。こんな事したらクライアントは驚くかなとか、こんなふうに書いたら笑ってくれるかなとか、まるで親しい友人に向けて誕生日カードを書いているような「うふふ」感がそこにあります。それをみて楽しんで欲しくて、驚いて欲しくて好きに創ったものがC案なんです。決して、媚びることも迎合することもない。だからでしょうか?C案に託した思いが魔法のように見る人を魅了してしまう意外性にはいつも驚かされます。

じゃあ、AもBもそうしろよって話なのですが、これはまた違う話なんですよね。やっぱりA,B,Cそれぞれが、もちつもたれつの相互作用があっての結果なんだろうと思います。

最後までお読みくださって本当にありがとうございます。
今日という日もみなさんにとってかけがえのないそんな一日になりますように・・。では、また。

                                ブブチチ



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?