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どついたるねんと脳みそ、或いは原田芳雄


1989年の公開の映画で、『どついたるねん』という映画がある。

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これは赤井英和主演で、阪本順治監督のデビュー作品である。

阪本順治監督はこの後、赤井英和と『王手』などでもタッグを組んでいて、どちらも通天閣界隈を舞台にしている。『王手』は将棋の真剣師の話で、賭け将棋に生きる男の話である。

阪本順治監督は他にも『ビリケン』などの新世界を舞台にした作品を多く撮っていて、私は十数年前に、大阪の映画館で『ビリケン』の上映会があって、そこに阪本順治監督が舞台挨拶で来ておられて、お話されているのを観たことがある。
その時は、『ビリケン』では杉本哲太を本当に通天閣の上に立たせて空撮したんだと語っていた。役者さんは大変である。私は高所恐怖症なので、とてもじゃないが無理である。

『どついたるねん』はボクサーの赤井英和の自伝をベースに映画化したもので、事実をベースに創作が盛り込まれている。

赤井英和は世界戦を控えていて、その前に噛ませ犬扱いの大和田正春と闘って敗れる。私はこの頃はまだ生まれてもいないので、動画でしか試合を観たことがないが、倒れた赤井英和はとんでもなくやばそうな状態で、事実これで生死の境を彷徨ったそうだから、ボクシングは怖い。


ボクシングは的が上半身、顔になるため、頭にダメージを蓄積するスポーツなので、致命的なダメージを負う可能性が高い。この時の手術時に赤井が語っている、手術で開いた頭を無意識に手で触ると、そこにタオルに包まれた脳みそがあって、触れるたびに急激な吐き気を催した、という話が非常に興味深い。
これはちょっと空想では書けないな、体感した人間にしか書けない表現というか、事実というか、ちょっと印象深い言葉だった。
文章というのもやはり取材や勉強は必要で、それは感覚も同じ、要はそれをどう出力するかは個性の問題、或いは才能の問題になってくるだろう。
先の赤井英和の言葉というのは、嫉妬するくらい素晴らしい表現である。まぁ、最悪な体験ではあると思うけれども。

『どついたるねん』は大阪の匂いが濃厚に漂っていて、とても好きな映画である。この映画には原田芳雄が出ていて、阪本順治監督の自伝を読むと、原田芳雄との仲の良さがにじみ出ていてほっこりとする。
原田芳雄は『竜馬暗殺』や『浪人街』、『原子力戦争 Lost Love』や、傑作『祭りの準備』などで黒木和雄監督とのタッグが多いが、阪本順治監督ともたくさん仕事をされている。
遺作は阪本順治監督の『大鹿村騒動記』である。
やはり、役者にとっては自分を最大限に引き上げる、そして新しい自分を発見させてくれる監督と出会えるというのは、嬉しいものなのだろうか。

私は日本の俳優では原田芳雄が一番好きで、今作でも素晴らしい演技を見せているし、主題歌の『Don't Wally』は染み入るような音色で、いつまでも聞いていたくなる。この映画の主題歌のバージョンは通常版と違うようで、音源が欲しい。郷愁を感じさせる音色である。

この映画の持つ空気感がとても好きで、私の持つ大阪幻想がフィルムに固着しているからかもしれない。
『はじめの一歩』の舞台は基本的には東京だが、然し、なぜかこの作品と通じる匂いがする。同じように、80年代90年代を走ってきた作品だからだろうか。最近鷹村がキース・ドラゴンを降しスーパーミドル級王者になって、世界3階級をしたようだが、ミドル級のデビッド・イーグル戦は20年前なので、6階級制覇はまだまだ先である。




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