真宮書子

小説家志望です。 小説は、ウソの世界です。ウソの世界でしか言えない真実もあります。 ウ…

真宮書子

小説家志望です。 小説は、ウソの世界です。ウソの世界でしか言えない真実もあります。 ウソの世界でしか表現できない思い、気持ちをめざしています。 ぜひ、ぜひ、ぜひ。ご堪能くださいませ。

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嬲(なぶ)る 元同級生

     第一章 一 学生アパートの一夜                                  気づかなかったぜ、まったく。  ウワサの勘違い女が、袖子のことだったなんて。どっちかっていうとおとなしくて、目立たないほうだったもんな。  成績はよくも悪くもなかったんじゃないかな。中くらい。容姿も……、まぁそこそこ、ということにしておこう。何といっても女だもんな、容姿に言及すると、思わぬとばっちりを受けかねない。  好意も悪意も持ってなかったな。思い出すこともなか

    • 【小説】嬲(なぶ)る 28 家族が家族でなくなるとき

       七 お姉ちゃんが壊れちゃった  想像を交えて説明するな。気になるだろう、他人の離婚って。のぞき見根性って、誰の心にもあるもんだからな。  えっ、想像じゃしょうがないって? お前らだって、想像にすぎないことをさも事実かのように噂してるじゃん。  世の中、そんなもんさ。まぁいいから、黙って聞けや。事実も少しは交えているわけで、そう的外れでもないはずだぜ。  藤枝クリーニングの資金繰りが厳しくなり、やがて亭主も察するところになる。  亭主は、保証人から外してくれと言い出したん

      • 【小説】嬲(なぶ)る 27 家族が豹変するとき

        六 身内に差し込むヤバい影  衿子の亭主が、藤枝クリーニングから手を引いた経緯は知らないんだよな。特段、噂にもなっていなかったからな。  元々いてもいなくても関係ないというか、存在感がなくなっていたんだよな。  資金繰りが怪しくなってからは、衿子は経理も自分でやることが多くなっていた。亭主に文句を言われることが嫌だったんだと思うぜ。  都合のわるいことは何でもナイショにする癖があるからな。  最終的に、亭主がやったのは営業くらいじゃないのかな。それも嫌味や皮肉を言う得意先

        • 【小説】嬲(なぶ)る 25 悪女パターンはいろいろ

          五 ありがちな悪女沼  勤め人は誰でも、自分の将来に不安を抱えている。クビになる不安はもちろんだが、ミスをしたときの左遷、同期との出世競争に負ける、減給、上司からの叱責……数え上げればきりがない。 「お前はいいよ、藤枝クリーニングがあるもんな」    藤枝クリーニングが大きくなるにつれて、衿子の亭主も、そう言われることが増えたと思うぜ。  結婚当は街角のクリーニング店にすぎなかったので、亭主も家族の生活は自分で背負う気でいたはず。    しかし大きくなるにつれて、世間は亭

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        嬲(なぶ)る 元同級生

          【小説】嬲(なぶ)る 24 時代に先がける、コスト

          四 選択制夫婦別姓のずっと前のころ  衿子のもう一つのコンプレックス。そこには袖子が大いに関与してるんだよね。いわば張本人なんだな、これが。  令和の時代界隈では、選択的夫婦別姓とやらがかまびすしい。しかし、当時、バブルもはるか前、結婚すれば同じ姓になる。これ一択だった。  しかも、ほとんどが男の姓に変わるものだと信じて疑わなかった。  おいらの周囲の女たちは、意中の男の苗字に、自分の名前をつなげては心をときめかせていたもんだ。  そんな時代界隈で、袖子の奴。天性の勘違い

          【小説】嬲(なぶ)る 24 時代に先がける、コスト

          【小説】嬲(なぶ)る 23 スーツを着た人が偉い! なんてことはない。

            三  スーツコンプレックス あの年は大雪だったな。東京も大雪にまみれていた。一面の銀世界のなか、実家をあとにした袖子は、以来、実家との音信を一切断った。 「どうしてる、元気か」   親父からは留守番電話に幾度かメッセージが残されていた。  しかし、袖子が返信することはなかった。 「一度口に出したことは、命に代えても実行する」  袖子のことだから、こんな理由だったと思うぜ。売り言葉に買い言葉ってことが通用しねぇんだよな、袖子には。  売り言葉どころか、3歩で忘れるのが

          【小説】嬲(なぶ)る 23 スーツを着た人が偉い! なんてことはない。

          【エッセイ】いくつになっても、恋に悩む

          今は今。 忘れたころに電話がかかってくる友人がいる。 私に用事があるわけでも、会いたいわけでも、ない。 用事があるのは私以外の人であり、会いたい相手も私以外の人だ。 とはいって用事などほとんどない。 用事がないから、困っているのだ。 学生時代、私と友人は、同じ男性に恋をした。 キャンパスでしばしば見かけていた先輩だ。いつもいつも私と友人は先輩を探し、遠くから見とれていた。 ロン毛から覗く鼻筋の通った顔。ベルボトムジーンズに、ヒールを履いた脚はスラリと長い。 「ジュリーよりカ

          【エッセイ】いくつになっても、恋に悩む

          【小説】嬲(なぶ)る 22 何事もナイショにすれば、波風立たず

          二 ナイショグセの恩恵と弊害  衿子の亭主は、高校卒業後、地元企業に就職した。そこで衿子と知り合い、結婚した。  当時は、個人のクリーニング店にすぎず、従業員は2人。1人は、親父が修業時代からの同僚、もう1人は中学を卒業して弟子入りした若者。まぁ、どこにでもある街角のクリーニング店といったところだな。  衿子は結婚後、亭主の転勤にともない、県内外で暮らすようになる。その間、2人の子どもに恵まれ、子育てに専念した。  藤枝クリーニングを手伝うようになるのは、夫が本社勤務にもど

          【小説】嬲(なぶ)る 22 何事もナイショにすれば、波風立たず

          【小説】嬲(なぶ)る 21 亭主と父親、どっちに味方する?

                 第 5 章 一 亭主と父親の板挟み  成長期、体の成長に心が追い付いていかない。肩書の出世に、実力がついていかない。そういうことって、よくあるよな。 藤枝クリーニングの苦境は、そんなところに原因があったと思うんだよね。  元々は小さなクリーニング店だった。農家の5男に生まれた袖子の親父が、クリーニング店の小僧として修業に いつもなら手水までイネの腕をつかんだまま入った。  5年間の修業を終えると、独立して自分の店を持ったってわけ。   そのまま小さなクリーニン

          【小説】嬲(なぶ)る 21 亭主と父親、どっちに味方する?

          【小説】嫐(うわなり) 全編

                第一章 一 終電の前に                                   恋愛が消えた。  恋愛なんてカッコ悪い、ダサい、何らのメリットもない非生産的行為だから。  秋も深まった11月下旬、新宿駅。発車を知らせるメロディーがあたかも空襲警報のように、麦子たちを急き立てた。万一乗り遅れたとしても、終電に乗ることはできた。かといって終電に乗り遅れないように走るのと、最悪の場合でも終電があるという気持ちで走ることには差がある。  だから麦子たちは、終

          有料
          500〜
          割引あり

          【小説】嫐(うわなり) 全編

          【エッセイ】逃げると、ワニ

          地方出身なんだけど、自然には縁遠く育った。 小学校5年生のとき、自然のある場所に引っ越した。 木に咲く花は、すべて桜、草に咲く花は、すべて菊。 理科のテストに、そう書いて、バカにされた。 以来、理科は苦手だ。 通学路には、トカゲが出る。 光っている。 初めて見るトカゲが怖くて、立ち止まり、遠回りして 何度も遅刻した。 トカゲのない所に行こう。 そう思って、大学は東京にした。 授業を終えて、駅に降り立つと、パトカーががなり立てていた。 「ワニが逃げていますので、気をつけてく

          【エッセイ】逃げると、ワニ

          【エッセイ】逃げるばかりが、能じゃない。

          逃げたほうがいいときもあるけど、逃げないほうがいいときもある。 今はちょっと昔。 嘘つきました、だいぶ昔です。 上京した冬の夜道、いつものように一人で歩いていると、 男性が着いてくるのです。 小学校の壁が続く道で、人通りはありません。 私が走ると、男も走り、私が速度を落とすと、男も速度を落とします。 思い切って振り返ると、ニヤリ。 私は、怖くなって灯りのついている家に逃げ込みました。 常連だった喫茶店のマスターに迎えに来てもらい、そのときは 難を逃れました。 春休みに入

          【エッセイ】逃げるばかりが、能じゃない。

          【小説】嬲(なぶ)る 21 給料3倍でも、働きたくない事業所

          五 春の気配  新しい事務員は、美声の持ち主だった。それも、人並外れた美しさだった。本人も認めている。 「来た人は、事務所内をぐるりを見回すんです。電話に出た人はどこにいるのか探しているんだと思います。私が目の前にいて、応対しているのに。若いときから、そうだったんです。うふふ」  妖精が森の中を軽やかに飛び回るような声で答えた。  冴子の後任探しに、袖子が出した条件は、3つ。 1.大手企業に勤務経験があること。 1.円満な家庭を持っていそうなこと。 1.40歳以上、70歳

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          【エッセイ】子どもだって、恋に悩む

          やっぱり今はかなり昔。 同級生に恋をした。下駄屋のタケちゃんだ。 タケちゃんは、やや太め。 タケちゃんの書く「た」の字が好きだった。 大きくて、偉そうだったのだ。 「タケちゃん、一緒に帰ろう」 「うん、一緒に帰ろう」  ランドセルを背負って、タケちゃんを促す私に、言った。 「ちょっと待ってね。たみ子ちゃんを呼んでくるから」  ……。 傘屋のたみ子ちゃんと、タケちゃんは幼稚園時代からの 同級生だった。 おまけにタケちゃんちの下駄屋の斜め前が、たみ子ちゃんちの傘屋だった。 私を

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          【エッセイ】言葉なしで通じ合えた、あのころ

          今はかなり昔。 ひと言もしゃべらない同級生がいた。 今にして思えば、日本語がわからなかったからだ。 しかし、小学校1年生の私にはわからなかった。 彼女は、中国名。〇△✕、漢字3文字だ。 〇さんと呼ぶ人もいたし、〇△さんと呼ぶ人もいた。 中国名自体になじみがなかったのだ。 先生に質問されても、無言。 友だちに悪口を言われても、無言。 「消しゴム、貸して」と言われても、無言。 彼女が唯一、声を発するのは、点呼のとき。 「○△✕さん」 「しーだ」 好奇心ギンギンの子どもだった

          【エッセイ】言葉なしで通じ合えた、あのころ

          【エッセイ】多様化に、挫折した

          今は昔、キセルが横行した。 乗車駅で1駅分の切符を買い、下車は定期券で行う。 2駅目からの運賃をごまかすことを、キセルという。 友人は、しばしばキセルを行った。 うち10回に1回は、バレた。 駅員室に連れていかれ、さんざん怒鳴られたあと、 乗車駅から下車駅までの運賃の3倍、払わされた。 「もう止めなよ、怒鳴られたら嫌じゃん」 「でも、お小遣いになるもん」 「100%見つからないってわかっていれば、あたしだってキセルする思うけど」 「あたしだって、100%見つかるってわか

          【エッセイ】多様化に、挫折した