見出し画像

【ストロベリー狂詩曲/修正版】07.無調性の微熱⑧

「え!チサカちゃん、熱あるの?」

「朝倉、気付くのが遅い」

「チークだと思ってた」

「そんなわけないだろ」

ふたりがもにょもにょ言い合いをしている前で、体温計のお尻にあるスイッチを押して左の腋に挟む。

十五秒でピピッと音が鳴った。
取り出し、表示が三十七度だったことを伝える。

「微熱だね。悪寒は?」

「ありません。知恵熱です」

朝倉さんが少し屈んで、私の顔を心配そうに見る。

「帰る?」

「いいえ」


桜馬先生は頑固な私の頭をくしゃりと撫で、小さく笑みを浮かべた。

「僕の部屋で寝てていいよ。帰りたくなったら声をかけて」

強制的に帰らされるかと思いきや、居ることを許してくれた。


「先生、私は仕事で此処へ来ました、眠れません。予定通りに勉強したいです」

「気合い入ってるね。じゃあ、子守唄代わりに話そうか」

真摯に訴えても通用しない。先生はあくまでも体調を優先し、横にならせようとしている。

「はい」

右の手のひらを表にして差し出された。私は睨みを込めた無言の視線を、笑顔で黙らせようとしている先生の目に向けてから体温計を渡す。

「朝倉、バトンタッチ」

「了解してやるよ」

体温計は朝倉さんが快く元の場所へ戻してくれることに。私はお礼を言い、桜馬先生に招かれて後ろを付いて歩き、別室へと入った。

「いらっしゃい」

「失礼します」

ピアノが設置されている部屋と案内された部屋はドア一枚で繋がっていてる。広さは十畳。モダンな色で組み合わせたインテリアが特徴だ。デスクトップパソコンも置いてある。
壁には額縁に入った油絵が一枚。洋風の建物が並んでいることから、海外の風景画だと思う。


◆つづく◆

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?