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スウェーデンという経験(9話)

本稿は大学生時代の留学経験を基に書いたフィクションです。

9話目は、スウェーデンの酒屋について...

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 スウェーデンの街には “Systembolaget” (システムブラゲット)と呼ばれる酒屋が必ず一つはある。

 私の住んでいた街には、駅の付近に一つ、もう一つは、バスで15分ほどのショッピングモールに併設されていた。

 ベクショーはスウェーデンの中では比較的小さな街だが、中心街以外の広さを考えると酒屋がその地域に二つだけというのは奇妙だった。

 スウェーデンは、飲酒する人に対して非常にストイックな国として、ヨーロッパでも有名なのだという。。

 1922年以降、酒屋はすべて国営化され、酒税は段階的で、アルコールの度数に応じて高くなるんだ。

 酒屋に行けば、お酒の値段が日本と比べて特別に高いというわけではないが、レストランでは、場所によっては酒屋での販売価格の十倍以上というところもあった。

 酒屋の営業時間が平日10am-18 pm、土曜日10 am-14 pm、日曜日はやっていなかったから、ホームパーティー用のアルコールを買うにも、平日から買いためておかなけらばならなかった。

 酒屋は営業時間が非常に短く、毎回身分証の提示が必要だった。

 留学生の中には不満を漏らす人も多くいた。

 スウェーデンでお酒を買う際には、計画的に週末の予定を考えて動く必要があった。

 週末前になると友人たちと落ち合って酒屋まで自転車をこいだ。

 何気ない留学生活の思い出だが、友人たちと街を酒屋に向かって一直線に自転車をこぐのはとても気持ち良かった。

 なんといっても、私の住んでいた街は道が広々としていたから。』と、タツロウはそこまで言って、また黙ってしまった。

『その留学生活で学んだことが、タツロウさんの人生に大きく影響している確信が今の僕にはあります。日本とは全く違う環境での生活だったんですね。』

『そうだった。日本を外から考えるいい機会だったと思う。大学のころ専攻していた英語については、初めは現地の学生や、各国の留学生の語学力レベルの高さに驚いたが、時間が経つにつれてそのギャップも縮まり、自信がついていった。

 とにかく自分から「言いたいこと、聞きたいこと」を臆せず自分の英語で伝えようとすること、それが大事だった。』

 そう言ってからタツロウはふぅとため息をついて、自分の手を眺めながら、少しだけ眉間にしわを寄せた。

 僕はもう少し彼の話が聞きたかったが、彼は今、気分が良くないようにも見えた。

『私は自分の英語のレベルが上がっていくごとに興味深い人と出会える機会が増えてきたと思う。君も含めてだが。』とタツロウは言った。

『コミュニケーション能力の中でも言語能力は言うまでもなく要です。とくに留学生活において、言葉が通じない、理解できないというのは大きな壁になり得ますね。その壁を乗り越えるための留学なわけですが、その壁を乗り越えた先にこそ、学ぶべき「留学」というものの本当の意味があったんじゃないんですか。』と僕は言った。

『そうだった。アメリカやイギリスからきたネイティブの学生同士の会話にも首を突っ込み、耳を慣らしていくんだ。ネイティブ以外の様々なアクセントの英語も何度も聞いていると、英語全体に対する理解のレベルが上がってくる。

 すまないね。少し、気分がすぐれない。またお手洗いに行ってくるが、待っててくれるか?』

『もちろん』と僕は答えた。

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