見出し画像

バレエ感想㊴「NHKバレエの饗宴 2024」


「L’heure bleue」イリ・ブベニチェク振付

今回は東京シティバレエ団の岡博美さん、平田沙織さん、植田穂乃香さん、折原由奈さん、石原あずささん、吉留諒さん、沖田貴士さん、福田健太さん、岡田晃明さん、林高弘さんによる「L’heure bleue」から始まりました。
バレエは普通ならソリストだけにスポットを当てますが、この作品は10人全員にスポットが当たっており、新鮮味があって面白かったです。

「L’heure bleue」初めて見たのですが、バロック時代の衣装に、モーツァルトの音楽が使われており、一瞬「ル・パルク?」と思ってしまいました。衣装の色合いとか雰囲気が似ていて、インスピレーションをかなり得てるのかなと思ったり。でも女性陣が座っている長椅子はノイマイヤーの椿姫に出てくるものに似ているので、振付のイリ・ブベニチェクが今までに踊ってきた作品へのオマージュでもあるのかな?と想像してみたり…😊
ちなみに「L’heure bleue」の振り付けはイリ・ブベニチェクが担当しましたが、衣装はイリの双子のオットーが担当したみたいです。

イリ/オットー・ブベニチェクは私が小さい頃ハンブルクバレエ団で活躍しており、昔からブベニチェク兄弟とヘザー・ユルゲンセンが大好きで、ダンスマガジンで舞台の写真を見るたびに「いつか生で見てみたいな」と思っていました。
今回一番嬉しかったのは、カーテンコールに振付のイリが出てきたことです😍
昔から憧れていたイリを思いがけない形で生で見ることが出来て嬉しかったです。ぜひ次はイリにも踊ってほしいし、舞台に出てきてほしいなと思いました。

「幻灯」中村祥子・小㞍健太(振付/演出)

第2部では、マリインスキーバレエ団に所属する永久メイ/フィリップ・スチョーピン組の「眠れる森の美女」、ロイヤル・バレエ団に所属する金子扶生/ワディム・ムンタギロフ組による「くるみ割り人形」はどちらも素敵でしたが、正直言って中村祥子さんと小㞍健太さんの「幻灯」が圧巻すぎて、全て持って行かれました。

2人が踊った「幻灯」はなんと小㞍健太さんご自身が振付・演出された作品で、ダンスだけでなく、振り付けも演出も素晴らしかったです。
特に演出面が秀逸で、特殊な床を使っており、布や照明、スモーク、音楽、いろいろな要素を使って空間を演出していました。特に小㞍さんがコンテンポラリーの弱点ともなってしまう「だだっ広い空間」を逆手にとって、様々な演出で新たな空間を作り出し、舞台に奥行きを与えていたことに心を奪われました。

例えば床は鏡のようにツヤツヤで、祥子さんと小㞍さんの踊っている姿が反射しており、まるで水面で踊っているかのようでした。床にダンサー達の姿を反射させることで、舞台の奥深くにもう一つの空間を作り出し、現実と幻想の間を行き来しているダンサーの姿を表現しようとしているように見えました。
ダンサーとは自分を見せるだけでなく、自分を通して役を表現する仕事だと思っています。私たちが見ているのはダンサー自身なのか、それともダンサーが表現している役(幻想)なのか、それを視覚的に見せてくれている不思議な体験でした。
床だけでなく、布を使ったり、スモークや照明を工夫して、場面が転換しているかのように見せていたことも本当に素敵でした。ダンサーとしてただ舞台で踊るだけでなく、観客をも彼らの空間に引き込み、まるで私たちも舞台を作り上げている一員のような錯覚を起こさせてくれたように思います。

そして目に見える床や照明など視覚的に観客に訴えるだけでなく、聴覚的にも新たな空間を作り出そうとしているように感じました。
照明は色々な方向から光を照らし、音楽によって色合いを変え、舞台の上にさまざまな空間を作り出してくれました。
「幻灯」ではリヒターの「マックス・リヒター再創造:ヴィヴァルディの「四季」」が使われましたが、東京フィルハーモニー交響楽団が参加しているのに何故か録音が使われることになっており、不思議に思っていました。舞台が始まって納得したのですが、音が左右色々なところから聞こえてくるような気がして、舞台だけでなく、音が流れている客席の空間もこの作品の一部として捉えられているように感じました。

もちろん、演出や振り付けだけでなく、祥子さんと小㞍さんの踊りも素晴らしかったです。まるで蜘蛛が巣の上をスルスル歩くように、足音もせず滑るような動きをされていたのが印象に残りました。リフトの時も重力を感じさせず、観客を現実に引き戻すことがなく最後までその空間に引き込んでいました。
祥子さんは裸足になったりポアントになったり、バレリーナとしての爪先の美しさを堪能させてくれただけでなく、ダンサーとして命を削ってきたそれまでの凄みや迫力を感じさせてくれ、雲に浮いているかのような白い衣装を着ているということもあってか、シルヴィ・ギエムのSissiやスヴェトラーナ・ザハーロワのRevelationを彷彿とさせました。
小㞍さんも独特な動きを難なくこなすだけでなく、重力を感じさせないかのような動きがとても印象的でした。

祥子さんはKバレエのクレオパトラ以来、小㞍さんは森山開次さんの「星の王子さま」以来久々に見れるということで今回どんな作品を見せてくれるのか楽しみにしていました。この2人だからきっと素晴らしいものを見せてくれると期待していましたが、予想以上で、この感動は私の記憶に深く残ると確信しました。

「幻灯」は本当に素晴らしく、これこそ日本を代表して世界に勝負できるバレエだと思いました。床や背景に工夫して、舞台という広い空間にさらなる幻想的な空間を作り出そうとしている取り組み、そして音源を巧みに使って客席の観客までも舞台の一員と感じさせてくれる、素晴らしい作品だと思いました。
あまりに引き込まれ、小㞍さんは天才だと思いました。これだけ発想力がある振付家/演出家が日本にいるだなんて、同じ日本人として本当に嬉しく、誇りに思いました。「幻灯」を見れただけでもNHKバレエの饗宴のチケットを買った甲斐がありましたし、これからも小㞍さんの作品を沢山見ていきたいです。

「ドン・キホーテ」新国立劇場バレエ団

Twitter上でも書かれている方がいましたが、中村祥子さんと小㞍健太さんが凄すぎて魂を持ってかれてしまい、新国立は数で勝負してきたなという印象で、ダンサー達も慣れきってしまったためか新鮮味が感じられず、若干上の空で見てしまったかもしれません。それだけ祥子さんと小㞍さんの迫力は凄まじかったのです。

ですが、サンチョ・パンサの福田圭吾さんがとても良かったことは覚えています。何度も踊っているはずですが、唯一福田さんだけが新鮮味を感じさせてくれて楽しかったです。最初に入場した時に会場の広さに驚くようなお芝居をされていたことがとても面白く、適度に田舎者の体を表現しており、米沢唯さんや速水渉悟さんはじめダンサー達が踊っている最中は邪魔にならない範囲で演技をしていたのがとても印象的でした。ちなみに演技については廷臣として舞台左の最奥にいた方も踊り手の邪魔にならない範囲で演技されていて素敵だったのですが、帽子と髭で誰だか分からず😭
カーテンコールの際も、みんなお辞儀をしたら素に戻ってしまうのですが、福田圭吾さんだけは最後の最後までサンチョ・パンサになりきっており、観客に夢を見させてくれました。

あと公爵は本公演でドン・キホーテとロレンツォを演じた中島駿野さんが演じていたのですが、今回のドン・キホーテ役である趙載範さんと並ぶと「ドンキホーテが2人いる…。ドンキホーテがロレンツォと並んでる…」と勝手に脳内変換されてしまい、なんだか面白かったです😂
私は公爵夫妻や貴婦人達の衣装が大好きなのですが、中島さんも渡辺与布さんも美男美女でものすごく衣装が似合っていて素敵でした。川口藍さんと中島瑞生さんのボレロはANNA SUIみたいな紫の衣装!

キャスト表を見たら大好きな直塚美穂さんだけでなく、くるみで魅せてくれた木下嘉人さん、小柴富久修さん、木村優子さん、清水裕三郎さん、上中佑樹さん、宇賀大将さん、森本亮介さん、佐野和輝さん、小野田陽斗さん、菊岡優舞さん、西一義さん、西川慶さん、森本晃介さん、など注目株は何人もいたのですが、残念ながら座席が非常に遠く、ファンダンゴも廷臣も帽子をかぶっていて誰がどこにいるか分からなくなってしまったのが残念でした😭
裕三郎さんは辛うじて見つけられましたが、佐野さんや他の方は全然分からず…😭 ファンダンゴもっと踊ってほしいし、上階からだと顔見えないから帽子取ってほしい…😭

今回、新国立劇場バレエ団のダンサー達を見ていて良いなと思ったのですが、最後に全員でカーテンコールの際にソリスト達がそれぞれお辞儀をするとき、後ろに並んでいた新国立のダンサー達も沢山拍手をしていたこと。
踊っていたダンサー達へのリスペクトが感じられて、とても素敵だなと思いました。新国立きっと良い人が多いんだろうな、雰囲気良さそうなバレエ団だな、と思いました😊

バレエの饗宴、海外ゲストではなく、日本のバレエ団を大トリにしたのはすごくいい采配だと思いました。新国立劇場バレエ団は米沢唯さんや速水渉悟さんのように海外でバンバン活躍した人が帰ってきていて、レベルがものすごく高くなっています。日本にこんなパワフルなバレエ団があるなんて嬉しいですし、誇らしいです。

来年もNHKバレエの饗宴を絶対に観に行きたいので、チケット争奪戦頑張ります!(チケット代の貯金も頑張ります!)

この記事が参加している募集

舞台感想

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?