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小選挙区比例代表制

法律等の状況

 選挙制度には、多様な方法が存在する。そして、選挙制度の在り方は政治体制の在り方を形成する大きな要因である。「猿は木から落ちても猿だが、代議士は選挙に落ちればただの人だ」という言葉があるように、国会議員は選挙で当選することを生業としているので、選挙に標準を合わせて政治活動を行うことになる(1)。そうなれば、選挙の無い期間での振舞いも選挙を意識したものとなり、それが結果として制度の運用や政治体制の形式を決定するのだ。そのため、選挙制度について注目するのであれば、広く社会全体やその中での政治の在り方を吟味しなければならない。その吟味をしたのちに、様々な選挙制度の中から最適なものを選択するべきなのだ。よって、まずは日本政治の選挙制度を説明するために、選挙制度が一般的にどのような機能を担っており、選挙制度の分類ごとにどういった特徴があるか、という点から選挙制度全般を論じる。

 選挙制度の機能は、大きく意見表出機能と意見集約機能に分けられる(2)。意見表出機能とは、有権者が持つ選好を当選者という形で反映させる機能である。社会には、選好を分ける様々な要素(職業、収入、居住地、年齢、性別、信条など)がある。有権者はそれによってバラバラな選好を持つので、選挙によっていくつもの選択肢から自らの選好に合う候補者や政党を選ぶことで、政治に対して意見を反映させる。選好は無数にあるので、選択肢が多様であり、全ての有権者の選好が細かく反映されていればいるほど意見表出機能が果たされるのである。詳しくは後述するが、意見表出機能を重視した選挙制度では、少数政党が分立しやすくなる。次に、意見集約機能とは、選挙にて社会にある様々な選好を収斂させ、いくつかの選択肢に絞る機能を指す。社会の多様な選好を全て議会へ反映させようとすると、合意形成をすることが困難になり、結果として政策決定が滞ることでどのような選好も実現されないリスクが生まれる。そのため、選挙ではある程度の意見集約をすることが求められる。選択肢を絞り、それによって議会での合意形成をしやすくすることで国家全体の方向性が示されやすくなるのだ。この機能を重視した選挙制度は二大政党システムと親和的である。
 このように、選挙制度には大きく二つの機能がある。そして、この二つの機能の間にはトレードオフの関係があることに注意しなければならない。意見表出機能は、選択肢を多様化することで達成される機能である一方、意見集約機能は選択肢を減らすことで達成される機能である。選択肢の作り出し方次第では、両方の機能を低下・向上させることはできたとしても、基本的にトレードオフの関係となる。以下では、意見表出機能と意見集約機能のそれぞれを重視した選挙制度について見ていく。

 意見表出機能を重視した選挙制度は、比例代表制である。比例代表制とは、政党への票数ごとに議席が政党へ割り振られる制度を指す。政党への議席の分配方法には複数の方法があるが、ここでは割愛する。票数によって細かく議席が割り振られるため、少数政党であっても議席を獲得する可能性が高い。よって、少数派の選好が代表されやすくなるのだ。比例代表制の中にも、選挙区割りや議席の分配方法などのバリエーションがあるが、全体として以上のような特徴を持つ。また、比例代表制は基本的に大きな選挙区で行われるため、特定の地域や有権者の利益のみを実現しようとする利益誘導が起こりづらいなどのメリットがある。

 意見集約機能を重視した選挙制度は、小選挙区制である。小選挙区制は、一つの選挙区において定数が一枠のみ設けられる選挙制度である。小選挙区制の意見集約機能は、制度面と心理面の二段階で説明できる。制度面として、一人の候補者しか当選しないため、選挙区内の最大の集団の選好のみが反映されることが挙げられる。選挙区内にはいくつもの選好が存在するはずであるが、それらは死票になる。心理面は、有権者による投票戦略に起因する。定数が一枠であるため、有権者は当選する可能性の低い候補者に投票すると自分の票が死票になることを予期して、当選する可能性があり、自らの選好に近い候補者に投票するようになる。すると、選択肢が自然と絞られることになり、多くの場合は二つの候補者に絞られる。候補者も選挙区内の最も票が集まるであろう選好を探すことで、自然と候補者が絞られ、意見が集約されるのだ。
 また、小選挙区制はその名前にもあるように、比較的小さな選挙区が置かれ、候補者も複数人に留まるため、有権者が候補者を一人一人吟味しやすくなる。

 意見表出機能と意見集約機能の両方をバランスよく実現する制度にも触れておきたい。これには、大選挙区制と混合制の二つがある。
 大選挙区制とは、一つの選挙区から複数の候補者が選出される制度である。日本では、一つの選挙区から3~5名の候補者が選出される中選挙区制が用いられていたが、これも大選挙区制の一種である。大選挙区制は、複数の候補者が選出される余地があるため、小選挙区制のような選択肢の収斂が起こりづらく、起こったとしても収斂は小さくなる。比例代表制のような細かな議席配分は行われないが、小選挙区制ほど選択肢は絞られないため、中間的な制度とされる。大選挙区制の中でも、定数が多ければ比例代表制に近く、定数が少なければ小選挙区制に近づくとされる。また、大選挙区制を比例代表制の一種とする見方もある(3)。大選挙区制や比例代表制は、対象となる有権者が多いため、選挙資金が多額になるといったデメリットがある。その他、選挙区制(小選挙区制と大選挙区制の総称)には移譲型・非移譲型、単記・連記などのバリエーションがある。
 混合制とは、選挙区制と比例代表制を組み合わせた制度のことである。組み合わせ方として、並立制・併用制・連用制の三つがある。並立制は、全体の議席数から比例代表による選出枠と小選挙区による選出枠を分け、有権者は小選挙区の候補者と比例代表の政党をそれぞれ選ぶものである。有権者は二票を投じることになる。比例代表と小選挙区のそれぞれが基本的に連関しないことが特徴だ。次に併用制とは、比例代表によって政党ごとに議席を分配し、その党内での当選者を小選挙区での得票数によって決定する方法である。小選挙区内で最多の得票数を得ていれば、必ず当選する。政党内で、分配された議席よりも小選挙区で当選した候補者が多い場合は、超えた分が超過議席として選ばれる。連用制は、併用制の超過議席の発生を防ぎ、少数政党に対しての議席分配が行われやすい制度である。

 以上のように、選挙制度によって重視される機能は異なる。それを図式化したものが【図1】である。

 選挙制度についての説明の最後として、選挙制度が政党の凝集性に影響することを述べておく。選挙で当選することが政治家個人にとっての至上命題であるため、政党が政治家が選挙活動を強く規定することになれば、政治家は政党の意向に従い、政党の凝集性が高まる。政党による凝集性は、政党が政治家の選挙活動に必要な資源をコントロールすることで得られるものでもあるが、ここでは制度による凝集性に注目する。政治家の立候補選挙区を決定する権限を政党が持っている場合、政党による凝集性は高まる。選挙区ごとに有権者の選好や対立候補は異なるため、立候補する選挙区によって選挙の当否可能性は大きく変わってくる。そのため、政党が立候補選挙区を決めることができれば、政党は求心的な組織になる。
 また、比例代表制であれば、拘束名簿式・非拘束名簿式のどちらが採用されているかで政党の凝集性が変わってくる。候補者個人の得票数によって党内での優先順位が変わる非拘束名簿式に対して、拘束名簿式では政党が優先順位の載ったリストを作成し、その順番に当選者が決められる。そうであれば、政治家個人はリストの決定者からの評価を得ることが最も重要なポイントになる。
 このように、政党の凝集性は、選挙制度によって決められる部分が大きいのだ。実際、自民党は政治家個々人がまとまりなく政治活動をしていた状況を変えるため、衆議院での拘束名簿式を取り入れるなどした。その結果、その他の変化と相まって、小泉首相による郵政民営化といったトップによる強い決定権が発揮される出来事につながったのだ(4)。

 それでは、以上を踏まえて日本ではどのような選挙制度が用いられているだろうか。以下の【表1】にまとめた。国政選挙では、衆議院議員選挙と参議院議員選挙の二つがあり、それぞれで多少の違いがある。
 衆院選は、小選挙区比例代表並立制が用いられている。衆議院は合計465議席あり、4年に一度選挙が行われる。全国289の小選挙区から289人の議員が選ばれ、残りの176人が比例代表制によって選ばれる。比例代表制では、全国を11の選挙区に分割する。基本的には小選挙区制と比例代表制は連関せずに運用されているが、比例代表制の拘束名簿において同順位で載っている候補者が両者とも重複立候補していた場合は、二つの制度が連関する。同順位にある候補者は、小選挙区での惜敗率(当該候補者の得票数 ÷ 当選者の得票数)が大きいほうが当選することになる(5)。
 参院選は、選挙区比例代表並立制と呼ばれる制度となっている。参議院は合計248議席あり、3年に一度、半数の議席を対象とした選挙が行われる。つまり、参議院議員の任期は6年である。原則として都道府県に沿った45の選挙区が設けられ、一選挙区から1~6人が選ばれる。選挙区制から選ばれる議員は74人である。50人が比例代表制から選ばれる。参院選の比例代表制では、47都道府県ごとの選出が行われる。比例代表制は基本的に非拘束名簿式である。非拘束名簿式では有権者が投票する際に、比例代表制の欄に政党ではなく、候補者個人の名前を書くことができる。そして、その個人名が多かった候補者から当選する(6)。

 このような制度が用いられるようになるには、どのような経緯があったのだろうか。衆議院と参議院の選挙は、それまで中選挙区制度という一選挙区から3〜5人が選ばれるというものだった。並立制が取り入れられたのは、1994年の非自民細川連立政権の頃である。連立政権が成立するまで、自民党は政治改革を標榜しており、その一つとして選挙制度改革を掲げていた。その内容は、単純小選挙区制もしくは小選挙区比例代表並立制であった。田中角栄政権のころから自民党が有利となる小選挙区制を導入するために選挙制度変更が議論されていたが、リクルート事件などの「政治とカネ」の問題が相次いでおり、党中心の選挙及び政治に切り替えることで腐敗した政治を改善するという理由が強調されるようになった。1987年発足の竹下政権下において、政治改革が宣言されたことでその流れは明確になった。しかし、自民党内での政治改革の議論が紛糾し改革が実行されない中で、昔ながらの政治体制への世論の不信感が強まったことで、自民党への支持が弱まった。そして、新生党・日本新党・新党さきがけなど、55年体制の終焉を目指した政党が作られ、1993年の衆院選で大躍進を果たした。なかでも新生党は、もともと自民党に所属していた有力議員である小沢一郎議員が設立した。
 それらの政党と議席を大幅に減らした社会党などの左派政党が連立したのが、非自民細川連立政権であった。1994年の選挙制度改革は、政治の浄化という目的での選挙制度改革が行われることとなった。中選挙区制における、多額の政治資金を必要とする選挙や政治家個人が利益誘導に走るインセンティブが問題視されており、それらを終わらせることが重視されていた。また、小選挙区比例代表並立制という制度になったのは、自民党の一強を終わらせ、二大政党制の政権交代が起こりうる政治を目指したという経緯もある。連立政権は、新生党の小沢一郎議員を実質的な中心として運営されていたが、小沢議員は自民党に所属していたころから二大政党制を志向しており、政治改革でも二大政党制実現に向けた制度確立を目指していたのだ。比例代表制も組み込まれたのは、多党制を志向する声も根強く、それらに妥協する形で並立制が導入されたからである。連立政権が成立するまでは、左派政党は比例代表制の性格が強い併用制を推していたが、二大政党制を目指す政党が議席を大幅に増やしたことで、連立政権を続けるために並立制に賛意を示さざるを得なくなったのだ。
 小選挙区比例代表並立制は、後述するように少数政党に不利であるが、二大政党制に移行することが良しとされていた当時は、二大政党制への移行に失敗した場合の想定はあまりされていなかったようである。小選挙区比例代表並立制は、「政治とカネ」の問題の中心であり、1993年の衆院選で下野した自民党による改革案と同じものであった。これには、自民党が参議院では多数派を占めていたこと、連立政権は政治改革という点でのみ合意が取れていたこと、メディアが小選挙区制の導入にポジティブな報道を続けたこと、世論からの政治改革への強い期待があったこと、などの様々な要因が挙げられる。


問題性

 現在の小選挙区比例代表並立制は、将来的な政治の在り方を議論したうえでの選挙制度というよりも、当時の政治状況によって導かれた選挙制度である。選挙制度変更などの政治改革は、「政治とカネ」の問題を改善するなどの消極的な理由が主であり、積極的に政治が社会全体に果たすべき機能を拡大しようとするものではなかった。選挙制度は政治の在り方を規定する最大の要素と言えるものである。そして、政治の在り方は、国民・市民への福利創出といった政治が果たすべき機能の実現度合いを決定するものである。選挙制度を議論するには、現状ないし将来の社会において政治に求められる機能やそのための政治体制等について議論しなければならないのだ。政治的駆け引きによって実現された側面の強い現状の政治制度には、制度自体の不公正性が存在する。以下、このことを二大政党制と連動効果という二つの点から説明したい。なお、その後にさらなる選挙制度に関する視点として「一票の格差」の問題から選挙制度の不公正性を議論する。

 小選挙区比例代表並立制は、混合制の選挙制度の中では、多数政党がより議席を獲得しやすい制度であり、小選挙区に近い。そのため、理論的には二大政党が確立されることが想定されるし、導入された当時もそれが期待されていた。しかし、比例代表制の影響で政党が二つにまとまるインセンティブが弱められることになった。比例代表制では、少数政党であっても少ない議席であれば獲得できる可能性が高まり、少数政党が分立しやすくなる。実際、現在(2023年)の政党は、自民党が圧倒的な最大政党であり、その他に多数政党と呼べる政党はない。衆議院では、合計465議席中、自民党が260議席を有しており、次点の立憲民主党は97議席しか有していない。残りの108議席は6政党や無所属議員によって構成されている(7)。参議院も同じような議席構成である。小選挙区制によって自民党のような多数政党の議席が維持されやすい一方、少数政党が育たないでいるのだ。
 このように二大政党が確立されず一つの政党のみが多数政党であれば、一強の政治体制が作られることになる。それはつまり、政権を担う政党の選択肢がほとんど一つに絞られることということである。選挙において、自民党以外の選択肢はあるものの、政権を担う政党を選ぶという意味合いはほとんどない。代議制民主主義では、選挙で候補者や政党が議席を奪い合い、与党が政権を奪われる危機感の中で他の政党、ひいては様々な選好を持った有権者を考慮した政策決定を行うことで、民主的な意思決定が可能となるのである。一強の政治体制の中では与党が政権を奪われるリスクが極端に低くなり、与党の支持母体の選好のみが代表されてしまう。その実例は、エネルギー政策において経済団体が強い影響力を発揮していること(8)、旧統一教会がそのマルチ商法的な実態にもかかわらず宗教法人として法的に認められていること(9)など、枚挙に暇がない。有権者による多様な投票が与党に対して影響を与えることで、民意が反映されるはずの代議制民主主義であったが、実質的に複数の選択肢が準備されていないのであれば、それを民主主義であると呼ぶことは難しい。それができない今、全ての有権者が意見反映可能であるという民主主義のあるべき姿とはほど遠い状況なのである。少なくとも建前の上では選挙制度の強みを活かそうとした小選挙区比例代表並立制であったが、両方の弱みのみが発揮される形になってしまったのである。これは、比例代表制が持つ力学が小選挙区制に影響するという意味で連動効果と呼ばれている。

 最後に、「一票の格差」問題からも選挙制度の不公正性を議論したい。選挙区制にはいくつかの方法があるが、選挙区ごとに有権者数と定数が変わるため、全ての方法で一票の価値にバラつきが生まれてしまう。選挙区制である限り、完全な等価値を実現することはできないため、ある程度のバラつきは許容しなければいけないが、現状の日本における一票の価値は選挙区ごとに数倍の差が生まれており、許容できるものではないのだ。

 一票の価値に必要以上の差が生まれれば、平等選挙が守られないことになる。選挙権などの政治に参加する権利については、憲法15条に規定されている。民主主義は、自由や平等といった概念を基礎として成り立っているものである。個々人が選択について自由であり、平等な立場でなければならない。しかし、住民票の所在によって制度的な政治的影響力が決定されてしまうようでは、平等であるとは言えないのだ。この「一票の格差」については、衆院選と参院選の両方について訴訟が起こされており、最高裁の判断の論理や変遷が明確になっている。
 最高裁は、憲法に基づく平等選挙の原則に反するか、両議院にとって是正をするために必要な一定期間が経過しているか、という二つの基準に基づいた判断を下す。前者に当てはまるものを違憲状態と呼び、後者にも当てはまるものを憲法違反と呼ぶ。つまり憲法違反と呼ばれるものは、国会が、憲法が要求するような状態を実現するための作為を怠っているという判断である(10)。それでは、この判断枠組みに基づいて、最高裁はどのような判決を出してきただろうか。衆議院では、格差が4倍を超えると違憲判決が出されてきたが、格差が3倍前後で推移しているころは合憲判決がほとんどである。参議院については、格差が6.59倍に達した1992年にようやく違憲状態判決が出され、それまでは合憲判決が出されていた(11)(12)。2009年の衆議院選挙以降、両議院の選挙について違憲状態判決が出始め、選挙区割りや選挙区定数の変更などが行われて、衆議院で約2倍、参議院で約3倍の格差という状況になっている(13)(14)。なお、こういった最高裁の消極的な判決は、最高裁判事を内閣が選ぶことによって起こる弊害が影響しているものである。この点については、本文の「最高裁判事の内閣による任命」を参照されたい。
 選挙区制である以上、全ての選挙区にて定数と有権者の割合を完全に一致させることは不可能であるため、ある程度の不平等は許容しなければならない。しかし、ここで言うある程度とは、2倍や3倍といったものではない。居住地によってある有権者は別の有権者の3倍の選挙権を持っているという状態は、平等とは言い難いものである。また、こういった状況が戦後から継続していることは、メディアによる批判、選挙ごとの訴訟などによって、一般大衆や国会議員でも承知のことである。そして、数倍の格差については、選挙区割りや選挙区定数のさらなる変更によって解決できるものであり、選挙区制度に内在された格差であるとは言えない。そういった選挙権の不平等を是正する変更を怠っている国会について合憲であると判断することはできない。現状の「一票の格差」は憲法が想定する選挙権の平等に反し、国会がそれに対応するだけの十分な期間はすでに経過しているため、憲法違反であるという判決が適当である。格差が継続している状況において、一票の価値が低い選挙区に住んでいる有権者の選挙権は侵害されている。このような状況が戦後から継続的に続いているのであるから、制度的に正当な選挙は日本において一度も行われたことがないということになる。

 また、「一票の格差」という問題は、上述のような理念的な問題を引き起こすだけでなく、特定の政党を不合理に有利にするという実際的な問題の原因ともなっている。「一票の格差」では、地方において一票の価値が重くなり、人口密度の高い都市部において一票の価値が軽くなる。つまり、地方は有権者数に比べてその選好を代表する国会議員が生まれやすいということである。この状況では、地方の選好を代表する政党が不合理に有利になってしまう。そして、地方の選好を代表する政党としては、自民党が有名である。地方と一言で言っても様々な選好があるが、土木業や農業に勤める者が相対的に多い地方では、そういった集団の組織票を得ることを伝統的な選挙戦略とする自民党に有利になるのである。実際、2017年の衆議院小選挙区選挙では、自民党は48.2%の得票率にもかかわらず、75.4%もの議席占有率だった(15)。上で見てきたように、小選挙区制的な性格の強い選挙制度は、多数政党に有利に働くが、現在の「一票の格差」の状況は、日本の国会における唯一の多数政党である自民党にさらに有利に働くようになっているのだ。そして、こういった選挙制度の不公正性が得票率と議席数の明確なズレに繋がっている。この状況は、憲法15条が定める政治に参加する権利、つまり自らの主張が政治に適切に反映される権利を侵害するものである。非常に単純かつ深刻な「一票の格差」の問題は、公正な選挙を実現し、日本の有権者が持つ選挙権を実現するため、早期に是正されなければならないのだ。


参考文献

【個別参考文献】

(1)Wikipedia「大野伴睦」(最終閲覧:2023年3月4日)https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A4%A7%E9%87%8E%E4%BC%B4%E7%9D%A6

(2)砂原庸介・碑田健志・多湖淳「政治学の第一歩」有斐閣、2015年、63~67頁。

(3)伊藤光利・田中愛治・真渕勝「政治過程論」有斐閣アルマ、2000年、138~149頁。

(4)内山融「日本政治のアクターと政策決定パターン」『季刊政策・経営研究』2010年3号、2010年、1~18頁。
https://www.murc.jp/wp-content/uploads/2013/04/qj1003_01.pdf

(5)NHKホームページ「衆院選2021>あなたの選挙区は」(最終閲覧:2023年3月4日)https://www.nhk.or.jp/senkyo/database/shugiin/2021/constituency/

(6)参議院ホームページ「よるある質問>選挙について」(最終閲覧:2023年3月4日)
https://www.sangiin.go.jp/japanese/goiken_gositumon/faq/a10.html

(7)衆議院ホームページ「会派名及び会派別所属議員数」(最終閲覧:2023年3月2日)https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_annai.nsf/html/statics/shiryo/kaiha_m.htm

(8)InfluenceMap “Japanese Industry Groups and Climate Policy” 2022.
https://influencemap.org/report/Japanese-Industry-Groups-and-Climate-Policy-20274

(9)「旧統一教会による被害「1000万円以上」4割 日弁連集計」『日本経済新聞』2022年11月29日。(最終閲覧:2023年3月4日)https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUE295I00Z21C22A1000000/

(10)国立国会図書館「衆議院及び参議院における一票の格差 : 近年の最高裁判所判決を踏まえて」2017年。
https://dl.ndl.go.jp/pid/10317577/1/1

(11) 浜島書店「最新図解政経」2020年、136頁。

(12)東京書籍「政治・経済」2020年、74頁。

(13)「21年衆院選は「合憲」 1票の格差訴訟で最高裁大法廷」『日本経済新聞』2023年1月25日。(最終閲覧:2023年3月4日)https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUE192QL0Z10C23A1000000/

(14)「参院選1票の格差 高裁判決 “著しい不平等状態”が半数超」『NHK』2022年11月15日。(最終閲覧:2023年3月4日)https://www3.nhk.or.jp/news/html/20221115/k10013892151000.html

(15)「【図解・政治】衆院選2017・自民党の小選挙区得票率と議席占有率」『時事通信』2017年10月。(最終閲覧:2023年3月4日)https://www.jiji.com/jc/graphics?p=ve_pol_election-syugiin20171023j-15-w430

【その他の参考文献】

  • 浜島書店「最新図解政経」2020年、132頁。


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