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米国の急成長マッチングアプリBumble(バンブル)!31歳でビリオネアになった創業者ホイットニー・ウルフ・ハードとは一体何者なのか。

2021年2月、Bumble(バンブル)というマッチングアプリが遂にIPOを実現し、メディアを賑わせました。

Bumbleは2014年、テキサス州で創業されたマッチングアプリです。会員数は2020年時点で1億人を突破。現在は米国のほか、インド、ドイツ、メキシコ、イスラエル等の国々でも会員数が急増しています。コロナ禍において今なお成長を続けており、2021年1月〜3月の四半期においては、31%収益増と報道されています。

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創業者は31歳女性、ホイットニー・ウルフ・ハード氏。米国で大規模企業をIPOに導いた女性経営者として、最年少です。「一夜にしてビリオネアになった31歳女性」として多くのメディアで取り上げられていたことは記憶に新しいです。

ウルフ・ハード氏は、2012年にライバル社Tinderを共同創業者として設立。その後セクシュアル・ハラスメントでTinderを訴訟、そして勝訴した経緯も過去にあります。

「女性だから」という理由で同僚から差別に遭い、「共同創業者」という肩書きを剥奪されたとして、訴訟を起こしたのです。しかもその相手は、ジャスティン・マティーン氏。ウルフ・ハード氏に取っては「元恋人」であり元上司でもある人物でした。結果、Tinderの親会社であるマッチグループは、ウルフ・ハード氏に$1 million(1億円相当)の賠償金を支払ったとされています。

その後、彼女のマッチングアプリへの信念や行動力が功を奏し、2021年2月にBumbleのIPO実現に至りました。Tinder時代に味わった屈辱感を見事に晴らすことができたことが伺えます。

そもそも、元恋人であり元上司である人物を相手に訴訟を起こすなど、行動力が尋常ではありません。普通の女性であれば、セクハラに遭ったところで我慢するほかなく、訴訟を起こすまでに至らないのではないでしょうか。

ちなみに米国において、過去12か月間でIPOを実現した560社のうち、創業者が女性であるケースはBumbleを含めて3社のみです。女性最年少、ということが相乗し、BumbleのIPOについては多くの注目を集めました。

Bumbleとは

私が初めてBumbleの存在を知ったのは、2018年、米国でのビジネススクール留学時代です。当時、ビジネススクールの同級生女子の多くがBumbleを使用しており、私の周りでも「Bumbleで今の彼氏と出逢った」「Bumbleで出逢った彼と結婚が決まった」という子が何人もいたのです。

米国のマッチングアプリ文化が素晴らしいなと感じるのは、「パートナーとアプリで出逢った」という事実を公表することについて、一切の後ろめたさを感じさせないことです。日本人の場合、「マッチングアプリで出逢った」ということを公表する人は比較的少数派であるように思います。

それもそのはずで、2021年時点で、米国における成人男女の12%は現在のパートナーとオンラインで知り合ったと回答しているデータがあります。この割合は若年層ほど高くなり、さらにゲイやレズビアン、バイセクシュアルなど性的マイノリティに属する人ほど高くなります。マッチングアプリでは、条件に合致するパートナー候補を検索して見つけやすいということでしょう。

フィナンシャル・タイムズで興味深いデータを見つけました。18歳〜29歳の男女の20%以上の人がパートナーとアプリで出逢ったと回答しています。アプリでの出逢いが、今では職場での出逢いを大きく上回っており、より気軽な出逢いのツールとして捉えられていることが分かります。

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米国のマッチングアプリ最大手マッチグループによると、2020年に婚姻に至ったカップルのうち、40%がオンラインをきっかけに知り合っているというデータもあるほどです。2人に1人近くの人たちがオンラインで知り合っている状況であれば、それはもはや恥ずかしいことではありません。そのくらい米国では、出逢いの手段としてマッチングアプリが一般的なものになっており、なおかつポジティブに捉えられる傾向が高いということです。

Bumbleの特徴は、「女性からメッセージのやりとりを開始し、女性主導でリレーションシップを構築できること」にあります。マッチングアプリならではのスワイプ機能で、男女ともに右にスワイプ(Like)し、マッチングした後、メッセージの開始は女性発信のみで可能になるというものです。

他のマッチングアプリでは、女性は基本的に男性からのメッセージを待たなくてはなりません。Bumbleでは「女性が男性から断られるかもしれないプレッシャーから解放されて、より安全に、積極的に恋愛を開始できるようになる」というのです。

この「女性主導でリレーションシップを構築できること」がマッチングアプリの中でも斬新なアイデアと捉えられ、20代〜30代の女性を中心に支持を集めてきました。そして前述の通り、真剣な交際に至るパートナーや結婚相手が見つかるマッチングアプリは、他でもないBumbleであるというのが一般的な認識となりつつあります。

更にBumbleでは、恋愛目的の交際相手を求める機能だけでなく、ビジネスを目的としてネットワークを構築するBumble Bizzという機能も提供。この点はTinderを始めとする他のマッチングアプリと比べ、時代の先取りをしている印象を受けます。

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(Bumbleのアプリ画面。飲酒や喫煙習慣や身長、宗教、政治などさまざまな条件を設定し、マッチング確率の高い相手を見つけられるよう工夫されています。source: dude-hack.com)

女性に優しい女性ファーストのサービスを提供するというコンセプトは、Bumbleの組織編成・経営陣からも見て取れます。Crunchbaseのデータによると、メンバーの大半は女性、ボードメンバーも全員女性。Diversity & Inclusionを謳うスタートアップにおいて、ここまで女性主導の組織も珍しいくらいです。

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(Crunchbaseに掲載されているチームメンバー及びボードメンバーの情報。殆どのメンバーが女性であることが分かります。)

コロナ禍におけるマッチングアプリの成長

コロナ禍において、多くの人がマッチングアプリを利用するようになったという点は、想像に難くありません。

Bumbleは2014年創業。もともとはMagicLabというソーシャルアプリ企業の一部門として始まりました。2019年に投資ファンドBlackstoneの支援を受けて、ウルフ・ハード氏をCEOとしてリブランドした経緯があります。そしてプライベートでは、2019年12月に男児を出産。彼女の行動力・体力、そしてタイムマネジメント力の凄さを感じます。

バリュエーションはコロナ禍の1年間で$3bn(3,000億円相当)から $13bn(1.3兆円相当)へと飛躍的に成長。ちなみに2020年12月にSalesforceに買収されたSlackについては、当時のバリュエーションが$27.7bn(2.7兆円相当)でした。Slackの約2分の1のバリュエーションであると考えると、相当な成長企業であることがわかります。

ライバル社であるマッチグループのTinderも、コロナ禍において特に30歳未満の女性のアプリ利用頻度の伸び率が顕著であることを指摘しています(以下のグラフをご参照ください)。

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ウルフ・ハード氏は、コロナ禍における傾向についてインタビューで言及しており、特にビデオチャット機能を利用して真剣な交際を求める人が急速に増加したと語っています。アプリで出逢い、対面で顔を合わせる前にビデオチャットで親密な関係性を築こうとする人が増えたというのです。

Bumbleでは、2019年からビデオチャット機能を導入していました。しかし、しばらくの間は、ビデオチャット機能はそこまで人気はなかったといいます。それがコロナ禍になり、全国的なロックダウンが開始した途端、急にビデオチャット機能が人気を博したというのです。ウルフ・ハード氏は、コロナ禍において多くのユーザーが、人との繋がりを求め、マッチングアプリを利用して真剣な交際関係を求めるようになったといいます。

ホイットニー・ウルフ・ハード氏とは一体何者なのか。

ウルフ・ハード氏のバックグラウンドについてもご紹介しておきます。というのも私が彼女に強く惹かれ、尊敬する理由は、彼女のバックグラウンドにあります。ウルフ・ハード氏は明らかに平均値を逸脱しており、普通の女性起業家ではありません。

まず第一に、彼女はアメリカの女性起業家にありがちな「高学歴エリートタイプ」ではありません。私は米国でのビジネススクール留学時、数多くの女性起業家の方にお会いしてきました。アメリカ人の女性起業家に一番多く見受けられるタイプは、アイビーリーグ校やそれに準ずる名門校出身であったり、トップスクールMBA出身者も多く、いわゆる「高学歴エリート」タイプの人たちです。彼女たちは、有名企業やコンサルティングファームなどを経て、キャリア上のリスクヘッジを十分に取った上で起業に至るケースが多いのです。

たとえば、マッチングアプリのライバル社にあたるCoffee Meets Bagleのアラム・カン氏は、ハーバード・ビジネス・スクール卒業後に起業しています。私のビジネススクール時代の知人も起業している女性が何名もいます。

ここで「米国の女性起業家には高学歴エリートが多い」という事実から私が伝えたいことは、女性が起業して大成するには学歴が必要だとか、肩書きによって得られるであろうネットワークが大切だということではありません。むしろ逆で、起業して大成するような非常に優秀な女性ですら、最初から起業一本で成功する確信のある人など少数派であるということです。

だからこそビジネススクールに進学し、1〜2年間の猶予期間を得てまずは「おためし起業」するケース(このような人たちの95%は、卒業後は普通に大手企業に就職しますが)、あるいは「起業する前に、まずはキャリアに箔をつけよう」などと考えてとりあえず有名企業に就職するなど、ある程度の遠回りをしている人が圧倒的多数であるということです。

一方、ウルフ・ハード氏は、Southern Methodist University(南メソジスト大学)出身。Wikipediaによると、「常にU.S. News & World Report のannual guidebook America's Best Colleges において上位30%に入っている」そうです。語弊なく言ってしまえば、全米の大学の中で「中の上レベル」といった大学でしょうか。

そして彼女は、卒業後すぐにTinderに参画してマッチングアプリの世界に没頭。マッチングアプリビジネス一本で勝負し、着々と努力を続け、2021年にBumbleをIPOさせるに至っています。

他の高学歴エリートタイプの女性たちには見られない行動力、信念・想いの強さ…そうしたものが、彼女を成功へと駆り立てているように思います。そもそも、Tinder時代にかつての元上司であり「元恋人」に対して訴訟を起こす(そして勝訴するまで粘り続ける)行動力というのは、並大抵のものではありません。相当の憎悪や悔しさがあったのでしょう。

彼女のような尋常ではない行動力や強い信念を持ち続けることで、本当は誰しも人生において、もっと大きなことが成し遂げられるのではないか…。そう思わずにはいられません。

日本人女性の中には、大学卒業までは学業に励んでいた優秀な人が、社会人になり年数が経つにつれ、キャリア向上への意欲が削がれてしまうのか、「結婚したら女性がキャリアダウンするべき、しなくてはならない」と感じている人もまだまだ多い印象を受けます。ウルフ・ハード氏のようなビリオネアとは言わないとしても、もう一歩大きくリスクテイクをすることで、世界が大きく変わることに気がつかずに過ごしている人も多いように思います。

少々無茶振りではありますが、ウルフ・ハード氏の生き方から、もっと多くの日本人女性が学んでみても良いのではないでしょうか。

以下の記事もあわせてご覧ください。

(参照)
Bloomberg Studio 1.0 - Whitney Wolfe Herd
How I Built Resilience: Whitney Wolfe Herd of Bumble

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