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飯野賢治というバブル


『ゲーム-Super 27years Life』という書籍がある。

飯野賢治氏の書籍、語り下ろしの形式である。
副題が凄い。

基本的には、ブック・オフならば100円で購入できる本だが、私はこの本は折に触れては何度も読み返している。やはり、飯野賢治氏は非凡な男である。

この本には、飯野賢治という男の美学が書かれている(まぁ、本人が語っているからそうなるんだけど)。
学生時代からベンチャーとしてゲーム会社を立ち上げて、数人でゲームを作り、WARPを結成し、『Dの食卓』や『エネミー・ゼロ』を作っていく……。その彼の『物語』が延々と語られる。

基本的には飯野賢治はイケイケドンドンで突き進むタイプで、その都度その都度、様々な障害に向かいながら、え!?そっち?!という方向に舵を切る男である。
『Dの食卓』を審査通らないバージョンを審査後に差し替えて発売したり、『エネミー・ゼロ』のハードを直前に変えたり、300万本売れるRPGを作ると宣言したり…(未だかつて、国内300万本を超える売上のRPGは、『ポケモン』、『FFⅦ』、『FFⅧ』、『ドラクエ3』、『ドラクエ4』、『ドラクエ6』、『ドラクエ7』、『ドラクエ8』、『ドラクエ9』くらいである(ドラクエ多いな)

飯野賢治は1990年代なかばから後半、ゲーム界の寵児の1人だった。

飯野賢治氏はファミ通のクロスレビューに物申した男でもある。
あの、1人持ち点10点で、4人で一つのゲームを評して、最大40点満点、というあのレビューである。
あれは、30点(平均7.5)とればシルバー、32点(平均8点)でゴールド、36点(平均9点)でプラチナになるのだが、40点満点というのはなかなか出なかった、始めは。

飯野賢治は、鈴木みその漫画の中でレビューに対して物申した。彼いわく、何時間プレイしたのか、どこが各レビュアーの評価ポイントなのか、クリアしてからの評価なのか、という、誰しもが思う疑問を浜村通信に尋ねていた。
そして、彼いわく、自分のゲームは10点が二人、0点が二人、だと思うとも。

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これは重要なことである。この、10点満点が二人、0点が二人、というのは、真に革新的であり、芸術的な作品でなければ叩き出せない数字である。なぜならば、前衛というのは基本的には、それを評価できる人間が多ければ多いほど、前衛ではなくなるという宿命を背負っているからだ。

『ベイグラントストーリー』も40点満点を獲得していたが、あれは普通に考えれば、10点が1人、8点が1人、7点が1人、4点が1人、的な作品だと思うが、そうはならなかった。また、『FINAL FANTASYⅫ』も40点である。
どう考えてもそれはないだろうと思う。あれは、どう考えても松野氏降板後、なんとか形に仕上げた作品だろうと思う。あのゲームのシナリオの後半の凡庸さはひどいものである。アニメ映画『バブル』くらいひどい気がするが、始めからプロットは松野氏の書いたもの、ということだが、プロットと演出とは異なるものだ。監督やまとめ役が変われば、同一のものが大きく変容するのは、全てに通じる。

とまぁ、話がずれてしまったが、飯野賢治は物申す男であり、様々なトラブルをメイカーする人でもあったが、この本を読むと、彼のカリスマ性というものがビンビンに伝わってくる。

山師のような作品づくりと売り方だが、時代を味方につけて、それをエンターテイメント化する能力の高さは非凡の極みである。

玉石混交のゲームバブル時代のソフトに、未だにインパクトを持って存在するゲームソフトを何点か輩出しただけで、それは驚くべきことであり、奇蹟的なことである。

私は、今もまだ、この本を折に触れては読み返している。


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