見出し画像

操られた心

内容を全く知らずに読み始めた1冊の長編小説『幻夜』。

北陸で震災があったばかりだったので、読み進めていくうちに『あれっ!』となった。

物語の背景に、1995年の阪神淡路大震災が描かれていたからだ。

偶然とはいえ驚きつつ、一気に物語に惹き込まれ、ゆっくり読むつもりがあっという間に読了。

自分の正体を知ろうとした者は消していく…まるでデューク東郷のような一面を持つ摩訶不思議な1人の女性。
下手な関わり方をすると容赦なく鉄槌が下される。

人の心を巧みに操る術にけているだけに始末が悪い。

生き抜くため、幸せになるためとはいえ、こんなことが許されるだろうか…そして完全犯罪はあり得るものだろうか…

底知れない不気味さ、妖しさ、もろさ、儚さ。

長編小説『砂の器』『火車』やシドニィ・シェルダンの作品を彷彿とさせる箇所もあり。

作中にさり気なく登場する陶芸教室が物語に彩りを加える。
土の形を変えバランスを整える描写など、人間の心理に例えているようで、見事というより他はない。

勇気を持って力をこめないと形は変わらない。慎重かつ大胆に、その匙加減が難しい。

長編小説『幻夜』より

そして名優、三船敏郎さんへのオマージュが感じられる教室名と登場人物の名。

魂を失い、操り人形のように変形させられた心は、かけられた罠から抜け出すことは出来るのか…

世の中が徐々にネット社会に足を踏み入れていく時代が舞台ということもあり『2000年問題』についても触れていた。

かつて、コンピュータの誤作動について予測できないという社会問題が起きていた時の状況を思い出す。

ミステリー小説としてだけでなく、ここ四半世紀あまりの記録という視点から読んでみても楽しめる作品だった。


この記事が参加している募集

スキしてみて

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?