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由季 調『歌集 互に』(ながらみ書房・平成18年)

みなさま、こんにちは。
今日は、由季ゆき 調しらべさんの『かたみに』という歌集を取り上げたいと思います。

この歌集の特色のひとつとして、ひらがなが多用されている点が挙げられます。ひらがなを用いた歌人としては、会津八一あいづやいちが有名ですね。会津八一は総ひらがなの万葉調の歌を遺しています。
それでは、由季さんの歌の世界へ。

あゐいろのわづかにのこるいんくびんかたむけながら未明にをりぬ
こころまですきとほりくるこのなかのかげをうたふのもうやめようか すみきつてくもひとつないひとひにはそらのかなたにちひさなゆふやけ
つきくさはあしたにひらくぬばたまのつきのひかりのかわかぬうちに

由季 調『互に』p24,p36,p60,p149

ひらながの歌は一首を読むときの滞在時間が長くなります。
「あゐいろ」は「藍色」よりも深い色合いを思い浮かべます。
「いんくびん」は「インク壜」よりもどこか可愛い感じがします。
・・・こんなふうに言葉ひとつひとつを見ていくのが愉しい。正解はないので、自分の感じたイメージを大事にしてほしいですね。

はなびらのこぼれてくるにてのひらのうちひらくかな このうたごころ
ひとりではひとりきりではうたへないけれどもうたふときにはひとり
結句からきめてしまへばうたへないあなたのきもちたしかめられぬ

由季 調『互に』p40,p110,p111

メタ的な視点も感じる歌の歌、三首。
「けれどもうたふときにはひとり」たしかにその通りだ。恋はひとりではできないけれど、恋歌を詠むその瞬間はひとり。

めをとぢてすこしうへむくだけでいい女の子にはことばはいらぬ p67
ぬくもりにかはる香水なからうかふたりきりにて逢ふときのみに p115

由季 調『互に』p67,p115

そして相聞歌。

うつくしきものであるなら美しくこはれてゆくをまちゐてしがな

由季 調『互に』p104

滅びの美学。「こはれゆく」ものが一体何であるか、ここでは明示されていません。説明していないのがいい。私はこういう歌が好きです。
私はこの歌からデンマークの画家 ヴィルヘルム・ハマスホイの静謐な室内画を思い浮かべました。

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