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命がのびたコゲさん

コゲさんの選択

余命1年の宣告を受けたのに2年もおまけの人生を貰っているコゲさん。
がんになってっもタバコを吸いまくって焦げ跡だらけなので命名コゲさん。
水分を失った痩せたコゲさんのカラダにタバコの煙がへばりついた。
ご本人にとっては、不本意なネーミングだろうけど。
火がついているだけで安心するのだという。
安心が形になった焦げ跡。
その焦げ跡を笑っていられる奥様も最高。(火事は怖いけど!)

コゲさんは、お金には何も不自由がない人生。
お金に不自由だらけの私からは羨ましい。
日常生活は、普通で、ヤマザキパンのランチパックをおいしい!と食べていた。

当然、莫大なお金のかかる最新の治療だって思う存分受けることが出来た人だった。歴代の愛車の写真を見せて頂いたけどあまりお目にかかれない外車ばかりだった。
でも、治療も全てご自分で決めて貫いてきた。
抗がん剤や放射線治療もすべて断ってきた。
簡単な手術のみ受けて、がん自体は切除せず、がんは、コゲさんと共にいる。

途中で、入院して検査を勧められるシーンもあったが、NOと。
ご自宅で奥様と二人の生活を続けている。
今でも全てご自分でなんでもされている。
私が、伺ってもひたすらお話をするだけ。
それがいいと言ってくださる。

主治医チェンジ

コゲさんは、お会いした当初、がんの痛みや辛さが、中々調整できずにいた。
緩和ケアで働いていた私は、その時の医師の治療が適切なものではないことを感じていた。

プライドが人一倍高い医師だった。
看護師ごときから意見しようものなら大変な事件へと発展するのは容易に想像できた。
わかっていても、日々悶々とした。
コゲさん自身も主治医への不信感がつのっていた。
この治療が適切ではないのを知っていながら苦しんでいるコゲさんを見ているのが辛かった。
色んな作戦を考えた。

とても勇気のいる決断であったけど、緩和ケアが得意な医師をまず、探した。

神様が味方をしてくれてるのか、直ぐに見つかった。

そして、ついに主治医交替への流れを提案。
そのころには、コゲさんとの信頼関係もできていたので賛成してくれた。
演技指導もしながらセリフも振り分けて見事、主治医交替が実現。ケアマネさんにも頑張ってもらった。

結果、とても素敵な主治医に巡り逢うことが出来て、相性も良く、コゲさんの辛さが一気に和らいだ。そうそう・・・その薬!という薬をちゃんと使ってくれる医師だった。
コゲさんも先生によってこんなにも違うのかと驚いていた。
ご家族もとても喜んでくれた。

半年ぶりの外出もできるようになり、さらには旅行もできた。
ご家族とのいい時間が一時的に戻ってきた。

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先生になんでも言える関係性はとても大切な事。そして、がんの方の場合は、痛みや辛さを緩和してくれる知識があることは必須だった。
今回のように毎回、主治医を交替すればいいというものでもない。
協働していけるパートナーであれば乗り越えることはできたと思う。
私の自己満足ではないかと何度も問い直した。
病院でも、このようなケースはあった。
病院は、幸い同じ科に多くの医師がいるので、在宅ほど難しくはない。

私の我が入らないよう、コゲさんが最良の方向にいくようにだけを祈った結果だった。

おまけの時間の辛さ

最初にコゲさんを1年の余命宣告を受けたのに2年もおまけの人生を貰っていると紹介した。
でもこれは、私からの目線で、コゲさんは、必ずしも長生きすることを望んでいたわけではなかった。

お迎えが来ないことの辛さを私はまだ知らない。
辛いのだろうなという気持ちはわかってあげられるけど。
寝たきりの高齢者からよく聞く言葉。
「早くお迎えに来てほしい」「早く逝かせて」と。
コゲさんも同じ気持ちだった。

前にやり残したことはないのかを伺ったことがあった。
「やりきったから何もない」と。
コゲさんの経歴やこれまでの人生の話を聞いていると本当にやり切ったのだとわかる。

やり残したことがある人は、お手伝いをしたいと思う。
でもコゲさんは、生きていく上での希望がないのに生きなくてはいけない。

最近、少しずつ肌の色が黄色くなってきたコゲさん。
むくみも強くなってきたコゲさん。
医療用麻薬の量も増えている。
眠る時間が圧倒的に増えている。
若かりし日々の話を目を輝かせながら話してくれたコゲさんの眼は、外界の光を遮断するように閉じていることが多くなった。

奥様は「頑張ってとは言えない」ぽつりと言われた。
ずっと頑張ってきたのを見てこられた奥様だから。

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「希望」という光があるからこそ人は生きれるのかもしれない。
希望がなくても誰かの為にも生きられる人もいるかもしれない。
でも誰かのために生きたいと思ってもカラダの電池が先に切れそうな人もいる。
私は、自分の両親と同年代のこのご夫婦を両親と重ね合わせることが多い。
出会わせていただき、ケアを提供する側であると同時に、それ以上に沢山のものを感じて刻ませてもらっている。

命を引っ張って伸ばすことで辛い人たちは、たくさんみてきた。
命をのばすことと緩和は、全く別のものだと思っている。主治医がかわり、いい時間が過ごせたことについては、とても喜んで頂いた。
結果、命の長さものびた。よかったのかな。
この先もきっと問いかけながら。






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