屋上階より

私の言葉の供養場です。

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午後2時

僕は未だベッドから身体を起こせずにいる。 ただ呆然と、ほんの少し開いたカーテンの隙間を見つめるばかりだ。そこから射し込む光で、今日は天気が良いことが分かった。 学校を終えた子供達が傍の道を走っていく音。自転車の車輪が軋む音。立ち話に興じる主婦達の笑い声。 僕自身はというと、どうせ野垂れ死ぬだけの、駄作の中に生きている。 僕も少し前までは、一般の彼等と同じ、一般の自分であった。笑って、泣いて、怒って…。感情の起伏を存分に使い、時間を浪費する事に意義があると信じてやまなかった

    • 明くる

      どうしようも無い闇が、私を覆った。 黒く光った森を連れた“それ”は、私の身体中に纏わりつき、眼を隠す。 温く濁った瞳の奥。枯れた木々が囃し立てる耳の奥。咳切れた血の味に塗れた喉の奥。 遠くの山並に陽が昇り、暗がりが碧く燃えた。 濡れた枯葉の上、擦れた膝を抱いて蹲る私の、冷えた肩は小刻みに揺れる。 何処から走り続けて、此処に来たのか。 何から逃れて、此処に来たのか。 今となっては、分からない。 しかし先程まで、私を喰わんばかりであった葉の先に、美しい大気の子供達が宿り、その身を

      • 早朝に鳴く

        アラームを止めようと伸ばしたあなたの腕が、私の顔にかかる。 そのまま抱き締められ、貴方の胸元の、柔らかな香りに包まれた時、私は心底、生きているのだと、穏やかな睡魔に目を閉じた。 あなたが隣にいる間、私の思考が止むことは無い。常に脳の何処かがぐるぐると目まぐるしく動き、あなたの中の私を探す。 あなたが着ている私のスウェット、あなたが私の家で洗った下着、私の匂いの染みついた骨ばった長い指。全てに私の片鱗を探しては、安堵する。 他のどの暖房器具でも満たない自然の温もりに、私だけが包

        • 無題5

          皆様、暫くぶりですね。 お元気でしたか。「まぁまぁ」なら、上等です。 漸くカレンダーに、脳味噌を使って向き合わなくてはと思い立った11月が終わり、12月ももう約1週間も経ってしまいました。どんどんと日々の流れに取り残されているような気になって、焦るのは何故でしょうか。 何かを成したいと、心の奥底、どこかで思っているのでしょうけれど、寝てしまえばまた振り出しで、いつもの生活を全うするに至ります。それもまた良いじゃないか、と、自分自身を、考え得る最大の愛で、何とか癒すことに精一

        • 固定された記事

          今日も、よく生きたと、自分の腕を抱き寄せた。 今日はもう、ゆっくり眠りについて。 明日はまた、忙しなく1日を生きる。 誰かの優しさに気付けないまま、垂れ流れる孤独を掻き寄せたまま。 いつかの「私」をテーマにした発表も、今の私には軽すぎると感じられるようになったくらいには、様々な事象を過ぎてきたのだと思える。 誰かに抱き締められなくとも、誰かによく頑張ったと褒められなくとも、今のあなたも、私も、十分過ぎるくらいに、よくやっている。 疲れたよな。 優しすぎたあなたの心の穴が、どん

          きらきら

          全部全部、消えちゃえ!って思った。 髪の毛は右側が上手く巻けなくて、新しく買ったリップは今日のメイクとちぐはぐで、左目の二重がほんの少し、いつもより狭かった。 彼氏のLINEは2時間返って来なくて、友達からの相談は溜まっていく。 でも誰も、あたしの声は聞こうとはしてくれない。 いいんだ〜、だってあたし、大人っぽいから。 誰よりも思考を練り上げて、誰よりも早く、大人にならなきゃって努めてきたんだから。 あたしが吐いた引用だらけの言葉で、誰かが「ありがとう」って言ってくれ

          無題4

          あぁ苦しい。痛くて堪らない。 気分を上げる為に爆音で聴いていた音楽も、今は微量の音すら神経を逆撫でするから、私は無音室のような部屋で1人「これ」を書いている。 社会に準ずる事で得てきたものは、僅かばかりの金と、無駄に達者になった言い訳を言う頭くらいで、あとは、失ったものの方が大きいかもしれない。 学生時代、大人という存在は果てしなく大きいものに思えていた。この世界を牛耳っているのは無論大人達であったし、私達に教えを説くのも、赦しを与えるのも大人だった。 好きな大人、嫌いな大人

          「僕、死にたいと本当に思った事、一度も無いんです」 血管も透けるような青白い肌の少年は、私にそう言った。何か言葉を発する度に首を横に動かす癖は、発言するということに対する、この時期の少年が抱く独特の気恥ずかしさを隠す為の、精一杯の行為であった。鼻まである前髪の隙間から見える目は、猫のように吊り上がっていて、それでいて切長で。そこに嵌め込まれた真黒な瞳は、大人の妖艶さと、まだ少年らしい幼気な甘さを纏った不思議な光を放っていた。 太陽の陽射しから逃れた教室の隅に居ても、額に汗が

          ミッドナイトカット

          手首に這っている。それは今も変わらず。 消し去りたくて掻きむしったら、新しい赤が糸を引いただけだった。 愛した日々も、人も、物も、消えては産まれるこの世界で、私は息をする。 全てが正しい、この世界で。 そこに、私は居ない。 私の人生に、続きがあるとするならそこは、どんな場所だろう。和やかな空気と笑い合える場所だろうか。忙しない哀しみに押し潰され、独り涙する場所だろうか。 そのどちらにせよ、抱きしめてくれる両腕が存在するなら、私は私の続きを知りたいと思える。 ただ盲目に、目の前

          ミッドナイトカット

          ネトフリ感想文「太陽の子」を観て

          面白かった。 戦争を題材にした映画を「面白かった」というのは御門違いな気がして未だに気が引けるし、適当であると思えないのだが、これには幾つか理由がある。 まず一つ目、「表情」。 今は亡き三浦春馬さんの、防空壕に避難したシーンだ。戦地から帰り、穏やかなひと時を過ごすと思われたのも束の間、空襲警報が鳴り、一同避難した。その際の、戦闘機の飛ぶ空を見上げている時の表情が、他シーンでの、母親役田中裕子さんの「戦地での話は一個もしなかった」の裏を容易に理解する事が出来た。 海に入って行く

          ネトフリ感想文「太陽の子」を観て

          花を結う

          遥か頭上、その雲は流星の如く細く儚い。 口に含んだ檸檬水の、柔くも鋭い光に、私の意識は明瞭になる。 眼前の男が昔吐いた言葉は、この世が如何に平和なものであるかを、私に思い知らせた。 そうか、私は幸福な時代に生を受け、こうして時間を浪費しているのか。 垂れ流れている底無しの愛憎が渦巻いては、私の身体を引き摺ろうとして止まないのに。 血の滲んだ爪を噛む。黒く濡れた髪は振り乱れて、まるで鬼婆の様に。紅く擦れた膝を抱く私を、部屋の隅、陽光から逃げた暗闇が、そっと撫でた。 微笑むと

          無題3

          聞いて下さいな、さっき更新した「無題2」。 あんなに前向きな感じで書いてたでしょ? 一変、心がどんより、しんどくなってきてしまったのですよ。まったく本当に急なもんで、どうしてみようもなく、とりあえず上げなくてはと音楽を聴いています。 今回は理由がハッキリしているんだぁ。 かつて好きだった人、好きでいてくれた人が、突然「飽きた」と連絡を絶った人が、ついに離れてしまった。いや、私としてはね。ただ無心に彼を愛していたわけでは無くて、彼の作る音楽だったり、彼の描く絵だったり、話した時

          無題2

          ふざけんなって思いますよ。 何に対してかは分かんないんですけどね。 いつもそんななんです。何に対して怒っているのか、何に対して悲しんでいるのか、明確な理由は無いのに、どうしてか心が苦しくなっては潰れるんです。 どうにも鬱憤を溜め易い性格のようで、それを消化しにくいタチらしく、私はいつも窓際で煙草を吸いながらコーヒーを飲んで、音楽に包まれる事を選びます。あ、あと最近は料理を作ることも趣味になりました。趣味と呼べる程の技量は無いですが、最近元同僚にそんな事を言ってみたところ、「生

          Blue.

          寝転んだ床に押し付けた頬が、緩やかに冷えていく。 目線の先にある携帯の画面は、今も暗いままで、私は何が表示されることを望んでいるのだろうか。 頭の右側が鈍く痛む。 痛いだけの恋なら、初めから教えておいて欲しかった。暗がりの中、ただ盲目に手を伸ばして、「愛であろう物」に縋り付いて。 本当はこうして、熱い抱擁を、柔らかな接吻を、欲しがっていただけだったのだろうか。 あるいは、もっとその根底。 灰色に燻んでいく、六畳一間。 慣れてしまった。分からない事には触れないようにするの

          Lie、僕を殺して

          崇高な群青色の空を見上げた彼女が放った一言は、僕のこれからを呪うには充分だった。 繋いだ掌は僕らには眩しすぎたようで、離した先にあるのは空虚な冬の風だけだ。 僕が生まれてこのかた果てし無く連れ歩き続けている『孤独』達は、未だ消える事無く僕の足元に纏わりついていて、拭い去る気も毛頭無くしてしまっていた。 生を諦めようとした事は幾度かあったが、その度己の弱さに甘えて他人を求めた。 触れないでくれ、僕の冷たさに。 触れさせてくれ、君の温かさに。 心の奥、胸の前辺り、脳味噌の横

          Lie、僕を殺して

          肌に穿つ

          限られた小さな箱の中で泳ぐ、金魚の尾鰭。 赤い絵の具を水に落とした時のように揺れるそれを、私はただ茫然と眺めていた。 貴方の触れた、肌の痺れに甘やかされて、今日もこの夜を呪った。 静かな街の中、過ごす時間に差異は無くとも、2人と呼ぶには足りない経過の中で、一体何を見るのだろう。 捨てられないのなら触れないで。 触れるのならば全てを捨てて。 私が私である為に費やした全てのガラクタを、貴方は最も簡単に崩してしまうのだから恐ろしい。 絡み合い縺れ合ったこれを「愛」だと呼ぶのなら