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実話怪談『寒き夜の少年』

これは私が勤めている上司(女性)から聞いたお話しです。
仮にSさんとしましょう。
このSさん、普段は霊的なものはほとんど見えないというのですが、
時々チャンネルが合うこともあるようで、今思えばあの時のは霊だったのかな?ということが何度もあったようなのです。

そんなとある寒き夜のこと。

Sさんの前職は絵にかいたようなブラック企業だったようで、連日の鬼出勤でふらふらになりながらの帰宅でありました。雪もちらつく凍てついた静かな夜だったそうです。

Sさんは、朝は7時に出勤、夜は23時か0時の帰宅がデフォルトの超ブラック企業にお勤めでした。しかもそれがほぼ休みなく連日続くものだからとても車で30分以上かかる実家からは通えないと、早々にそこから徒歩10分圏内にアパートを借り、一人でお住まいになられていました。
徒歩10分圏内とはいえ東北の冬、コートにマフラー、手袋は欠かせません。
毎朝毎晩凍てつく空気の中、暗い道を通っていました。


この時は、疲れていたのか、0時に差し掛かろうという深夜だったからなのか「男の子」を見たそうです。

その「男の子」。歳は小学校3,4年生くらいでしょうか。
元気に一人で道路を挟んだ向かい側の歩道を、こちらをちらちら気にしながら走っていきました。
その時のSさんはあまりの疲れから正常な思考ではなく、「こんな時間に」「子供一人で」など何も疑問に思わなかったそうです。
雪のちらつく中、住宅街の街角に消えていく男の子を元気だなーとそのくらいにしか感じなかったと。

そうして大通りから少し離れた、住宅街の中にある自分のアパートの前まで帰ってきました。

階段を上がろうとしたとき、ふと先程見かけた男の子の光景が脳裏をよぎりました。
先程は感じていなかった違和感が、今やってきたのです。
その違和感は「こんな時間に」「子供一人で」に加え、

「半袖・半ズボンで」
「足音がしなかった」

というものでした。
季節は真冬、Sさんはコート・マフラー・手袋が欠かせません。
確かに幼い子の中には半袖半ズボンで公園や校庭を駆け回っている子はいます。ですがそれはあくまで昼間の光景であり、深夜に、ましてや一人でなぞおかしいと感じました。それにこんな静かな夜なのに駆けて行く足音がしないと言うのもおかしな話です。自分にはしっかり足先まで見えていたのに。

あの子は誰だったのでしょうか?
生きている人間ではないであろうことはかろうじて分かるのですが、追いかけてくることもなく、なんの害も及ぼすことのないあの子はなぜこの世にとどまっているのだろうか。あまりに疲れすぎていて幻覚を見たのか、それにしてはやけにはっきり見えたんだと、そうお話してくださいました。

その男の子を見かけたのはその一度だけで、再び見かけることはなかったと、そんな寒き夜のお話でした。




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