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ジャレット・レトは力みすぎ

役者冥利に尽きるのは、特色のある、異常な役や、有名な演目の主役を演じるときなどではないだろうか。

来月の10月15日に公開される『DUNE』では、ハルコネン伯爵役として、ステラン・スカルスガルドがキャスティングされている。
完全に頭を剃り上げて、すごい容貌である。私は、『DUNE』において、彼が一番の楽しみだと言っても過言ではない。

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なんというか、『地獄の黙示録』のマーロン・ブランドを彷彿とさせる、というか、寄せているのだろうか。
マーロン・ブランドは、『地獄の黙示録』の撮影時にめちゃめちゃ太ってきて、監督のコッポラたちを驚愕させたが、頭を剃ったのは彼のアイディアだという。原作の一つ、コンラッドの『闇の奥』に「頭は見事に禿げている。〜中略〜見よ。あれは玉、象牙の玉である…」と記載があったからである。
この辺り、どちらの言い分が正しいのか藪の中なのだが、マーロン・ブランドとしては、「今のままの人物像じゃないけないよ、フランシス。もう少し、謎めいた人物にしないと、我々が損するんじゃないかな。」と提案して(こういう言い方が効果的だヨ!とブランドは言っている)、ハウスボートに籠もって、カーツ大佐の台詞を自分で書き直したと言っている。
「カミソリの刃を歩くナメクジのように」的な気持ちで演じたようで、45分間に及び、ほぼ捨てられたフィルムの演技は、彼自身の、生涯で最高の演技だったと自負していると語っている。

然し、このカミソリの〜はそのまま台詞で喋っているので、若干記憶の混同があるのではないか。
けれども、私はマーロン・ブランドを愛し、徹底的に信じる者である…!
自分を見失うほどにのめり込んだのはこの役だけ、と言っているから、そうなのだろう。(たぶん)

こういう、異常な役、すごい役を、役者は欲しがるのだろうか。
メソッドアクティングといえば、リー・ストラスバーグが創始者だが、
マーロン・ブランドは彼のことは嫌っていて、実質の師匠はステラ・アドラーだという。ステラ・アドラーとは男女の関係になりそうだったと語っている。
メソッド演技はその後デ・ニーロがより深く解体して、デ・ニーロ・アプローチが完成するわけだが、それはもはやただのデ・ニーロである。体重の増減と言えば、1本の映画の中で20kgの増量をキメた『レイジング・ブル』があるが、ああいう演技の本質ではない悪いところを、クリスチャン・ベールが真似ている。

そうして、2000年代に入ると、『ダークナイト』のジョーカーとかで、
ヒース・レジャーがものすごい演技をするわけだが、哀しいのはジャレッド・レトである。
私が本稿で一番書きたいのは、ジャレッド・レトのことである。
ジョーカーを演じる役者は複数いるが、ヒース・レジャーも、ホアキン・フェニックスも、素晴らしい演技だった。
然し、ジャレッド・レトは珍ジョーカーになってしまった。
この男、常に頑張りすぎ、力みすぎなのである。俳優は作品に寄与しなければならないのに、何を思ったのか、俺が俺が、俺こそが最高の演技!と言わんばかりなのである。
『ダークナイト』も『ジョーカー』も作品自体が素晴らしいが、『スーサイド・スクワッド』(2016年版)なんて、もはやハーレクイン以外に目当てに誰が観るのだろうか。ジョーカーは作品を支えなければならなかった。それが出来ていないである。
俳優は映画に奉仕しなければならない。結果、映画が俳優に奉仕するようになるのだ。

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ジャレット・レトは、自分の本質をわかっていない。実は、常識人でいいヤツが似合う男だと思う。けれども、本当には天然で、一番のサイコパス。そういう標準キャラこそが輝くのである。
『スーサイド・スクワッド』でも、ジョーカーに決まってから、他の役者に中身入りのコンドームを送付するなど、頓珍漢なことをしている。それは狂気ではなく、ただのセクハラである。

そして、『ブレードランナー2049』である。
ここでは、レトはレプリカントたちの創始者、ニアンダー・ウォレス博士を演じている。
元々、ウォレス博士は、デビッドボウイに演じてほしかったというのが、監督のドゥニ・ヴィルヌーヴの頭にあった。
彼が博士を演じる、その詩想はまさに天啓で、前作で目を潰されて死んだタイレル博士を継ぐ盲目の神をボウイが演じたら、どれほど完璧な作品になっただろうか。
然し、ちょうどオファーを出す前にボウイは死んで、ヴィルヌーヴ達はショックを受けていた。
そこに、「俺にも出させろ。」とアプローチしてきたのが、レトである。なんとしても、ブレランに出たいのだと。

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結果、少し浮いている存在になってしまった。嫌いではないが、然し、やっぱり少し芝居がかっていて、天然で浮世人の空気を出せるボウイとは明らかな差が出てしまっている…。『ブレラン2049』に瑕疵があるとすればこれくらいかと思える。

基本的に真面目でいい人なのだと思うが、常に空回りする。それがジャレット・レトである。
なんだかんだで、来年はマーベルの新作、『モービウス』のタイトルロールを飾るわけだから、大人気俳優である。然し、爆死の未来しか見えない……。

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