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平和という言葉が、ここにあるということ。

平和とは。

平和とはからはじまる思いを述べよとゼミの
課題が出ていた。

栞は、マグカップにウィルキンソンのスーパー
ストロングの炭酸をどぼどぼと注ぎながら
ぼんやりと思っていた。

しゅわしゅわと音がする。

マグカップに口を近づけると炭酸の泡が栞の
頬にぶつかって消えた。

平和という言葉を聞くと「戦争」をいやが上でも
思い出す。

それは白と黒、罪と罰のようにいつもツインだ。

平和と幸福は似ているのかもしれない。

その輪郭はひとそれぞれの思いの欠片で形作られて
いるのに。

どこかにたしかな「平和」があるかのように
感じている幻想めいたところが似ている。

なくなればいい。

栞はぽそっとつぶやいていた。

去年の夏。

味方という言葉は「敵をかんじさせるから
好きじゃない」ってカフェの隣の席から
声がきこえて来たことがあった。

その時一緒にいた、真守がナプキンに文字を
書いて栞に渡した。

栞もそう思う? って。

「わりと私好みのかんがえかたかもしれん」 って

もう一度ナプキンに書いて真守に渡した。

真守は、おれは考え中ってきたない栞好みの字で
書かれていた。

そしてもういちどナプキンのリプライが彼の手で
栞のテーブルにずずずとにじり寄ってきた

真守はその後死んじゃったから、あのあとの
話が聞けなかった。

「平和」という言葉はなくなればいいと栞は
どこかで真剣に思っていた。

平和という言葉が存在するということはまぎれも
なく「戦争」も存在しているという意味だから。

どこかの誰かに殴られるかもしれないけれど。

「平和」ということばよ、今世紀中になくなれと
つぶやいた。

まどの外では蝉が鳴いていた。重唱していた。

蝉の寿命はもっと長いんだってよって真守が
教えてくれたことがあった。

七日じゃないらしいよって。

そか、それはよかったね、とりあえずよかったねって
わらった。

生きているとしんどいことばかりなのに、自分以外の
ものには生きてくれと思う。

真守はわたしのわらいを聞いて蝉のいのちをわらっちゃ
いかんって言いたげだった。

そして真守が思っていたよりも真守の寿命が短かった
ことは、世の中くるってることのひとつだと栞は今も
真剣に思っている。

窓の外には育ちすぎた入道雲がミルフィーユのように
重なり合っていた。

大切な物ばかりをつめたモロゾフのクッキーのカンカンを
本棚の隅から取り出してきた。

あの日真守が渡してくれたナプキンもそこに入れて
ある。

「おれは考え中」って文字の後を栞はなぞっていた。

平和という言葉がなくなればいいために、しなければ
いけないことがなになのか栞はまだわからない。

窓の外からの風が一瞬冷たくなったような気がした。

雨が降るかもしれないなって空を見上げた。

真守、そっちの世界には「平和」ってありますか?

🕊     🕊     🕊     🕊     🕊

今夜はこちらの素敵な企画に参加しております。
小牧幸助さん、いつもお題をありがとうございます。
今回はパスしようと思うぐらい難しかったです。
「平和」については問いと答えがいつも定まらないまま
このまま考え続けなければいけないのだと思っています。
お読みいただきありがとうございました。



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