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映画「バリー・リンドン」 美意識と狂気とこだわりと

さて、前回からの続きになります。

お正月に観て度肝を抜かれた映画
スタンリー・キューブリック監督の

「バリー・リンドン」

元々この映画の感想を書きたく、前回のブログでは長い長い前置きを書かせていただきました。

監督のスタンリー・キューブリックは、たくさんの映画監督の中で、今後の映画シーンを変えた名監督のトップ3には入ると思います。


彼は相当な完璧主義者で有名。
美意識の塊、俳優も自分の思う演技をしなかったら、何度でも撮り直すという。

その人の個性を最大限に引き出すタイプというよりは


「俺の思った通りに動いてくれ!」タイプ。



彼の映画に出て後悔した俳優は多数。

マルコム・マクダエル このビジュアル、そりゃそうだ

「時計仕掛けのオレンジ」の主演マルコム・マクダエルは、演じた役が強烈すぎて後を引きまくり、その後は良い役に恵まれなかったそう。


拠点をハリウッドからイギリスに移したのは、ハリウッドのプロデューサーの権威が嫌だったからだそうです。

監督はもちろん脚本も自分で手がけることが多く、とにかく自分の思う通りの映画を撮りたい。


また、彼の凄いところはどんなジャンルも手がけるところ。

「2001年宇宙の旅」「時計仕掛けのオレンジ」はSF映画

「博士の異常な愛情」はコメディー映画(大分難しいですが)

「フルメタルジャケット」は戦争映画

「ロリータ」は恋愛映画

「シャイニング」はホラー映画

これらは映画史に残る名作映画と言われていますが、どんなジャンルにおいても、芸術性の高い革新的な作品に仕上げます。



「バリー・リンドン」のジャンルは歴史映画になります。

18世紀のヨーロッパを舞台に繰り広げられる、ある一人の農家生まれの男性が、貴族に登りつめるまで、そして、その後の没落までを描いています。


キューブリックは作品を撮るにあたり、18世紀のヨーロッパ近世を徹底的に研究したそうです。

その徹底っぷりは本当にすごく、貴族の家の間取り、装飾品、日々の習慣、化粧やつけボクロ(当時流行していた)、カツラの乱れ具合、戦争の雰囲気、貴族・農民の文化等、、一つ一つを詳細に指示。

実際の衣装 Wikipediaより

一番びっくりしたのは、キャストの服は全て手縫いで仕立てたのだそう。

最初は当時の服を使用する予定だったのが、栄養が行き届いている現代人と比べ当時の人は小柄で、サイズが合わなかったそうです。

そこでキューブリックは、全て手縫いで仕上げるように指示。

ミシン縫いだと、布の引き具合とか人の動きが違ってきて、当時の雰囲気を出せないとのこと。


いやーー、映画観れば分かりますが


「この服もあの服も全て手縫いですかっっ!!」


とビックリします!


3時間を超える作品もあって、登場人物もまあまあ多い。
ましてや貴族の服なんて凄く凝っています。



これが有名な、NASAのレンズに改良を重ねてできたカメラ Wikipediaより

一番有名なのはレンズでしょうか。


当時は電気なんてありませんでしたから、夜になるとロウソクの灯りだけで生活をします。

そこでキューブリックは、その時の雰囲気を忠実に再現するため、NASAのアポロ宇宙計画用に開発された特殊レンズを探し出し、何度も改造を重ね、映画撮影用カメラ用に仕立て上げたそうです。それによって、ロウソクの灯りだけでの撮影が可能に。(1980年代になると高感度フィルムが開発され、現在は蝋燭だけでも無理なく撮影できるようになっているそうです)

ロウソクの灯りが本当に綺麗


確かに、夜の室内シーンは風合いが本当に綺麗。執念の賜物です。


あとは、セットもものすごく忠実でびっくりします。
このように当時の風景画のワンシーンの如く。

映画に出てくる田舎道のシーン
当時の風景絵画。 雲までそっくり!


カモコラージュの作品を制作する際に、18世紀に描かれた絵もたくさんお借りするので

あ、この風景観た事ある!と思うことが多々。

映画に出てくる都のシーン
当時の風景絵画 かなり忠実です

まるで絵画を一点一点鑑賞しているかのよう。


マリー・アントワネットの自画像

こちら、マリー・アントワネットの自画像なのですが(設定が18世紀半ばなので一緒の時代)

映画のワンシーン 貴族の家族ご一行

さすがの忠実っぷり!女性の衣装がそっくり!


他にも映画のワンシーンと、当時の絵を比べてみると、、、

映画のワンシーン 貴族は基本「遊び」が仕事です
トマス・ゲインズバラ作「ベイリー家の肖像」
トマス・ゲインズバラ作

当時有名だった肖像画家のトマス・ゲインズバラの絵と比べれば一目瞭然。
服はもちろん、髪型やメイク、映画全体の色味のトーンまで似せています。

本当に見事な映像美です。


なんて煌びやか!

とにかく映像が綺麗なのと、18世紀ヨーロッパの再現性の素晴らしさだけでも見る価値がものすごくある映画。

とはいえ、映画全体の評価としては賛否両論です。
長いうえに淡々としてつまらないという人もいます。


私は物語自体もすごく引き込まれました。
一つ一つのシーンがものすごく丁寧に描かれていて、見入ってしまいました。

主役のレイモンド・バリー 見事なクズ男です

主人公のレドモンド・バリー、俳優はライアン・オニール。

「ある愛の詩」とは別人。(彼のもう一つの代表作)

究極のクズ男役なのですが、なぜか憎めない。

バリーの貴族までのぼりつめた絶頂と転落を、丁寧に静かに描かれています。
彼のその控えめで淡々とした演技がまた良いのでしょう、キューブリックさすがの人選。

キューブリックが選ぶ主役の男性は、いつもどこかが不気味だなあと思います。


どこかしら不気味な雰囲気が漂うキューブリックの映画


また、奇人ゆえのキューブリックらしいシニカルなジョークが所々に散りばめられ、笑ってはいけないシーンで思わず笑ってしまったりと。

個人的に一番強烈だったのは、前半の中間に出てくるシーン。

バリーがひょんな事から兵隊に入隊をしなくてはならなくなり、戦争に参戦します。

当時は「戦列歩兵」と言って、横に一斉に並んで、太鼓や鼓笛を吹きながら歩いて敵陣に乗り込むという、とんでもない戦法がありました。

「戦列歩兵」 日本でいう「特攻隊」みたいなものでしょうか

このように歩きながら突き進むのですが、

敵陣が銃を構えて待ち構えるという。。

敵陣は銃を構えていて、とにかく撃たれる撃たれる。

バッタバタ味方が倒れていく中、恩人の隊長まで撃たれて亡くなる悲劇。
それでも怯まずに歩き続けるという、、、


かなり残酷なシーンではあるのですが、そこの描き方がキューブリック節を炸裂していて、思わず笑ってしまった自分がいました。なんて不謹慎、、でも笑わずにはいられないという、、


その衝撃が尾を引いてできた、カモコラージュ作品がこちら。

「オレンジ姫と鼓笛隊」

元々オレンジ姫は少し前に、奇妙なキャラクターとして誕生していました。
個人的にかなり好きでマッチしたなーと思っていまして、もう少しストーリーを作りたいなと思っていました。

ちなみに使用画像はこちら。

オレンジ姫の顔はこのお姫様 生意気な顔立ちがなんとも
名称わからないのですが、この首のもふもふレース。
昔から惹かれるものがあり、作品内に何度か登場


そこで登場したのがこの子たち。

確かアメリカの劇場のポスター

賑やかしい鼓笛隊が、オレンジ姫の家来になって、太鼓を叩き続けながら駆けずり回ったら楽しいのではないかと。(いや、恐怖??)


顔に使用したオレンジ

オレンジの国の、オレンジ姫と、オレンジの鼓笛隊

とにかくオレンジ一色にしました。
偶然にも「時計仕掛けのオレンジ」と被る衝撃!!


不気味さも持ち合わせたファンタジーの作品の完成です!
(個人的にもかなり気に入っていまして、近々A3絵画で販売予定です。)


見る人が見たらこの絵はホラーでしょう。
それもそのはず、影響は「バリー・リンドン」の世界。

いえ、キューブリックそのものと言っても良いかもしれません。





久々のキューブリック映画鑑賞、やはり深く重く、観るときは覚悟が必要。


でも最高に面白かった!

やはり映画は「心の師」ですね。



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