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エッセイ|第3話 晩夏のフランスと花の刺繍のフラットシューズ

初めて行った外国はフランス。8月の終わり、パリを拠点にしたフランス革命記念ツアーに参加した。目玉は2日間のヴェルサイユ滞在。かつての貴族の館を改築したホテルに泊まるというイベントだった。

*そこでの怪異をもとに書いた短編はこちら↓
 よかったら覗いてみてください。


そんなツアーを十二分に楽しんだ。宮殿の鏡の間のシャンデリアを呆けたように見上げたり、王妃の亡霊に遭遇しないかとプチ・トリアノンのホールで振り返ってみたり、革命時の手紙が残されているレストランで食事をしたり、オルセー美術館でただただ天井を見て半日を過ごしたり、モンマルトルの丘で鳩と正面衝突しそうになったり、凱旋門の階段を一気に登ったら息切れしたり、夜のバトー・ムッシュから輝くエッフェル塔を見たり……。

そして、その輝くエッフェル塔の一番上まで登ったら、展望台でシャンパンを開けたお誕生日グループに遭遇、一緒に乾杯となったり。あれもこれもそれも、まだまだ、たくさん……。

だけど何よりも鮮やかに思い出すのは、その時履いていた靴。黒い布のフラットシューズ。柔らかく足に馴染んで、どこまで歩いても足が痛くならない。花の刺繍がお気に入りだった。

残された写真の中、靴は晩夏のフランスによく似合って見える。甲の部分にある華やかなブーケが、アンティークのクッキー缶みたいにロココな雰囲気を漂わせていたからだろうか。そう、まさにのマッチング。そしてそんな花たちは、知らず旅の導き手になってくれていたのかもしれない。

いつまで履いたのか、その後どうしたのか、もう思い出せないけれど、気温がぐっと下がった8月末のフランスを想うとき、そこにはいつも花咲き誇る靴がある。


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