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「父に託された宿題を解く」という生き方

父が他界して10ヶ月が過ぎた。

経験したことがある人なら「10ヶ月」という数字にピンと来ると思う。10ヶ月後の命日は相続税申告期限だ。

この10ヶ月の間、いろいろな「初めてのこと」が起きた。大変という言葉以外に説明する言葉が浮かばないほど、大変だった。


父と娘という関係の割には親しいほうだったと思う。だが、今まで以上に、父のことを知る機会があった。

想像していた以上に、父は繊細な思考回路を持ち、細やかな配慮を尽くす人だったことを知った。そういう父の一面を知ることになったのは、父の遺産分割協議をおこなったからだろう。


「法的な拘束力のある遺言を残していてくれたら楽だったのに」と何度も思った。なぜこんな面倒なことをさせるのだろうと、父の遺志を残念に思ったこともあった。

けれども、今になってみると、あのメモ書き程度の遺言は、父が熟慮した上で、私たちに託した「宿題」ではないかと思う。

おかげで多くの知識と経験を手に入れることができた。


父の趣味のひとつは仏像鑑賞だったが、その中でも特に、興福寺の阿修羅像は晩年のお気に入りだった。

3月末に日本橋界隈へと足を運んだ。相続税を支払うためだ。足早に歩きながら、奈良県のアンテナショップが目に留まる。

「もしやこれもお父さんの配慮のひとつなの?」

そんなことを思いながら興福寺関連のグッズを眺めていた。

父のことを思い、「託された宿題」を解きながら生きていきたい。

心正しく。