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憧れの少年少女  津原泰水さん


また、私の好きな小説家が旅立たれた。
あまりにも若すぎて、衝撃である。

今年、西村賢太氏に続く訃報であり、大変にショックである。
こういうことがあると、「事とは重なるものですね。」という、シャウアプフの言葉が思い起こされる。

私の好きな作家さんは基本的に鬼籍に入られた方ばかりで、ただ一人、直にお会いしたことのある作家さんは、津原泰水さんだけである。
と、言ってもファンと作家の間柄であり、サインをもらっただけである。なので、津原さんは当然覚えてもいないだろう。私はただの読者の一人に過ぎない。

津原泰水さんは少女小説家であり、津原やすみとしてデビューされた。少女小説からミステリー、またはシュルレアリスムのSF作品など多岐にわたる作品を書かれていたが、中でも一等お気に入りで、私が彼の作品で最も愛している作品は『バレエ・メカニック』である。


これはSF映画であり、耽美の御伽噺であり、未来のイヴである。

まさに!何が起きているのか、三半規管を弄くり回されて、平衡感覚を絶たれたかのように夢見心地の描写が続き、最後には主人公である父とその娘、美しい十六歳の眠り姫である娘との一瞬の邂逅に収斂される。寂しい、記憶の、電子の砂浜において。

今でも、その一文の美しさは筆舌に尽くしがたいし、文学という、文字芸術における愉悦を堪能できる文章である。文章という糸、津原泰水さんの糸というものは、思いつきではない、幾層ものレイヤーを重ね合わせた末に出来上がったものであり、それで編み織られたタペストリーは映像表現に匹敵もするし、いや、それ以上の強度と興奮を持って、新しい視覚を読者に与えてくれる。
この『バレエ・メカニック』という傑作SFこそアニメーション化されるべきだし、これこそが正当な『ブレードランナー』や『ブレードランナー2049』に親しい魂を持つ最高の文章芸術である。

日常の中の幻想、文章の中の幻想。津原泰水さんの小説は幻想小説であるが、そこには両性具有めいた、美しいさなぎの少年少女、或いは魂だけ子供のままの屁理屈ボーイと無鉄砲ガールが跋扈していて、それが堪らなくキレイなのだ。

その綺麗な少年少女、時には人形たちは、どこか、懐かしい世紀末の匂いを醸し出していて、それは津原さんの友人の四谷シモン氏の作った人形と同質の無機質な天使たちである。

私は、津原泰水さんのサインを頂いた時、『バレエ・メカニック』の文庫版を差し出した。その本にさらさらとサインを書いてくださり、『御名前は?』と尋ねられて、名前も書いて頂いた。
なので、『バレエ・メカニック』が2冊、私の家に置かれている。


水のように透明な文章


美しい文章と芸術をありがとうございました。
地上とは思い出ならずや。

以前、私の書いた津原さんの記事をここにアップさせて頂きます。


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