冷気
学校へいこうとドアを開ければ、冷たい空気が抱きついてきました。手が、ほっぺたが、太ももが、ひんやりしみて。だけど私は、手袋もマフラーもしていませんでした。ただ、コートだけを羽織っていたんです。
好きだったんです。体の震えるような冷たさが。冷気に抱き締められたときだけです。私が自分の生を実感できるのは。自分は生きているんだって、はっきり感じられるんです。吐いた息が見えないと、自分が今呼吸しているのかどうか分からなくなって、妙にそわそわするんです。不安になるんです。
だから私は、素手で冷気を抱き返すんです。本当はコートも脱いでしまいたいくらい。だけど、風邪引くぞってうるさいから、なんで着ないのってしつこいから、だからしかたなく袖を通しているんです。
手足の指がどんどんかゆくなって、歯がガチガチ鳴って、全身がぶるぶる声を上げて。
生きている。私は確かに、生きている。
一人、にやけるのをこらえながら、地面を強く蹴りました。
(了)
読んでいただき、ありがとうございました。