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明治日本と西洋文明の出会い #1本シリーズの目的と資料について

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はじめに

田中彰は、明治維新を「東アジアの日本が、近代国家へと変貌した一大変革=『革命』だった」と述べた。

この革命を進めるにあたって、日本は欧米の近代文明・文化を参考にした。この国家をあげての大修学旅行というプロジェクトを担ったのが、岩倉使節団である。遣欧米特命全権大使は岩倉具視、副使は木戸孝允・大久保利通・伊藤博文・山口尚芳の明治維新の中心メンバーである。

本シリーズは、岩倉使節団が欧米で何を学び、何を日本にもたらしたのかという点について、彼らの公的な報告書である『特命全権大使米欧回覧実記』(以下『実記』と略記する)を通じてアプローチしていくものである。加えて、社会科教育の立場から、『実記』を用いた授業を検討・構想し、可能であれば実践事例の報告としたい。

1.資料について

本シリーズの核となる『実記』については、現在現代語訳で読めるものとして主に岩波書店版と慶応大学出版会版の2つが存在する。ほかにも角川書店版もあるが、あまりなじみがないとおもわれる。もちろん、原本はあるのだが、読みづらいことこの上ないので、普及版を使用する。しかも手に入らない。そして高い。

ちなみに原本の書誌は次の通り。

久米邦武編集『特命全権大使 米欧回覧実記』(全五冊、明治11年10月、太政官記録掛刊行、実際には12月刊行、博文社)

現代語版の1つ目の岩波書店版は、この分野の大家である北海道大学名誉教授・田中彰訳・注で出版され、ロングセラーとなっている。

この分野に興味のある多くの読者が、田中彰との出会いからはじまったと思われる。

ただ、個人的には慶応義塾大学出版会から刊行された水澤周訳・注の『実記』をおすすめしたい。その理由は次の3つ。第一に現代語訳の読みやすさである。田中版はやはり昔の言葉遣い、漢文的素養がないと読みにくい。第二に取り回しの良さである。1冊2000円弱のお手頃価格で、全5冊新品で揃えても1万円を切る。もちろん万年金欠の私は中古で最も安く購入できたが。第三に全五巻の本編に加え総索引が刊行されていることである。1冊500円ほどの本書があるだけで、百科事典的な『実記』の活用の幅が大きく広がる。

以上の点から本シリーズでは、慶応義塾大学出版会から刊行された、米欧亜回覧の会企画、水澤周訳・注の『実記』(普及版)を資料としている。

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おわりに

『実記』との出会いは、慶応義塾大学出版会のほうなら新しいし、全部購入しても1万円切るなら買ってみようかな、というくらい、平凡なものだった。しかし、読み進めるとこんなところまで行っていたのかという発見と、同時代の人々の洞察力というか観察眼、目の付け所が面白く、そして何より現代語訳が読みやすく、ぽつぽつと読み進めているうちに読み終わってしまった。ぜひ第1巻からじゃなくていいので、安く中古で販売されているものから手に取って読んでみてほしい。

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