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消費者インサイト=本能的欲求×状況×葛藤…つまりは物語だ。

noteと仕事を繋ぐ。これを今年のnoteの目標にしようと考えています。

その一歩目として、先日「ショートショートづくりとマーケティングが繋がってきた」というお話を書きました。これはnote編集部さんのオススメ記事にも取り上げていただき、「筋の悪い考えではないのかもしれん」と少し安堵できました。

ただ前回は僕の感想のようなもので、物語づくりとマーケティングがどう繋がるのか、具体的なことはあまり語れていませんでした。
なので今回は、もう少し具体に突っ込んだ話をしてみたいと思います。

お話したいテーマは、「インサイト」です。

僕は仕事でもnoteの活動でも、共通して「人間心理の追求」というテーマを大切にしています。人(あるいは自分)の心をもっと知りたい。それが僕の諸活動の強い原動力になっています。

だから「インサイト」という言葉もよく分からないままにしておきたくない、自分なりの答えをしっかり持っておきたい。そう考えていました。

しかしこの言葉、本当にふわふわしている。
実態がなかなか見えてこない。だけどみんなお構い無しに「これがインサイトだよねー」とか普通に使いまくってる。ほんと分かってんのかなあ…。


そんな深ーい闇に、三下マーケターで作家もどきの「半端の盛り合わせ」みたいな僕が、無謀にも立ち向かってみました。なんていじらしい。暖かい目でみていただけると幸いです。


●様々な「インサイトの定義」について

まず、世の中的にインサイトがどのように定義されているのかを見てみたいと思います。
僕が見たサイトや読んだ本などから、いくつか抜粋をします。

インサイトとは、直訳すると「洞察」、「本質を見抜くこと」を指すが、マーケティングにおけるインサイトとは「消費者インサイト」を指す場合が多い。
消費者インサイトとは、消費者の購買行動の根底にある、時には本人さえも気付いていない動機・本音のことである。
ーリサーチ会社マクロミルのHPより
https://www.macromill.com/research-words/insight.html
インサイトとは、「人を動かす隠れた心理」のことです。
これがわかれば、見えてこなかった「欲しい」が理解できるようになります。
ー『「欲しい」の本質 人を動かす隠れた心理「インサイト」の見つけ方』より

「コンシューマー・インサイト」とは、顧客自身が言語化できていない領域(無意識)まで深く洞察して見抜く「本質」のことです。(中略)氷山の一角のように、一部だけ顕在化している人の行動・意識への洞察を頼りに、その底に眠る言語化されていない「深くて本質的な悩みや欲求」を発見していくのです
ー『電通現役プランナーのヒットをつくる「調べ方」の教科書』より


このようにいろいろ見ていくと、「インサイト=本人が気づいていない潜在的(かつ本質的)な、欲求・動機・悩み」という内容に近いものが多いようです。なるほど、ここまでの理解はそこまで難しくないです。

ただ問題はこの先。
「潜在的な欲求や動機」って具体的に何なの?どうやって見つければいいの?
そこがすごく難しく、ここから先は本当にいろんな方がいろんな考えを持たれているようです。

ひとつの正解なんて無いんでしょう、人の心の話ですから。ただ僕は僕なりの答えを持ちたい。

ここからはあくまで僕自身の考えです。


●「人の欲求」と、様々な動機付け研究について

まず僕は、「人の欲求」についてもっと理解しようと考えました。

欲求は心理学では「動機付け」とも呼ばれたりします。その分野で最もポピュラーなのが、マズローさんの「欲求階層説」でしょう。
「欲求」について調べていると本当にいろんなところでこのピラミット図に出会います。これが世の動機付け研究の大事な礎であることは間違いないです。

他にも「基本的心理欲求理論」とか、欲求についてさらに細かく分類してくれている「マレーの欲求リスト」とか、欲求についてのいろんな論に出会いました。行動経済学の観点からみるのも、また少し違う気づきがあって面白かったです。

以下に僕が見つけたいろんな「欲求」をまとめてみたので、何かの参考になれば。

欲求まとめ

これらの動機付け理論に出てくる様々な欲求は、まさにインサイトの定義である「潜在的な欲求」そのものだと思います。
だからインサイトは、行動の奥底にある「人が本能的に持つ欲求」を探すことが大事なんだ!
欲求について調べた先で、僕はそのように考えました。


だけどそれだけだと、どうしてもいろんな行動の説明ができないのです。

仮にインサイトが「誰かに認められたい!」などのシンプルな形であれば、どうして僕らはこんなに買い物で迷いまくり、時に盛大に選択ミスまでしてしまうのか?

この疑問を持ちながらいろんな本に当たっていると、いくつかヒントに出会えました。


●インサイトは「物語」だ、という考え方について

まず最初にヒントになったのが、心理学者レヴィンさんの考え方です。

レヴィンによると、人間行動(B)は、個人の素質や要求、あるいは環境刺激が単独で影響を引き起こされるのではなく、人(P)と環境(E)の双方を含んだ複雑な状況により引き起こされるものであるとしている。
ー『消費者行動論 第2版』より

そう!「複雑」なんだよ。そうなんだよ。
そうか、環境が欲求を複雑にしているのか。

これは僕にとって大きな気づきでした。


その上でさらに核心に近づけてくれたのが、「ジョブ理論」という考えでした。

『ジョブ理論』の著者クリステンセンさんは、本の中で「インサイト」という言葉は出していませんが、考え方はまさにインサイトそのものだと思いました。

まず、ジョブ理論とは何か。

顧客はある特定の商品を購入するのではなく、進歩するために、それらを生活に引き入れるというものだ。この「進歩」のことを、顧客が片付けるべき「ジョブ」と呼び、ジョブを解決するために顧客は商品を「雇用」する
ー『ジョブ理論 イノベーションを予測可能にする消費のメカニズム』より

これだけだとちょっとわかりづらいかもですね…ジョブやら進歩やら雇用やら、独特な表現が多いので。興味のある方はぜひ本を読んでみて欲しいのですが、個人的には「ジョブ=インサイト」で「進歩=欲求」と捉えると、割とスッと理解できました。

そして秀逸なのが、誰かの持つ「ジョブ」を見極める際の考え方で、クリステンセンさんは「短編ドキュメンタリー映画ふうに」考えてみるのが良いと語っています。

もう少し具体的にいうと、
・その人が成し遂げようとしている進歩(欲求)は何か。
・苦心している状況は何か。
・進歩をなし遂げるのを阻む障害物は何か。
などをひとつひとつ考えて、それらを繋げていくと「ジョブ」の姿が見えてくるのだとか。

この考えに触れた時、僕の頭の中でいろんなものが繋がりました。


ああ、インサイトってつまり「物語」なんだ、と!


ちゃんと説明しますね。

まず「物語」をどう定義づけるかですが、僕が一番これだと思っている定義は以下です。

”簡単には手に入らない何かを求めるキャラクターがいる”
ー『「感情」から書く脚本術』より

非常にシンプルだけど、本質を突いていると思います。あくまで一つの考え方ですが。
物語を動かすのは主人公の渇望です。何かを強く求めている。だけどそれを手に入れるためには、途中でいろんな邪魔が入る。敵だったり、環境だったり、あるいは自分の内面だったり。
そうやって簡単に手に入らないから、物語は面白くなる。

そしてこの物語の定義は、レヴィンさんやクリステンセンさんが語った消費者の行動原理にも当てはまると思いました。

私たちも日々、何かの欲求を奥底に持って生活しています。お腹が空いた、お金を稼ぎたい、誰かに認められたい…これらの「欲求」が全ての出発点です。

しかし欲求は簡単には叶わない。いろんな邪魔が入ってきます。
お金が足りない、どこで買えばいいのか分からないなどの「状況」が障壁となり、さらには「損したくない」「人と被りたくない」など自身の別の欲求も邪魔をしてきて「葛藤」を生みます。

そうやって欲求はどんどん複雑化する。果てには、本当は何を求めているのか自分でも理解できなくなってしまう。そしてこの「複雑化した欲求」を叶える手段を探して、彷徨います。
まさに物語と同じ。違うのは、読者が楽しめるほど劇的ではないということ。

それがインサイトの正体なのでは、と考えました。

インサイトとは、「状況や葛藤により複雑化した欲求」である。

インサイトの新法則

これが僕がたどり着いた現時点での結論です。

そして僕のような文系マーケターの「物語づくり」のスキルは、このインサイト探しにも大いに役に立つはずです!


●インサイト解読例「ある男のニュースアプリ探しの物語」

最後に、例で説明します。

僕はニュースアプリのNewsPicksさんの有料会員になっているのですが、その選択の奥にあったインサイトを、先ほどの法則にあてはめて物語のように辿っていきたいと思います。


* * *

・第一部 始まりの欲求

元々コミュニケーション力に自信がないその男にとって、情報力はひとつの生命線だった。
情報があるから話を聞いてもらえる。根拠があるから人に自信を持って話せる。だから「できるだけ情報力で出遅れないようにしなければ」と常に思っていた。

ニュープアプリで情報を日々仕入れることも、当然のように必要なことと考えた。

・第二部 複雑な状況

まず問題はお金だった。
最近サグスクが増えすぎている。動画、音楽など毎月さまざまなサブスクにお金を払っていて、その上、少し前に始めたテニススクールなどもあり固定費はもうカツカツ。
可能であれば主要なニュースアプリを複数個契約しておきたいが…「選ぶならひとつ」、状況的にそれは仕方なかった。

・第三部 邪魔をする別の欲求

最初は日経電子版を試して、その後朝日新聞オンラインも試した。しかしうまく続かなかった。「毎日欠かさずニュースを見るのは面倒臭い」という、生来持つ堕落者の才覚が邪魔をするのだ。
この「情報力で出遅れたくない」と「毎日は面倒」という二つの欲求がぶつかり、ニュースのチェックは2〜3日に一度くらいになってしまう。
情けない…しかしこれは仕方ない、にんげんだもの。

そうなると新たな悩みが出てくる。
ひとつは、どうせ毎日読めないのに月5,000円近くは少し高いのでは、ということ。
そしてもうひとつは、時事問題や話題のニュースが、途切れ途切れでしか把握できないということ。続報記事だけを読んで「あれ、これ元々どういう話なの?」となって過去記事を探すが、どれに遡れば良いのか分からない。結局情報が曖昧なまま放置してしまう。

「人とのコミュニケーションのために情報力で出遅れたくない」という元の欲求は、こうして複雑になっていったのであった…

* * *


このように「欲求」「状況」「葛藤」と、順を追って辿ってみました。

そしてこの「ニュースアプリ探しの物語」をインサイトでまとめると、
「新聞の半分くらいの料金で(状況の解決)、理解が遅れたニュースにもすぐに追いつけて(葛藤の解決)、社会で出遅れないように情報を仕入れられるもの(元の欲求の解決)が欲しい!」
ということになります。
なんとワガママな!しかしインサイトって往々にしてワガママなものだと思います。だから迷うし、すぐに解決できない。

ここまで考えると、月1,700円で、時事問題の「3分解説」や理解しやすい図解記事が充実したNewsPicksさんは、まさにこの複雑なインサイトにバッチリ当てはまるものだったことが分かります。

もちろん実際に選んでいるときは、自分の欲求をこんなに整理して把握できていなかったです。しかしNewsPicksさんに出会った時には、「ああこれが一番だな」とピンときました。

このようにインサイトとは、普段は把握できていないが、適切な商品やサービスに出会うとハッキリと「これが解決法だ!」と分かるものだと思います。


先ほどの話は物語風にまとめてみましたが、ここまで手を込んでまとめる必要はないです。ただ考え方の流れを知ってもらいたかっただけですので。
また、きれいに「欲求」「状況」「葛藤」が揃うものばかりでもないでしょう。「状況」がさほど難しくなかったり、そこまで「葛藤」がなかったりということもあると思います。その辺は臨機応変に抜き差ししてもらえるといいかなと思います。
ただし「欲求」だけは常に存在するはず。だから「欲求」の追求は疎かにしないようにしたいなと思います。



ということで、かなり長い記事になってしまいましたが、今回は考えたことを端折らずに全部整理させていただきました。

「物語づくり」と「マーケティング」を交差させれば、文系マーケターの武器にできるという持論の元、インサイトについて考えを伝えさせていただきました。

実績のうすい人間の、趣味半分の持論かもしれないですが、誰かの役に立つことがあれば幸いです!



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前回のこちらの記事も、どうぞよろしくお願い致します。



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