20190421_施川ユウキ_銀河の死なない子供たちへ_

施川ユウキ「銀河の死なない子供たちへ」の極めて個人的で勝手な考察

施川ユウキさんは、「バーナード嬢曰く。」で初めて知りました。そのころからSF系がお好きなのかなー、と感じていたけれど、今回読んだ「銀河の死なない子供たちへ」で、ホントのSFクラスターだ!と確信しました。随所にSF的な描写が散りばめられていて、こだわりが見られる漫画です。

ただ、自分あんまりSF読んでないからその切り口でこの漫画を解釈することはできません。。。ので!自分なりに思ったところをつらつらと綴ります。もちろんSFとか全く知らなくても面白い漫画ですし、多分施川ユウキさん自身もその辺は意識して描いてないと思う。宮沢賢治の引用とかあるし。作者の今までの考えや表現への志向を2巻に集約させた結果、こういう作品ができた、というところだと思います。

まず、マッキ。かっけーよ。最後。最も作者の視点に近いのが、マッキなのではないかな。中立的で俯瞰的。πを「死」へエスコートしつつ、自らは母と「不死」を選ぶ。マッキは「死」への憧れはなかったのか?大昔はあったのだと思う。ただ、時を経て、諦観に至っている。自分たちはこの世界の部外者である、という認識。ただそれも、ミラとの出会いを通して変わっていく。ミラの死を通して、世界への関与を強めていく。「死」を追い求める。ただ最終的には、母と共に「不死」であり続けることを選ぶ。「不死」である自分と、それを内包する世界を肯定する。きっとこれからもずっと、マッキはペットの墓の手入れを続ける。ただ少しだけ、星を見上げる回数が増えるんだろうな。変わり続ける海岸線を、地球の地図を、描き続けてほしいな。母と、自分自身のために。

ミラは、この世界ではアウトサイダー。ただひとりの人間。ただひとり「死」に直面する。そしてそれを受け入れて、死ぬ。ただそれは決してミラにとっては不幸なこととして描かれていない。ミラは「死」に至るまで、地球に残された汚染物質により大変苦しみます。安らかな死とはいえない。それでも、不幸な死ではない。死ぬことは、不幸とは直結しない。苦しむことそれ自体は、不幸ではない。そんな強い哲学が見えます。そしてそれを完遂する。十数年しか生きられなかったミラの人生は、πやマッキとの交流に溢れた幸せなものに思えます。ミラは、与えられた己の生を全うしました。その命題の前では、「死」など、恐れるものではないのかもしれません。十分生きた、全うした、そう言い切れない生を送ってしまった人が、「死」を恐れ、「不死」に憧れるのかもしれない。ミラの哲学は、強く、勇気を与えてくれます。

πはただひとり、子供のままの感性で生き続ける。マッキのような諦観はありません。ただ自分にできないこととして、「死」へのぼんやりした憧れがあります。それは、ミラが死ぬことで明確になる。ミラの生が、充実した、幸福なものであったから。もしミラとの出会いがなければ、「死」を選べる状況に置かれてもマッキと母と共に地球に残ることを選んだかもしれません。ミラの「死」を通して、生への充実を知り、それを希求するようになった。結果としてそのお膳立てをするのはマッキですが、そこもπらしい。兄弟ですからね。そして最後には、マッキの「死」も宇宙へ連れていく。「すっごくどきどきする!」その台詞を聞いて、マッキは、自分の「死」もπに託したように思えます。πも、マッキの分まで、限られた生を懸命に生きることでしょう。そして、人間として死ぬ。マッキの兄弟として、マッキの分も、生きて、死ぬ。そんな未来が見えます。

母。基本的に無表情ですごい悲壮感ありますが、実は最も人間的です。「死」が与える生への充実を、自らは決して享受できない。更には、πとマッキにもその運命を課してしまった。ミラの言うとおり後悔があるのでしょう。そして、ひとり、地球に残されることがこわかったんでしょう。それ故に死ぬことができるミラに対して深い嫉妬といえるような感情を抱いているように見えます。極めて人間的です。後悔と恐怖と嫉妬。そしてそれを抱えながら生きていかなければいけない、永遠に。ただ、もう、大丈夫。マッキが帰ってきたので。ミラの「死」を知り、πの「死」をエスコートしたマッキは、生を充実させる術を身につけたはずです。これからは、マッキと二人で、野菜を育てて、歌を歌って、昔話をして、美味しい食事を作っていくんでしょう。笑顔で。

以上、自分の解釈というか、思ったところです。登場人物が少ないので、人に着目して書きました。とても面白い漫画なので、ぜひ多くの方に読んでほしいです。ここまで駄文にお付き合いいただき、ありがとうございました。

蛇足です。これを読んだとき、「100万回生きた猫」を思い出しました。愛を知ったとき、はじめて本当の死にありつける猫。あの猫も、幸せだったでしょうね。写真の猫は、都内にある大井埠頭中央海浜公園の猫です。なんかの部活で来てた女子高生たちにチヤホヤされて、幸せそうでした。きっとこの猫も死などこわくないでしょう。

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