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エッセイ|第31話 砂漠を行く幼き友の夢

ギザの三大ピラミッド前は人気のアトラクション並みの長蛇の列。木陰など皆無の炎天下。人々が座るのは砂漠の中の石垣だったり岩だったり。それは遺跡なのか何なのか、ここではどっちでもいいことだろう。

ふと顔を上げれば、前方から歩いてくる小さな影。英語フランス語アラビア語を器用に操って、笑顔を振りまきながらやってくるのは年端もいかない少年だ。首にポストカードの綴りをぶら下げている。

よくある物売り。お粗末なそれは1ドルしかしない。だけど誰も買わない、見もしない。それでも彼は凹む様子なく大きな声で宣伝中。

やがて私たちの前にやってきた。おもむろにグループのみんなを見渡し、するりと私の隣に腰掛ける。カードはいらないよ、そう言おうとしたら、先に名前を教えられた。それから年も。

綺麗な目だった。大きくてキラキラした目だ。私が小さく笑って頷けば、彼も笑顔になって、あれもこれもと話してくれる。片言の英語、それでも伝わってくるもの。ああ、この子。早く大きくなって、力をつけて外に飛び出していけたらいいなあと思った。

当時21歳で、自分だってまだまだ子供だったけれど、彼の未来を応援したくてたまらなかった。必要なのは養子縁組とか支援とか……、私にできるはずもない。だけど彼のために何か願わずにはいられなかったのだ。

じゃあ行くよと彼が言った時、私はせめてポストカードをと思った。けれどまた、それよりも先に綴りを一つ差し出される。

友達だからプレゼント。お礼だったらほっぺにチューがいいな。

私はあっけにとられ、それから声をあげて笑い、そして彼の頬に友情のキスを贈った。私を見上げる瞳はやっぱりキラキラしていて、本当に可愛らしかった。なんども手を振りながら、彼は元気よく走っていった。

二度と会うことはないだろう。けれどしなやかでたくましい子。彼ならきっと自分の力で未来を切り開いていけるはず。彼のためにそう想い続けようと思った。

その夜、私はポストカードの綴りを広げてそのクオリティーに苦笑し、見れる一枚を切り離して、大好きなボーイフレンドへのハガキとした。今日という日が何かにどこかに繋がることを、心の底から願いながら。

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