真宮書子

小説家志望です。 小説は、ウソの世界です。ウソの世界でしか言えない真実もあります。 ウ…

真宮書子

小説家志望です。 小説は、ウソの世界です。ウソの世界でしか言えない真実もあります。 ウソの世界でしか表現できない思い、気持ちをめざしています。 ぜひ、ぜひ、ぜひ。ご堪能くださいませ。

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嬲(なぶ)る 元同級生

     第一章 一 学生アパートの一夜                                  気づかなかったぜ、まったく。  ウワサの勘違い女が、袖…

真宮書子
2か月前
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【小説】嬲(なぶ)る 29 他人事だって、明日は我が身

     第六章 一 家庭内殺傷事件、勃発  人生を閉じると決めたとき、最後に連絡をするのは誰か。普通に考えれば、一番大事に思う奴だろうな、やっぱ。  衿子の場合…

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  三  スーツコンプレックス あの年は大雪だったな。東京も大雪にまみれていた。一面の銀世界のなか、実家をあとにした袖子は、以来、実家との音信を一切断った。 「ど…

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今は今。 忘れたころに電話がかかってくる友人がいる。 私に用事があるわけでも、会いたいわけでも、ない。 用事があるのは私以外の人であり、会いたい相手も私以外の人だ…

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【小説】嬲(なぶ)る 22 何事もナイショにすれば、波風立たず

二 ナイショグセの恩恵と弊害  衿子の亭主は、高校卒業後、地元企業に就職した。そこで衿子と知り合い、結婚した。  当時は、個人のクリーニング店にすぎず、従業員は2…

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【小説】嬲(なぶ)る 21 亭主と父親、どっちに味方する?

       第 5 章 一 亭主と父親の板挟み  成長期、体の成長に心が追い付いていかない。肩書の出世に、実力がついていかない。そういうことって、よくあるよな。…

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4週間前
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【小説】嫐(うわなり) 全編

《あらすじ》 今から30年余り前、猫も杓子もバブルに浮かれていた。世の喧騒は他人事のように、麦子は人生を一歩も進められずにいた。貴彦を思い切れずにいたからだ。 「話…

500〜
割引あり
真宮書子
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【エッセイ】逃げると、ワニ

地方出身なんだけど、自然には縁遠く育った。 小学校5年生のとき、自然のある場所に引っ越した。 木に咲く花は、すべて桜、草に咲く花は、すべて菊。 理科のテストに、そ…

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【エッセイ】逃げるばかりが、能じゃない。

逃げたほうがいいときもあるけど、逃げないほうがいいときもある。 今はちょっと昔。 嘘つきました、だいぶ昔です。 上京した冬の夜道、いつものように一人で歩いていると…

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【小説】嬲(なぶ)る 21 給料3倍でも、働きたくない事業所

五 春の気配  新しい事務員は、美声の持ち主だった。それも、人並外れた美しさだった。本人も認めている。 「来た人は、事務所内をぐるりを見回すんです。電話に出た人…

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やっぱり今はかなり昔。 同級生に恋をした。下駄屋のタケちゃんだ。 タケちゃんは、やや太め。 タケちゃんの書く「た」の字が好きだった。 大きくて、偉そうだったのだ。 …

真宮書子
1か月前
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嬲(なぶ)る    元同級生

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     第一章
一 学生アパートの一夜                                
 気づかなかったぜ、まったく。
 ウワサの勘違い女が、袖子のことだったなんて。どっちかっていうとおとなしくて、目立たないほうだったもんな。

 成績はよくも悪くもなかったんじゃないかな。中くらい。容姿も……、まぁそこそこ、ということにしておこう。何といっても女だもんな、容姿に言及すると、思わぬ

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【小説】嬲(なぶ)る 29 他人事だって、明日は我が身

【小説】嬲(なぶ)る 29 他人事だって、明日は我が身

     第六章
一 家庭内殺傷事件、勃発
 人生を閉じると決めたとき、最後に連絡をするのは誰か。普通に考えれば、一番大事に思う奴だろうな、やっぱ。
 衿子の場合は、立浪だった。冴子を3倍の給料で引き抜こうとして、フラれた男だ。爪マニキュア男でなかったのがせめてもの救い。それにしても衿子の周りにはろくな奴がおらん。人生の最期を託したのが立浪だったとは、あまりにも哀れだよな。

 約束手形の無断発行

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【短編小説】私はトイレ 

【短編小説】私はトイレ 

《あらすじ》
 都心にある大手企業本社ビル内の女子トイレ。さまざま女子社員が訪れては、オフィスとはちょっと違った顔を見せている。女子トイレだけが知っている、ありふれた女子トイレ内の日常が、今日もスタートした。
 気になるのは、始業まもなく駆け込んできた女子社員だ。昼休みが過ぎ、夕方になっても、ブースに閉じこもったまま出てこない。

《本文》
私は、トイレ。
名前はまだ、ない。この先も間違いなく、な

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【小説】嬲(なぶ)る 28 家族が家族でなくなるとき

【小説】嬲(なぶ)る 28 家族が家族でなくなるとき

 七 お姉ちゃんが壊れちゃった
 想像を交えて説明するな。気になるだろう、他人の離婚って。のぞき見根性って、誰の心にもあるもんだからな。
 えっ、想像じゃしょうがないって? お前らだって、想像にすぎないことをさも事実かのように噂してるじゃん。

 世の中、そんなもんさ。まぁいいから、黙って聞けや。事実も少しは交えているわけで、そう的外れでもないはずだぜ。

 藤枝クリーニングの資金繰りが厳しくなり

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【小説】嬲(なぶ)る 27 家族が豹変するとき

【小説】嬲(なぶ)る 27 家族が豹変するとき

六 身内に差し込むヤバい影
 衿子の亭主が、藤枝クリーニングから手を引いた経緯は知らないんだよな。特段、噂にもなっていなかったからな。
 元々いてもいなくても関係ないというか、存在感がなくなっていたんだよな。

 資金繰りが怪しくなってからは、衿子は経理も自分でやることが多くなっていた。亭主に文句を言われることが嫌だったんだと思うぜ。
 都合のわるいことは何でもナイショにする癖があるからな。

 

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【小説】嬲(なぶ)る 25 悪女パターンはいろいろ

【小説】嬲(なぶ)る 25 悪女パターンはいろいろ

五 ありがちな悪女沼
 勤め人は誰でも、自分の将来に不安を抱えている。クビになる不安はもちろんだが、ミスをしたときの左遷、同期との出世競争に負ける、減給、上司からの叱責……数え上げればきりがない。

「お前はいいよ、藤枝クリーニングがあるもんな」
 
 藤枝クリーニングが大きくなるにつれて、衿子の亭主も、そう言われることが増えたと思うぜ。
 結婚当は街角のクリーニング店にすぎなかったので、亭主も家

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【小説】嬲(なぶ)る 24 時代に先がける、コスト

【小説】嬲(なぶ)る 24 時代に先がける、コスト

四 選択制夫婦別姓のずっと前のころ
 衿子のもう一つのコンプレックス。そこには袖子が大いに関与してるんだよね。いわば張本人なんだな、これが。

 令和の時代界隈では、選択的夫婦別姓とやらがかまびすしい。しかし、当時、バブルもはるか前、結婚すれば同じ姓になる。これ一択だった。
 しかも、ほとんどが男の姓に変わるものだと信じて疑わなかった。
 おいらの周囲の女たちは、意中の男の苗字に、自分の名前をつな

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【小説】嬲(なぶ)る 23 スーツを着た人が偉い! なんてことはない。

【小説】嬲(なぶ)る 23 スーツを着た人が偉い! なんてことはない。

 

三  スーツコンプレックス
あの年は大雪だったな。東京も大雪にまみれていた。一面の銀世界のなか、実家をあとにした袖子は、以来、実家との音信を一切断った。
「どうしてる、元気か」 
 親父からは留守番電話に幾度かメッセージが残されていた。
 しかし、袖子が返信することはなかった。

「一度口に出したことは、命に代えても実行する」
 袖子のことだから、こんな理由だったと思うぜ。売り言葉に買い言葉

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【エッセイ】いくつになっても、恋に悩む

【エッセイ】いくつになっても、恋に悩む

今は今。
忘れたころに電話がかかってくる友人がいる。
私に用事があるわけでも、会いたいわけでも、ない。
用事があるのは私以外の人であり、会いたい相手も私以外の人だ。
とはいって用事などほとんどない。
用事がないから、困っているのだ。

学生時代、私と友人は、同じ男性に恋をした。
キャンパスでしばしば見かけていた先輩だ。いつもいつも私と友人は先輩を探し、遠くから見とれていた。
ロン毛から覗く鼻筋の通

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【小説】嬲(なぶ)る 22 何事もナイショにすれば、波風立たず

【小説】嬲(なぶ)る 22 何事もナイショにすれば、波風立たず

二 ナイショグセの恩恵と弊害
 衿子の亭主は、高校卒業後、地元企業に就職した。そこで衿子と知り合い、結婚した。
 当時は、個人のクリーニング店にすぎず、従業員は2人。1人は、親父が修業時代からの同僚、もう1人は中学を卒業して弟子入りした若者。まぁ、どこにでもある街角のクリーニング店といったところだな。

 衿子は結婚後、亭主の転勤にともない、県内外で暮らすようになる。その間、2人の子どもに恵まれ、

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【小説】嬲(なぶ)る 21 亭主と父親、どっちに味方する?

【小説】嬲(なぶ)る 21 亭主と父親、どっちに味方する?

       第 5 章
一 亭主と父親の板挟み
 成長期、体の成長に心が追い付いていかない。肩書の出世に、実力がついていかない。そういうことって、よくあるよな。
藤枝クリーニングの苦境は、そんなところに原因があったと思うんだよね。

 元々は小さなクリーニング店だった。農家の5男に生まれた袖子の親父が、クリーニング店の小僧として修業に いつもなら手水までイネの腕をつかんだまま入った。
 5年間の

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【小説】嫐(うわなり) 全編

【小説】嫐(うわなり) 全編

《あらすじ》
今から30年余り前、猫も杓子もバブルに浮かれていた。世の喧騒は他人事のように、麦子は人生を一歩も進められずにいた。貴彦を思い切れずにいたからだ。
「話したいことがいっぱいあるんだ」と言い残して姿を消した、貴彦。以来10年以上、音信不通のままになっていた。
貴彦が使っていた方言「なやき」を手掛かりに、旅に出た麦子。そこで出合ったイネという女性の一生。夫に売られ、娼婦として生きた時間も組

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【エッセイ】逃げると、ワニ

【エッセイ】逃げると、ワニ

地方出身なんだけど、自然には縁遠く育った。
小学校5年生のとき、自然のある場所に引っ越した。
木に咲く花は、すべて桜、草に咲く花は、すべて菊。
理科のテストに、そう書いて、バカにされた。
以来、理科は苦手だ。

通学路には、トカゲが出る。
光っている。
初めて見るトカゲが怖くて、立ち止まり、遠回りして
何度も遅刻した。

トカゲのない所に行こう。
そう思って、大学は東京にした。
授業を終えて、駅に

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【エッセイ】逃げるばかりが、能じゃない。

【エッセイ】逃げるばかりが、能じゃない。

逃げたほうがいいときもあるけど、逃げないほうがいいときもある。
今はちょっと昔。
嘘つきました、だいぶ昔です。

上京した冬の夜道、いつものように一人で歩いていると、
男性が着いてくるのです。
小学校の壁が続く道で、人通りはありません。
私が走ると、男も走り、私が速度を落とすと、男も速度を落とします。
思い切って振り返ると、ニヤリ。
私は、怖くなって灯りのついている家に逃げ込みました。

常連だっ

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【小説】嬲(なぶ)る 21 給料3倍でも、働きたくない事業所

【小説】嬲(なぶ)る 21 給料3倍でも、働きたくない事業所

五 春の気配
 新しい事務員は、美声の持ち主だった。それも、人並外れた美しさだった。本人も認めている。

「来た人は、事務所内をぐるりを見回すんです。電話に出た人はどこにいるのか探しているんだと思います。私が目の前にいて、応対しているのに。若いときから、そうだったんです。うふふ」
 妖精が森の中を軽やかに飛び回るような声で答えた。

 冴子の後任探しに、袖子が出した条件は、3つ。
1.大手企業に勤

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【エッセイ】子どもだって、恋に悩む

【エッセイ】子どもだって、恋に悩む

やっぱり今はかなり昔。
同級生に恋をした。下駄屋のタケちゃんだ。
タケちゃんは、やや太め。
タケちゃんの書く「た」の字が好きだった。
大きくて、偉そうだったのだ。

「タケちゃん、一緒に帰ろう」
「うん、一緒に帰ろう」
 ランドセルを背負って、タケちゃんを促す私に、言った。
「ちょっと待ってね。たみ子ちゃんを呼んでくるから」
 ……。
傘屋のたみ子ちゃんと、タケちゃんは幼稚園時代からの
同級生だっ

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