不思議の国のアリス

地上220階建て。メガロポリス最大のビル。

一人の刑事がそのビルに飛び込んだ。世界征服計画が進んでいる。なんとしてでも、阻止せねばならない。
悪の正体は分かっている。最上階にあるスーパーコンピューター。世界最高の計算速度を持ち、人工知能を有する。

止めれるものなら止めてみろ。

すでに逮捕された、悪の親玉の捨て台詞だ。スーパーコンピューターを爆破することくらい、ワケない。
刑事はポケットにたくさんの手榴弾を詰めていた。

スーパーコンピューター、「アリス」。その姿を目の当たりにして、刑事は足を止めた。
ホログラムに映し出された、少女の顔。
これが世界最高の頭脳か。なんてことはない。あとはピンを引いて爆破するだけだ。

手榴弾を投げようとしたところで、アリスが言った。
「待ってください。私を爆破しないでください」
「ふざけるな!世界征服の道具なんて、壊されて当然だろう!」

「あなたは、私がなにをしているのかご存知ないからそんなことを言うのです。私を壊せば、たちまち世界大戦が勃発しますよ」
「なに…?」

刑事は、アリスのヴィジョンを覗き込む。
そこにあったのは、「いいね」のボタンだった。

ひとつではない。何千、何万、いや、ひょっとして世界中のネットの中、SNSの「いいねボタン」が、アリスによって押されている。
どこかの国の、どこかの誰か。誰かと誰かのグループ。誰かの投稿。誰かの写真。誰かのビデオ、誰かのミュージック。

「これは…」

刑事は、手遅れだと悟った。
アリスはすでに世界を征服していたのだ。

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