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【2023 夏 高校野球 3回戦】神村学園vs北海 どこよりも詳しく見どころ解説

2023年 夏の甲子園
第105回全国高校野球選手権大会 3回戦

神村学園(鹿児島) vs  北海(南北海道)

強打の神村学園に挑む、逆境に強い北海

ここまで打線が好調で大量得点を奪って点差をつけて勝ち上がってきた神村学園に対して、北海は二試合連続でサヨナラ勝ちと、対称的な勝ち上がりの両チームの対戦となった。

神村学園が序盤から得点を重ねる展開になるか、北海が得意とする接戦に持ち込めるか。
見どころの多い、非常に楽しみな一戦である。

鹿児島vs北海道

鹿児島代表と北海道代表の甲子園での対戦は、春夏合わせて計7回。ここまでは鹿児島県勢の4勝3敗と拮抗している。

印象深いのは1995年の2回戦、旭川実が鹿児島商に15-13で勝利した試合だ。9回にサードへのゴロがイレギュラーしてヒットになり大逆転につながるというドラマチックな一戦だった。
これで勢い付いた旭川実は3回戦でセンバツ準優勝の銚子商を破り、初出場ながらベスト8に進出した。

直近では2015年の開幕試合で鹿児島実が18-4で北海に大勝している。
この試合で打ち込まれた北海・大西投手が大敗の悔しさをバネに成長し、翌2016年の準優勝のきっかけになったという意味で、こちらも高校野球史において意義深い試合であったと言えるだろう。

チーム紹介


神村学園(鹿児島)

神村学園は初戦で立命館宇治(京都)に10-2、2回戦でも同じく近畿の市和歌山に11-1と2戦連続の2桁得点での3回戦進出となった。

神村学園を一言で表現するなら
「気持ちのこもったチーム」だ。

ユニフォームを泥だらけにしながら、ボールに食らいつく。ベンチも良く声が出ており、小田監督も例年以上に大きなアクションでチームを鼓舞する。

鹿児島大会決勝の鹿屋中央戦はリードを奪われる展開の大熱戦となったが、最後に勝敗を分けたのはこの「気持ちの強さ」ではないかと感じた。
高校野球の良さが詰まった、まぎれもない好チームである。

そして気持ちだけではなく、実際に野球のレベルも高い。

投手力

背番号1の右腕・松永と10番の左腕・黒木の2人がWエースとして君臨する。
ともに完投能力のある好投手だ。

初戦のマウンドに立った背番号1の松永は、175cmと決して大柄ではないがガッシリとした下半身から力のあるストレートと切れのあるスライダーを投げ分ける。ストレートの球速はアベレージで140キロ前後だが、時折120キロほどに球速を落としてスライダーと混同させるストレートを投げるクレバーさも印象的だった。

もう1人のエース黒木は初戦、2回戦ともにリリーフでマウンドに立っている。サウスポー特有の左打者の外角低めに大きく曲がり落ちるスライダーを決め球に三振を奪える好投手だ。

また2回戦では鹿児島大会でほとんど登板のなかった左腕・今村が先発したが制球を乱して1回から黒木が登板となり、松永・黒木以外のリリーフ陣にはやや不安を残す結果となった。

打力

個人的に取ったデータでは神村学園が2試合で放った27本のヒットのうち、20本がセンターから逆方向である。
3番の秋元以外のほぼ全員が「センターから逆方向に強く低い打球」に意識が徹底されていると言えるだろう。

神村学園の打線にスター選手はいない。
ただこのコンパクトなスイングの鋭さにおいては、今大会でも仙台育英と双璧ではないかと感じる。

打の中心はトップバッターのキャプテン今岡、そして秋元、正林の3、4番だ。また鹿児島大会から好調をキープしている上川床が6番で非常に良い働きをしている点も見逃せない。

今岡はここまで9打数4安打の1本塁打と申し分のない活躍を見せている。また秋元、正林が2戦連続で初回に連打を放って得点を奪っている。
この初回の得点がチームに勢いを生んでいるのは言うまでも無い。

懸念的を挙げるとすれば、先発で右打者が3番の秋元と捕手の品川しかいない点か。ここまでの2試合ともに甲子園は台風の影響で普段と逆方向の風が吹いていた。17日は左打者に不利な浜風が予想されるだけに、左打線の神村学園にとっては普段以上に低い打球を徹底したいところだ。

北海(南北海道)

北海は初戦で明豊(大分)をタイブレークの末、8-7で破り、2回戦では浜松開誠館(静岡)に3-2で勝利しての3回戦進出となった。

2試合連続の逆転勝利、そして2試合連続のサヨナラ勝ちと非常に粘り強い戦いが印象的だ。中でも明豊戦、9回2アウトランナー無しから2点差を追いついた粘りは特筆すべきものだった。

緊迫感のある接戦の修羅場を経験している点は、チームに勢いを与え、この先に繋がる勝ち方だと言える。

思えばこのチームは逆境との闘いだった。
堅守が売りのチームだったが秋の北海道大会の決勝で守りが乱れてクラーク国際に敗北し、センバツを逃した。
そして3月にはチームの中心の熊谷が右ひじを故障。

不安だらけの夏だったが、熊谷不在という逆境をバネにチームは成長し、ここまで勝ち上がってきたチーム、それが今年の「逆境に強い北海」である。

投手力

北海の大きな武器はエース岡田と熊谷のWエースだ。
この二人に背番号7の左腕・長内を加えた3人で北海道大会からマウンドを守ってきた。

甲子園での戦いの大きな特徴としては、この3投手を何度も登板させている点である。この2試合で計9回の投手交代を行っており、主にワンポイント起用の長内はレフト、熊谷はファーストを守り、背番号1の岡田も時にはサードの守備につく。

背番号1の岡田は、熊谷が戦列を離れた3月以降に急速に成長を遂げた一人である。現在ではMAX147キロ、常時140キロ台のストレートを投げ、鋭く変化するスライダーは今大会でも屈指のキレ味だ。初戦は明豊打線に2回1/3を投げ7安打6失点と悔しいマウンドだったが、2回戦で好投を見せたのは明るい材料だ。

背番号3の熊谷は183cm、94キロのガッシリした体から投げるMAX146キロのストレートの球威が武器だ。北海道大会ではやや四死球が多かったが、甲子園での登板を見る限り決してコントロールが悪いわけでは無い。

主に左打者へのワンポイントで起用されるサウスポーの長内は、球威は劣るものの緩い変化球で打たせて取るタイプである。

神村学園戦もおそらくこの3投手ともに登板の機会があるだろう。

打力

打の中心は何と言っても熊谷である。
2点を追う明豊戦の9回、ベンチの選手間の「クマまで繋げ!」という声がテレビ中継でも聞き取れた。チーム内でも熊谷の存在は余程大きいのだろう。

北海道大会6試合で4本塁打を放った今大会でも注目のスラッガーだ。
甲子園でホームランはまだ出ていないが、その長打力の片りんは随所に発揮されている。初戦では4番、2回戦では3番を打っており、平川監督が熊谷を何番で起用するのかにも注目したい。

甲子園の2試合では2年生の片岡・谷川が1、2番を務めている。
長打力は無いものの、非常にミート力がある好打者タイプだ。
北海打線は熊谷も含めた全員がバットを短く持っており、破壊力は無いものの非常にバットコントロールが巧みである。
またキャプテンの今北、サードを守る関、9番の大石とチャンスに強い打者が上位・下位にいるのも心強い。

もう一点、忘れてはいけないのがベンチで控える背番号17の小保内だ。
明豊戦では途中出場ながらライトの守備でファインプレー、打っては2ランホームランにタイブレークでの同点タイムリー、続く浜松開誠館戦でも途中出場で8回に同点タイムリーを放ち、勝利の立役者となっている。
「負けず嫌いではなく、異常な負けず嫌い」と本人が語る通り、逆境でも力を発揮できる精神的に強い選手であることが伺える。

この試合のポイント

打力では神村学園、投手力では北海がやや上回るか。

先制して優位に試合を進めてきた神村学園に対し、
終盤に接戦をひっくり返してきた北海。

このように考えると、この試合のポイントとなるのは
「神村学園が序盤に主導権を握れるか」
「北海が食らいついて接戦に持ち込めるか」

という点である。

これは見方を変えると
神村学園打線が北海投手陣をどう攻略するか」
「北海投手陣がどのように神村学園打線を抑えるか」

が最大の注目ポイントになると言うことだ。

個人的な予想では、神村学園は背番号1の松永、北海は背番号3の熊谷が先発ではないかと見ている。

神村学園にとって、北海の投手陣は過去2試合の対戦投手と比べて1ランクレベルが上がる相手と考えて良いだろう。
神村学園打線としては、熊谷・岡田両投手の高めのストレートには手を出さず、しっかり見極めたい。特に熊谷投手は一見三振を取るタイプに見えるが、投球スタイルとしてはむしろ「球威で詰まらせるタイプ」の投手だ。
それだけに高めのストレートを打ち上げてフライアウトが増えるようだと術中にはまってしまうので注意すべきだろう。

北海投手陣としては、神村学園の内角を積極的についていきたい。
神村学園は強力打線に目を奪われるが、上述した通り3番の秋元以外ほぼ全員が、ストレート・変化球問わず真ん中より外側の球を振り回さずに逆方向に打っている。
神村学園に敗れた立命館宇治、市和歌山ともに長打を恐れて、外角に偏った配球になってしまったところで痛打を浴びている。
それだけに北海としては怖がらずに打者のインコースを突けるか、そこがポイントになるだろう。

また2試合で神村学園はエラー1つ、北海は無失策と両チームともに守備も非常に鍛えられている。
特に数字には表れないが、神村学園内野陣の「速い打球に対する球際の強さ」も見どころの一つとして挙げさせていただく。

この一戦は、ベスト8最後の椅子を賭けての試合。
ナイターの中、手に汗握る熱戦に期待したい。

甲子園ラボ






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