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新国立バレエ「ドンキホーテ」の衣装担当オークネフについて

ドンキホーテの衣装やセットはおそらくファジェーチェフ版初演時の1999年から変わらないと思うのですが、当時はお金をめちゃくちゃかけて総力を上げてセットや衣装を作ったんだろうなと感じました。衣装もセットも今じゃ考えられない豪華さです。

今回のドンキの衣装はとても明るい色合いで華やかなので、多分外国人のデザインだろうなと思いましたが、ロシア出身のヴャチェスラフ・オークネフさんのデザインです。ペレンが有名なミハイロフスキーバレエの首席デザイナーです。

https://www.mariinsky.ru/en/company/designers/okunev/

ミハイロフスキーだけでなく、ロシアをはじめとして世界中で活躍される衣装デザイナーです。日本での有名どころだと代表作はエイフマン振付で新国立劇場バレエ団でも上演された「アンナ・カレーニナ」や、同じく1998年に初演された新国立劇場「白鳥の湖」などでしょうか。

https://www.japanarts.co.jp/special/eifman2019/english.html
https://artsandculture.google.com/asset/costume-for-odette-in-ballet-swan-lake-costume-design-by-vyacheslav-okunev-costume-maker-vozrozhdenie/QwF22wWUn4o2cw?hl=ja

また新国立バレエ団だけでなく、ミハイロフスキーバレエ団のドンキホーテの衣装も制作しており、何とニューヨークタイムスにも載っています。凄すぎる・・・。

https://mikhailovsky.ru/en/afisha/repertoire/don_quixote/

こちらのインタビューではミハイロフスキーバレエ団のドンキホーテの衣装制作時のこだわりなどを話されています。個人的に素敵だなと思ったのがこの一文。
"Each act in the ballet has its own colour, both in terms of the music and, quite literally, in the scenery." (各幕には、音楽も、舞台美術も、それぞれの色がある)
おそらく原文はロシア語で英語に翻訳されたのだと思いますが、言葉のチョイスが本当に素敵。短いインタビューなのでぜひ見てみてほしいです。そういえばドンキホーテを見るときに明るいなぁとか赤いなぁとかは思いましたが、各幕の色までは考えてなかったです。深い・・・。

新国立のドンキホーテの衣装はおそらく初演時の1999年のデザインのままだと思うのですが、そういえば当時はマリインスキーの眠れる森の美女の衣装が丸コピだったり、ロシアからのゲストダンサーがめちゃくちゃ多かった記憶があります。現在もオクネフと連絡を取り合いながら制作を進めたのかは謎ですが、オクネフと新国立劇場バレエ団の繋がりが強固であることは確かだと思います(こんな世界的デザイナーとパイプがあるなんて、すごい!)

キトリやバジルの衣装はハッキリと主演ダンサーを美しく見せ、そしてエスパーダや街の踊り子などの衣装にも細かい刺繍やレース使いが多くて繊細で、ものすごい費用と手間がかかっていると思いました。ただ刺繍が多いだけでなく、重くならずに踊りやすいとように色々な工夫もされていると感じました。あの衣装は重いのか、実はとても軽いのか、とても興味があります。

エスパーダの刺繍キラキラも凄かったですが、闘牛士達の衣装もベロアのような輝きのある重厚感ある衣装で、華やぎが半端なかったです。街の人気者である闘牛士たちにとても豪華で綺麗でした。

ガマーシュはアホっぽいキャラクターばかり注目されますが、衣装や靴、クッション、そして上等な服を着たお付きもいます。細かいところまで考えられて作られた衣装だと思います。

2幕の森の女王やドルシネア姫の衣装も淡い色合いが夢の場の女王とプリンセスをよく表していて、上品でとても美しかったです。コールドはサーモンピンク、黄色やブルーなど淡い色を基調に衣装が作成されており、マリインスキーの眠れる森の美女に出てきそうな可愛い色のチュチュが沢山で、本当に綺麗でした。見る人全員を美しい夢の場の雰囲気に浸らせてくれる、本当に素敵な衣装だと思います。よく見るとコールドのチュチュにもバラが付いていたり、本当に綺麗💕

個人的にすごいなと思ったのが3幕の衣装で、重厚感がすごいです。
貴族の家でキトリ達の結婚式が行われたという設定なので、貴族役がたくさん出演しています。この時に貴族役が着ている衣装はどれも素敵なのですが、特にブルーの衣装がとても重厚感があって本当に美しいです。何というか上等なカーテンのような重厚感と立体感のある生地なのですが、生地自体がシルクタフタのように光り輝いていて、ベロアも重ねられており、一目見て上等なことがわかりますし、高貴な身分の人の衣装だとわかります。最近はただスカートが長いだけでなんの変哲もない衣装もよく見るので、この高貴な貴族の衣装は本当に素敵だと思いました。
ファンダンゴもダンスシーンが多いので貴族の衣装に比べるとかなり軽く作られていると思いますが、それでも最大限の豪華さと煌びやかさが演出されており、素敵だと思いました。
キトリやバジル、ブライズメイドの衣装も色合いが本当に綺麗で舞台がとても華やかに見えます。

ドンキホーテでは、セットも描かれている景色もとても明るくて立体的で、当時は総力上げてお金をかけてお客にいい舞台を届けようとした意気込みを感じました。正直セットがショボいと私は「このバレエ団金無いんだな」と思ってしまい現実に引き戻されるので、豪華なセットがあるとテンション上がります。なんだこいつお金の話ばかり!?って思われるかもしれませんが、わざわざお金払って劇場に足を運んでまで貧乏な様子を目の当たりにしたいとは思いません。それだけお金を払うのであれば優雅な雰囲気に浸りたいものです。

幕開けのドンキホーテの部屋ではライトを上手く使いながら太陽が入り込む様子を描いており、でも騎士?のドンキホーテの家らしい質実剛健な様子が表現されています。本も重そうだし、机や椅子も重そうで移動が大変そう。重厚なドンキホーテというキャラをよく表していると思います。
1幕はスペインの太陽のように明るく、鮮やかではっきりした明るさがとても素敵です。ガマーシュの家などは貴族の家なので、特に繊細に綺麗に描かれています。2幕の酒場は独特の暗い感じの色合いが素敵で、夢の場は雲の上に浮かんでいるかのようです。
ただし3幕だけはちょっと残念だなと思っていて、貴族の家なので明るくて豪華なのですが、柱の絵が平面画なので、ライトが反射してのっぺり見えてしまう部分があります。ですが、それ以外はとても素敵です!

最後に、これは偏見かもしれませんが、日本人が衣装デザインをするとどうも色やデザインが地味だったり暗い感じのものが多い気がします(個人の見解です)。シンプルと地味を履き違えている人が多い気がします(個人の見解です)。細かい装飾にこだわりすぎて、近くで見ると繊細だけど、遠目から見るとただの地味なのっぺりした衣装ってこともよくある気がします(個人の見解です)。
日本人デザインはだめ、とは言いませんが、色使い等はもう少し変わっていって欲しいなと思います。

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