見出し画像

BUGプレオープンイベント「子育てと制作と仕事」イベントレポート(2023/8/3〜5開催)

みなさん、こんにちは。株式会社リクルートホールディングスが運営する新アートセンター BUGのスタッフです。
BUGは三つの活動軸があります。それは、①BUG Art Award、②BUGで開催する展覧会、③アーティストやアートワーカーのキャリア支援、です。

今回は、③につながる取り組みとして、黑田菜月さん(アーティスト/フォトグラファー)、山口梓沙さん(写真家/会社員)と「子育てと制作と仕事」というイベントと、「子育てと制作と仕事について話す」という座談会を開催しました。
ちなみに黑田さんは、第8回写真「1_WALL」のグランプリ受賞者であり、BUG Art Awardの関連イベントであるアーティスト4名による『公募トーク』にも登壇いただきました。

今回は、「子育てと制作と仕事」の開催レポートをお届けします。



「子育てと仕事と制作」の概要と開催経緯

黑田さんらは2021年から、「子育てと制作」の座談会を開催されてきました。これは、子育て中のアーティストや子育てと制作というテーマに関心を持つ人を対象とし、それぞれの状況や子育てをする前は想像もしなかったことについて、共有し合う場です。対話の中から、子育てと制作/仕事の両立のために必要な環境、周囲の人にできること、当事者ができることを検討するきっかけになることを目的としています。

黒田さんも山口さんも子育て経験はありません。しかしながら黑田さんは、子育てと制作の課題に直面していた知人の写真家、阿部明子さんの悩みに応える形でこの取り組みを始められました。

※黑田さん、山口さん、阿部さんへのインタビュー記事も併せてご覧ください!

今回、BUGでは「子育てと制作」座談会をアーティストだけでなく、リクルートグループ従業員にも対象を広げて開催しました。アーティストとリクルート従業員という、バックグラウンドや生活、
価値観などが異なる者同士が交わることで、今まで当たり前だと感じていたことに疑問を持ったり、新たな発見が生まれることを期待しました。



「子育てと仕事について話す」の様子


それでは実際にどのように、アーティスト×リクルートグループ従業員の座談会が行われたのかご紹介します。

当日は、3時間かけて下記の内容を行いました。

<座談会の流れ>

①子育て経験がある人とない人、アーティストとリクルート従業員が混ざった2~3名のグループ×3で実施。まず、それぞれの自己紹介を行います。

②グループ内で、子育て未経験者が、子育て中の人に対して“1日の過ごし方”をヒアリングし、紙にタイムスケジュールを書き起こします。

参加者の様子(撮影者:黑田菜月)

③全体で集合し、それぞれが書き起こしたタイムスケジュールを共有します。ここで、それぞれのグループの違いを感じます。

④再度グループに戻り、子育て未経験者が子育て中の人に対して、“子育てと制作/仕事”を行う中で、良いと感じること/悪いと感じることをヒアリングし、付箋に書き出します。

⑤付箋を大きな模造紙に貼り出します。貼り出す際は、横軸が「悪い↔︎良い」、縦軸は自由に設定したマトリックスを使用します。
例えば縦軸は、外的要因↔︎内的要因、制作(仕事)↔︎子育て、パートナーとの関係状態などが入りました。

⑥もう一度全体で集合し、貼り出した内容を共有します。グループ内で出た意見、ワークを進める中でつまづいた点、他のグループの付箋を見て感じたことなどを各々の視点で説明します。

⑦最後に子育て中の人は任意で、悪いと感じることとして挙げた内容を、“人に相談するならどんな言葉に変換するか”考えます。そして、相談に変換した内容は、イベント会場内の“相談コーナー(詳細後述)”に貼り出します。


3時間のワークと聞くと、長く感じられるかもしれませんが、終了時には「時間がもっとほしいー!」という声もちらほら出ていました。
他にも参加者の方からいただいた声の一部をご紹介します。

参加者の感想

「普段、制作と子育てについて話す機会が全くなかったので(男性特有の雰囲気かもしれません)とても良い機会になりました。子育ては基本楽しく感じているですが、同時に少しづつ辛さが積もり、またそれらを言語化したり誰かと共有することもできないまま、いつの間にかとても苦しくなっている日が、そういう朝を迎えている自分に気がつきました。
イベントで特に印象的でしたのは、疑問文にしてみよう、助けを求めるときのセンテンスにしてみよう、という最後のプロセスでした。
日々の複合型ピタゴラスイッチの連鎖の中では大変さの原因か切り分けられなく、またそれは同時に助けの求め方がわからないということでもあります。それを短いヘルプ/クエスチョンのセンテンスに変換するのは難しいというのも発見でしたし、その難しさを共有できたのもとても大事なことだと思いました。そしてこれは今の私に必要なことだろうと思いました。」

「現在子どもは居ないがいつかは欲しいと思っている身です。周囲(非アーティスト、美術系)の子育て話を聞いていると、その大変さに『やっぱり子育てと制作と仕事を並行させるのは難しいのかも...』と諦めのような気持ちを抱えていました。でも、今回みなさんとお話しして、諦めずもがかれている様子、試行錯誤から生まれたノウハウを知れ、かなり前向きになりました。」

「自分の今の状況を客観的に振り返ることができてよかったです。子育て、仕事、制作を両立するためにも、もっとためらわずに周りのサポートを得られるようヘルプを出そうと思いました。」


会場の様子ご紹介

また今回は、「子育て当事者ではない人たちにも気軽に足を運んでほしい!」という思いで、会場を開放し、いろいろな方にお楽しみいただくためのコンテンツを用意しました。
それぞれの内容を簡単にご紹介します。

子育てや仕事に関する相談コーナー
多様な考えを持つ人々の交流を促すため、誰でも自由に書き込める相談コーナー(掲示板のようなもの)を用意しました。実際に書き込まれた相談は、“自炊したくないことへの罪悪感”や“肩こり”、“友人との付き合い方”など、多岐にわたる内容でした。その相談に対して、たくさんの共感やアドバイス、はたまた質問などが投げかけられました。

寄せられた相談(撮影者:黑田菜月)

選書コーナー
アーティストやリクルート従業員であるBUGスタッフによる選書です。子育てや制作、仕事に関連するバラエティに富んだ書籍が集まりました。
選書一覧と推薦理由を書いたリストはこちら。推薦理由が興味深く、どの書籍も読んでみたくなります!

のびのびスペース
一休みしたり、足を伸ばしながら読書、お絵描きのできるスペースです。
夏休み期間ということもあり、たくさんのお子さんがのびのびしてくれました。

アーティストによる展示
テーマ「小さくても一つ」
壁面を使用し、過去に「子育てと制作」座談会に参加された5名の展示を実施。生活する中で見出した作品の欠片のようなものや、現在取り組んでいる活動等を紹介しました。

<参加アーティスト一覧(五十音順)>

▶︎ 阿部明子(写真家/自営業)
▶︎ 池 亜佐美(アニメーション作家)
▶︎ 小林太陽(アーティスト)
▶︎ 船木菜穂子(写真家)
▶︎ 山口真和(美術作家)

阿部明子さん展示風景(撮影者:黑田菜月)
池 亜佐美さん展示風景(撮影者:黑田菜月)
小林太陽さん展示風景(撮影者:黑田菜月)
船木菜穂子さん展示作品(撮影者:黑田菜月)
山口真和さん展示風景(撮影者:黑田菜月)



イベント後記(黑田菜月さん&山口梓沙さんコメント)

イベントの様子ご紹介はここまでとし、最後にイベントを主催した黑田さんと山口さんからのコメントをご紹介します。

黑田菜月さんより
この度は、イベントを開催させていただきありがとうございました!
立地が良く、日差しが注ぎ込むこのスペースで、たくさんの方と交流し、話をする機会を設けることができとても嬉しいです。
「どうして座談会をやっているの?」ということを度々問われてきたのですが、”友だちの声に対するリアクション”でしかなく、私自身が何かしらの目的意識を持っている訳ではありません。そんな風に答えると「良い人」のように扱われたりします。もちろん(?)その印象を継続して持って欲しい気持ちもありますが、実際のところ、こうした行動を特別だと感じないで欲しいです。友だちが困っていた時に、周囲が具体的な行動を取ることが、自然なことであって欲しいと願います。

山口梓沙さんより
今回の座談会では、複雑な家族構成のはなし、収入の話、パートナーとの不和の話、制作の行き詰まりの話など、とても個人的な話がされました。
それらを初対面の人と赤裸々に話すのは、異様な事にも思えますが、だからこそ、「子育てと制作」を両立する難しさが、当事者以外の人と共有しづらく、話したくても話せない話題であることがわかります。

今回はBUGの場所の力もあり、これまでの座談会よりさらに多くの属性の方が集まってくださいました。
お子さんの年齢、生活と制作の距離、子育てをする予定の有無など、それぞれに状況が異なるので、全てを共感し合える訳ではありませんが、座談会後の会場には、「境遇を理解してもらえる相手に、自分の経験を話することができた・話を聞いてもらえた」という喜びと、ある種の熱気のようなものが漂っていました。

─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ 

ここまで記事を読んでいただき、ありがとうございました!
今後もBUGでは、様々な方法でアーティストやアートワーカーのキャリア支援を行なっていきます。まだまだ発展途中のスペースなので、いろいろな方々と協働し、この場所をつくっていきたいと考えています。

そして、いよいよ2023/9/20には柿落としの展覧会として、雨宮庸介個展「雨宮宮雨と以」を開催します。BUGにお越しいただいたことのある方も、まだの方もぜひこの機会にご来場ください。