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お世話になっております星人。

お世話になっております星人。
仕事を終えて、帰宅するサラリーマンの群れの中で、こんな言葉を思いついた。わるぐちではない。

なんたら星人という言葉が小さい頃から好きだ。理由なんてものは存在しない。
幼い頃の僕は、パンツ星人、ブリブリ星人、メガネ星人。いくつもの星と人種を生み出してきた。今振り返ってみても笑えてくる。なんでも星人をつけておけばいいだろうという素直なバカさ加減。そんな自分を10数年ごしに思い出すことになるとは思わなかった。僕は、つり革につかまりながら、フーッと鼻息を少し多めに吹き出し、なんとか笑いをこらえた。

パンツ星人が話す言葉は「パンツパンツ」、ブリブリ星人は「ブリブリ」
彼らは他に言葉を持たない。そんなルールのもと、僕は彼らを演じていた。
ピカチュウと同じルールだとはいえ、あまりにもヘンテコなルール。でも、間や抑揚だけで彼らの感情を表現するのはなんだか面白かった。
(ピカチュウの「ピカピー」や「ピカー!」「ピッピカチュウ」を言い換えて口にしてもらったら想像がつくと思う)

このルールに則ると、お世話になっております星人は「お世話になっております」しか喋ることができない。パンツ星人、ブリブリ星人とお世話になっております星人の違いはここにある。彼らは、なんだかこの社会でもやっていけそうな気がする。実際、どんなときも文頭にお世話になっております。を忘れない礼儀正しい方がたくさんいることを思うと、むしろみんなに好かれる異星人になるのではないかとすら思う。

空想から一時帰還し、電車の中にいたとても真面目そうなサラリーマンに目をやる。

「お世話になっております」をよく使う彼のような真面目なサラリーマンは、本当の気持ちでこの言葉を使っているのだろうか。
そんなことが気になり始めてしまった。
もしかしたら、とりあえずつけておけばいいかな。という気持ちで言っているのかもしれない。いや待て、真面目そうな彼がそんないい加減なことをするはずがない。物騒なことを考えるのはやめよう。聞いてみないことには、わかりっこないのだから。

もし彼からメールが届いたとする。
冒頭のお世話になっておりますが、本心で、魂のこもった言葉だったら。
きっと僕は、こちらこそお世話になってばかりですみませんという気持ちになるだろう。そしたら本心で、お世話になっておりますと返信する。
それを読んだ彼が、また僕と同じことを考え、お世話になっておりますとメールで送ってくる。そこからはお世話になっておりますの言い合いで、高校生カップルの、俺の方が好き。私の方が好き。みたいな言い合いと、同じ類の言い合いが始まるんだ。

なんてことを考え出したら、鼻息と一緒に今度は声も漏れてしまった。

もう大人なんだから、こんな空想にふけってばかりではいけないな。
そう思って僕は、お世話になっております星人と、真面目そうなサラリーマンにこっそりを別れを告げ、電車をあとにした。

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らぶ
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雨野よわ

絵を描く駆け出しコピーライター。 ゆとりど真ん中世代。書きます。もがきます。
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