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イカスミパスタ食って思い出す、サイゼリヤの理念

朝11時前、サイゼリヤに一人でふらっと入った。
まだ昼飯の時間でもないのでガラガラ。学生の一団も屯していない。

この日は朝から冷えていたので、とりあえずスープとして「田舎風ミネストローネ」は決定。あとはパスタにでもしようとページをめくる。
「エビとアスパラガスのオーロラソース」の口で入店していたが、その下にある「イカの墨入りスパゲッティ」にどうしようもなく興味をもっていかれた。目が釘付けになって離れない。
でも、これまで一度もイカスミパスタを食ったことがない。こんな気楽に入ったサイゼリヤで、覚悟もなにもできていない中、初イカスミパスタをここで捧げるのか?

……いや、サイゼリヤだし、もし失敗してもダメージは少ない。それに、突然の決断であっても、人生を左右するようなものではない。もっと気楽に構えるべきだ。
どうせ一人だし、黒くなった歯を誰に見せるでもない。ちょっと冒険したくなったので、人生初のイカスミパスタを食べることにした。


就活時代、サイゼリヤのブースで聞いたこと

こうして私はサイゼリヤで人生初のイカスミパスタを食べることになったが、ここでふと、就活時代、合同説明会のサイゼリヤのブースで説明を聞いたときのことを思い出した。

そのとき、「サイゼリヤは食の経験価値を大事にしている」というようなことを仰っていて、それが強く印象に残っていたのだ。

もう5~6年前なのでうろ覚えだが、確か「食の経験価値」とは、家庭になかなか登らないメニューや、他のレストランでは置いていないメニュー。あるいは高級店にしか置いていないメニューをサイゼリヤに行けば食べられる、というような説明だったと思う。それ以外にもいろんな意味が含まれていたと思うが、そのあたりはサイゼリヤ公式から確認してほしい。

確かに、大人気で一時品切れを起こしたラム肉の串焼き「アロスティチーニ」とか、ムール貝とか、極めつけはエスカルゴ。なかなかお目にかかれなかったり、あっても高かったり、ちょっと食べるのに躊躇するかもしれない料理、食材。それらを手に取りやすい価格で、そしてあちこちにあって足を運びやすいサイゼリヤで提供しているのは価値がある。
掲げるだけ掲げて「ワーイ」となってお飾りになりがちな企業の理念だが、サイゼリヤはきっちり実行している。

当時その理念を聞いて、いいな。と純粋に思った。今でも思っている。
結局サイゼリヤにエントリーすることはなかったが、ずっと私の心に残っている理念だった。

そして今、私はサイゼリヤのおかげでイカスミパスタに一歩踏み出すことができている。

人生初のイカスミパスタ

500円でイカスミパスタ食えていいんですか!?

運ばれたイカスミパスタは思ったより黒くない。ダマになっているかもしれないと、グルグル混ぜていると次第に墨色で塗りこめられていった。
さて、この真っ黒な麺、なんせ初めてなので食べるには勇気が要る。
「イカ」とはこれまで30年近く懇ろにしてきたが、彼が持つ「墨」とはずっと距離を取っていた。ないモノのように扱っていた。が、今日はその墨と対峙する。初対面の気恥ずかしさを乗り越え、イカ見知りを乗り越え、いざ、口の中に……!!!

う、うまい……。

もっと生臭く、苦いものだと思っていたが、広がるのはまろやかなコクとそれを引き立てる磯の香り。にんにくと玉ねぎ(たぶん)といったお馴染みのメンツが顔を出すと、途端に私とイカスミパスタの仲は急接近。30年来の友人かのように親しくし始めた。

食べる手止まらずすっかり完食。私とイカスミパスタのファーストコンタクトは互いに好感触で終えることができた。「また逢いましょう」と挨拶をして店を後にする。

世間には、初めて食べるならサイゼリヤじゃなくてもっと良い所のレストランでちゃんとしたものを……という声もあろうと思う。
そりゃあ、皿がちょっとチャッチイとは思うけど、やっぱりそこらじゅうにあって、気楽に入れて、ちょっと冒険しても大丈夫か、と思える値段で提供してくれるサイゼリヤの存在は代えがたいものがある。
だって、ジ〇リーパスタでイカスミパスタを食おうと思うと大体倍ぐらいの値段だぜ?
いきなり飛び込むには難しい。すでに「イカスミパスタを知っている人間」でないと頼めないだろう。だから、その最初の一歩、弾みをつけてくれるサイゼリヤの存在は大きいのだ。

サイゼリヤで得た経験価値

かくして、私はこれから胸を張ってイカスミパスタを食べることができる。大手を振って、「イカスミパスタ、旨いぜ」と周りに吹聴して回ることができる。これはまさにサイゼリヤで得た食の経験価値に他ならない。

他にもサイゼリヤで得た食の経験価値はなかったか、と考えてみたら何個か出てきた。

田舎風ミネストローネ

これはサイゼリヤに影響を受けて作った自作のミネストローネです

イカスミパスタと一緒に頼んだ「田舎風ミネストローネ」はこれまでのミネストローネ観を打ち破ってくれた。
ミネストローネなのに、赤くないのだ。むしろ茶色寄り。「田舎風」と銘打つにふさわしい素朴な味わい。でも、それが私には好ましく感じられた。

「ミネストローネ」と聞けば、やっぱり思い浮かべるのは真っ赤なあのスープ。
トマトの鮮紅。元気いっぱいお日様の色。そして3倍。

ただ、正直なところ、あまりに赤が鮮やかなミネストローネは目にトゲトゲしさを感じざるを得ない。赤は元気の色のはずだが、逆に元気を吸い取られることもある。

でも、サイゼリヤの田舎風ミネストローネは優しい色。彩度が落ちて円みを帯びた色ぐらいが私にはちょうどよい。
ミネストローネ、赤くなくてもええやん。と思わせてくれたメニューであった。

ほうれん草のくたくた(終売)

これまた、影響されて作ったものです

かつてメニューにあった「ほうれん草のくたくた」も私は印象深い。
その名の通り、ほうれん草をくったくったでろんとなるまで煮たもの。私が食べたときは、ほうれん草を煮たものにチーズをかけただけのストロングスタイル。

でも、これがまた美味かったんだよなぁ。舌に溶けるほうれん草の甘苦みと美味しさ溶けだしたスープ。オリーブオイルを垂らして食べるとまた表情が変わってよかった。
今はほうれん草のソテーと入れ替わりでなくなってしまったけど、あまりにも惜しい。

というわけで、サイゼリヤに影響を受けて作ったほうれん草のくたくた(ベーコン入り)のレシピを貼っておきます(私のブログです)。

こんな感じで色々とサイゼリヤには食の経験をさせてもらっている。これからもお世話になるだろうけど、乗り越えないといけない個人的ラスボスが控えているので、次にサイゼリヤに行ったらぜひ口にしてみたい。そのラスボスたるや、

「エスカルゴ」

である。
これはイカスミを超える覚悟が必要。きっちり身体のコンディションを整え、ムール貝で素振りをしたあと、ワインを飲んでもいいように電車で行けるサイゼリヤに行こう。
あれ?すっかり楽しみにしていないか……?

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