ショートショート45『計画通り』

ふふふ。

完璧なプラン、とはこのことだ。

3ヶ月前から張っていた伏線を本日回収する。

その名も
「カラオケdeファーストキス大作戦」

おれは今日カラオケボックスにて
彼女と人生はじめてのキスをする。

しかし、何の前触れもなく
キスをすると向こうは引いてしまう可能性がある。
何より漫画のように突然キスをするなんて
自分がうまくできる気がしない。

そこでまず、
射程圏内にできる限り自然に入る必要があった。
そのために立てた伏線が

「おれ、あごの肉触るの好きだわ〜気持ちいい〜」

という設定だ。
この謎のフェチ設定を健気に
3ヶ月も続けたことで
彼女はすでにあごを触られることに
一切の抵抗はなくなっている。

そして「あごを触る」という行為こそ
漫画などでキスをする直前に必ずといっていいほど行う「あごクイ」の儀式。

つまり、あとはキスをするだけの状況を
作り出せる。

加えて、カラオケボックスは
「部屋を暗くすることが不自然じゃない場所」だ。

部屋は暗ければ暗いほどキスの雰囲気は
作りやすい。

高校生同士のカップルにおいて
閉鎖的でかつ暗い部屋というのは
この環境は他にない。(しかも安い)


ここまで聞けば
いかに俺のプランが完璧かが理解できただろう。


そして、ついに「その時」が来た。

部屋はすでに暗くしている。
いつものようにあごを触る。
だが、いつもと違いキスをするにふさわしい
雰囲気にするため相手の目を見つめながら
徐々に顔を近づける。

あとは、彼女がキスをされるということに
気付くだけ…

すると彼女は目を閉じ、あごを少し上にあげた。
これはまさしくキスの受入体制!


勝った。


目を閉じ、唇を重ねようとしたその時。
部屋の電話が鳴る。

どういうことだ?
残り時間も計算したのでこのタイミングでの
電話はおかしい。
最悪だ…キスの雰囲気は完全に壊れ
彼女は俺のもとから離れてしまった。

電話の音だけが302号の部屋に響き渡る。
仕方がないので受話器をとる。

「お時間17分前です。延長はいかがしますか?」

電話のうしろから
クスクスと笑い声が聞こえる。

何も答えず受話器を強めに戻す。
そして天井にうまく隠された監視カメラを
10秒以上にらんだ。



この世に完璧な計画なんてないし
たいていのことが計画通りにいかないことは
分かっているのについ計画立ててしまいますよね。

まさに1/1は日本人が1年でもっとも計画を立てる日
じゃないでしょうか?

そして計画を立てた瞬間は
作中の彼同様に「完璧なプラン」だと
おもっている。

しかし1/4の今日時点ですでにその
「完璧なプラン」が崩壊している人も
少なくないのでは?


ギャンブルは当たった瞬間より
「当たりそう!」って思う瞬間に
ドーパミン、通称「脳汁」が最もたくさん
放出されるそうです。

だから、パチンコは当たりそうな時のが
派手な演出をするのでしょうね。


きっと、計画を立てるのもこれと同じで
計画がきちんと実行できたときよりも
計画を立ててる時のが気持ちいいんです。

だから毎年うまくいかなくても
毎年やりたくなっちゃう。

でも、だから成功者はみな口を揃えて
「行動したやつが結局勝つ」というのでしょう。

そこまで分かってる僕も
2023年の計画を妻と一緒にたてました。
だって気持ちいいから。仕方ない。




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