【短編小説】加工カメラ

今日は牧場にデートしに来た。

自然はいい。
彼女も場所に合わせたナチュラルな
ファッションに身を包んでいる。

いや、めちゃくちゃ可愛いな!!!

というか素材がいいから
何着ても似合うんだよなあ。
ああ可愛いなあ。

それなのに、
彼女は写真を撮るとき
加工カメラしか使わないんだよなあ。
ノーマルカメラでは絶対撮影しないし
もちろん撮影させてもくれない。

彼女曰く
「加工せずに撮影するなら目で見てるのと
変わらないから写真にする意味がないじゃん」
らしい。

言い分は分からなくもないけど
この俺の目に映る、はちゃめちゃに可愛い彼女を
加工とかしないでありのまま記録したいのに!

そして友人とかにも自慢したい!
加工されたものを見せても
どうせ加工じゃん〜ってなるだけで
羨ましがってはくれないから!
だから、無加工じゃないと意味がないのよ。
1枚くらい撮らせてくれ〜!

と彼女に言えるわけもなく、
(万が一、嫌われたら元も子もない)
いつも通り、時折加工カメラで撮影しながらの
デートを楽しんだ。

「あ、豚さんだ!
 ねえ一緒に写真撮ろうよ!」
彼女に誘われ豚との3ショットを撮った。

ところがそこで事件が起きた。
なんと加工カメラで撮ったはずの写真が
なぜか無加工の状態で保存されていたのだ。

そこには当然、無加工の彼女がいた。

いや、めちゃくちゃ可愛いな!!!

なんなら
加工されているものより可愛いのでは?
しかも幸運なことに彼女、気付いていない!
ああ神様。
この写真一生大切にします。
そして自慢しまくります。

その後、僕らは仲良く牧場で
できたてのソーセージを食べた。
牧場で、しかもあの豚を見た後に食べるのは
少々罪悪感はあったけど食べた瞬間
そんなことはすぐに忘れさせてくれた。
できたては違う!美味い!

あと何よりそのソーセージを
頬張る彼女がめちゃくちゃ可愛い。
見惚れてしまうよ。
ああ、できればノーマルカメラで残したい!

まあ、でも充分じゃないか。
だって俺のスマホには無加工の彼女が
すでにいるのだから!

帰り道、もう一度あの写真をこっそり見返す。

しかし、
写真にはなぜかしっかり加工が施されており
当然、無加工のあの可愛かった彼女は
いつもの加工彼女になっていた。

そして、一緒に撮影したはずの
豚の姿はどこにも見当たらなくなっていた。


ああ、無加工の彼女よ。
戻ってきてくれ!



加工された写真に
「かわいい〜」ってなる人の気持ちが
本当にわからないんですよね。

あと、加工された写真って
思い出感が薄くなる気がするんですよ。
なんか自分じゃないアバターで残した気分。

それなのに
友達とかで集まった時に加工された写真を
撮ろうとする人ってなんなんですかね?
プライバシー?外だけどマスクする的な?
本当に意味がわかりません。

でも今の高校生は加工した写真しかない、
みたいなのをテレビかなんかで見た気がします。

ということはそれに理解ができない自分が
おっさんになってきたということでしょうか。

基本的におっさんになりたくないので
新しいものは一旦取り入れようと
思っている派ですがこの加工アプリについては
もはやおっさんでも良いかなと思ってます。
それくらい意味がわかりません。

この気持ちわかってくれますか?


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