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アメタ物語 ~序章・モリモト編~

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隔月で行なっているイベント「アメージング・アメタ」で朗読している小説です。現在執筆進行中。500円で最後まで読めます。
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#懐かしい

12.アメタ物語 〜序章・モリモト編〜

「今度の日曜日は家族でおばあちゃん家に行くんだ。ごめんね」

 牟田くんとの約束をなんとかうまく断る事ができたある日曜日のこと。モリモトは本当に気心の知れた友人たちを三人自宅に招き、お菓子を食べながらお気に入りの漫画を読んだり、テレビを見たり、ラジオを聞いたり、ぼんやりしたりと本当にまったりとした時間を過ごしていた。
 階下でドアチャイムの音とドアをノックする音が聞こえた。すこし遅れて「モーリーモ

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11.アメタ物語 〜序章・モリモト編〜

 下校途中に牟田くんの旧友宅に寄り道をすることはほとんど強制的で、しかもほぼ毎日だったし、休みの日でさえモリモトに本当に用事が無く返事を躊躇していると「いいよな」と勝手に予定を押さえられ続けた。
 牟田くんがモリモトの絵の才能に気づいたきっかけはモリモトと同じ学校から転入してきた女子にモリモトの特徴を訊いてまわったことかららしいと後で判る。

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10.アメタ物語 〜序章・モリモト編〜

 牟田くんはモリモトの不安な気持ちなどまったく意に介さずモリモトのエリアに遠慮なく侵入してきた。
「今日遊べるか?」授業が終わり帰宅の準備をしているモリモトに牟田くんが近寄ってきて言った。慌ててしまい即答できずにいるモリモトの気持ちなどおかまい無しに「遊べるよな」と牟田くんは繰り返してきた。こうなるともうモリモトの抵抗しようとする気持ちはすっかり萎えてしまい、催眠術にでもかかったように牟田くんの言

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9.アメタ物語 〜序章・モリモト編〜

 大人になれば止めておけば良いと理解できるのだが、友達という概念がよくわかっていない小学生のころには「ウマが合う」「一緒にいて心地よい」「自分と同じようにおとなしい」だけの友達ではなく、何か気配の違う人間が無理矢理生温い友達集団に入り込んできてしまうということがあって、そういう時に感じる不穏な気持ちがたまらなく嫌だったのだが、どうすることもできないで不幸せな時間を過ごしたものだ。

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8.アメタ物語 〜序章・モリモト編〜

 文房具屋で砂漠に立つ黄土色の汚れたロボットの写真がプリントされたバインダーを見た時の衝撃は忘れられない。

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7.アメタ物語 〜序章・モリモト編〜

 きっかけは憶えていないが、アサオくんと打ち解け合うのにそれほど時間はかからなかったはずだ。モリモトを取り囲む人だかりに加わったアサオくんのほうから「モリモト君、絵がうまいね!」と言って来てくれたような気もするがそうでないような気もする。
 モリモトとアサオくんはお互いが(絵のうまさを認め)尊敬し合う関係で「君のほうが絵がうまい」と言う部分では一歩も譲らない仲だった。モリモトはアサオくんを失うのが

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6.アメタ物語 〜序章・モリモト編〜

 小学校に進級したモリモトの性質は相も変わらず引っ込み思案で、そもそも新興住宅街の同じ地区の子供たちが一斉に同じ学校へ進むので、今で言うところの「デビュー」などという過去の自分と決別する作業も出来るはずも無く、そもそもそういったことにはあまり関心の無い子供だった。

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