見出し画像

誰も悪者はいない、だから殺し合う『フールナイト』7巻

『フールナイト』の7巻を読む。

『フールナイト』はディストピア漫画であり、新刊が出るたびにnoteで拙い感想を書かせて頂いているが、いつ打ち切られるかヒヤヒヤしつつ、まぁ、8巻も出るようで、このまま50巻くらいいって欲しいものである。

7巻は今までよりもよりハーダーな内容であり、ハーディストには至っていないが、物語の核心にだんだんと迫っていく感じ。

今作は、30世紀くらいが舞台なわけで、『ブレードランナー』ですら神話の時代だが、暗雲に覆われていて日光は届かず、酸素が不足しているため、人間を植物に『転花』させて霊花にする手術が行わていて(それは主に貧民に施される。1000万円と代わりに贄となるわけだ)、そうして酸素を作り出すのだが、その転花をさせる転花院と反対派の闘いが段々と増していく中、アイヴィーなる意思を持って殺しまくる霊花と、それを作り出した権威である九大博士を巡っての謀略が最近ずっと続いている、そんな感じ。

今作では、先程も書いたように、そのアイヴィーになった少年の貧困による地獄を延々と描く話であり、貧困ゆえの無知、無知ゆえの苦しみ、絶望が延々と描かれて、まぁ気が滅入るわけで、主人公側の罪も罰に対しても読者に訴えてくる。

多勢のために少数が犠牲になる、これは現代社会にも常に付きまとう話であり、解決不可能な問題である。
多様性は多様性とは本来相容れないものであるし、人間が二人いればそこで争いは起きる。それぞれが複雑に絡み合って、悲劇に到達するし、絶対的な悪はいないわけである。

今作の主人公のトーシローは転花手術で残り2年で霊花になるが、突然変異で霊花の声が聴こえる能力を得た。
彼は、アイヴィーと意思疎通ができるただ一人の人間であり、そうして、優しい性格をしている。
強い主人公ではないが(その代わり周りが強い)、彼は本当に主人公に必要な聴く力を持っている。人の言葉を聞き、その人の立場を考える、それが人間には一番必要な力であり、問題解決には至らずとも、そこには希望が生まれるだろう。

強い主人公はいない、絶対的な悪もいない、味方側にこそ暴力を生み出した原因がある、然し、それはよかれと思ってやった、或いは見過ごしただけ……そのような人間本来の絶望が詰まっているわけだが、このような不可能な問題にこそ立ち向かう作家こそ、真に推すべきなのではなかろうか。

まぁ、たまに完全な暴力野郎も登場するんだけど。




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?