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美食の街リヨン【前編】

2020年でフランス生活10年目を迎えた今年。私は以前4年間ほどフランス第二の都市、そして美食の街として有名なリヨンで生活していたことがある。

リヨンに住んでいた当時、私は決まって休日や平日でも時間さえあれば一人でカフェに行くのが習慣となっていた。カフェで飲むコーヒーが好きというよりかは、20代前半の頃から習慣となっている日記を書くためである。

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日記を書く時間はとても心地よく、頭の中にある自由な発想や言葉を思い思いに綴る時間は、コーヒーを飲んだ事によるカフェインの影響も手伝い頭も冴え私の至福の時間になっていた。

ある日いつものように行きつけのカフェのテラス席に腰を下ろして一人日記を書いていた。この日も気分良くノートにペンを走らせながら新しく挑戦してみたい料理のレシピや自分で購入して試飲してみたいワイン、日々変化する料理への思いなどを書いていた。

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ちょうど二杯目のエスプレッソを注文し終え、手元の日記帳に視線を落としてペンを走らせ始めた時に、視界に入ってきたのは3人の日本人が隣のテーブルに腰をおろしコーヒーを注文しているところだった。

決して会話を盗み聞きしようと思っていたわけではないのだが、久しぶりに聞く日本語であったことと席の間隔が狭いという理由から自然と3人の会話は耳に入ってしまう。

『会話は聞こえていませんよー』

というような雰囲気を出すために、不自然ながら左手で頬をつきながら背中半分を彼らのテーブルに向けて私は日記を書くふりを続けていた。

彼らのテーブルに、注文した飲み物が置かれる様子が背中から伝わってくる。それと同時に彼らの会話の内容に、私は耳を立てずにはいられなくなったのだ。彼らの会話は私の興味を誘い、以前から自分で抱いていたフランス料理、いやそもそもの美食の本質に向き合うきっかけにもなった。

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彼らの会話の内容からどうやら飲食関係の仕事でリヨンに滞在していることが伺える。一人の男性が、他の二人に対して一つの疑問を投げかけていた。

『リヨンは美食の街だと言われているけど、何でですかねー?思っていたより星付きレストランは数多く存在しているわけでもないし、3つ星レストランのポール・ボキューズ(2014年当時)があるけど、リヨン市内ではなくリヨン郊外にあるよねー。リヨンに郷土料理は沢山あって特徴的だけど、それらは星付きレストランで食べられる料理とは全く違うし。なんでリヨンは美食の街と呼ばれているの?』

一語一句忘れられないほど当時の私にとって印象的な会話の内容であった

『それ、うまく他人に説明できないし同じこといつも感じてたー!!』

と思わず隣のテーブルに身を乗り出してしまいそうなほどであった。

確かに・・・何故?である。

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『美食の街リヨン』

と聞いて同時に語られる事はいつも決まって同じようにリヨン周辺で生産される食材やワインの話になる。

地理的にワインで有名なボジョレー地区、コート・デュ・ローヌ地区、ブルゴーニュ地区が近く良質で認知度も高いワインがリヨンに集まってくる。食材ならブレスの鶏肉、シャロレー牛の産地などの良質な食材に囲まれていることでも有名だ。

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内陸に位置するため海の魚を使った名物はないが、川魚のブロシェット(川カマス)と呼ばれる魚の身をすりつぶし、小麦粉・牛乳・たまごと混ぜ合わせた練り物のクネルはリヨンの郷土料理である。

郷土料理は実に豊富で『ブション』と呼ばれるリヨン特有の大衆食堂では伝統的なリヨンの郷土料理を味わえることができる。

このようにリヨンの美食を語る常套句は毎回以下の3つが代表的である

①近郊から集まる良質な食材・ワインの産地に恵まれている

②リヨンならではの郷土料理が沢山ある

③フランスの歴史と共にブションと呼ばれる大衆食堂が数多く存在している

しかしこれらの理由で【リヨンが美食の街】ということに私は納得ができない日々が続いていた。

それだけの理由ならばフランス国内他の都市でも同じようなことが言えるからだ。

ボルドー、マルセイユ、ニース、私が初めてフランスで生活したルーアンだってリヨン程ではないがそれぞれ特徴的で良質な食材はあるし、郷土料理だってある。

何より首都パリにいたっては、リヨンに比べて圧倒的にレストランの数はもちろん、ミシュランの星付きレストランも夜空を見上げて数える星の数ほど存在している・・・っと言うのは大げさだが、フランス国内のほとんどの三ツ星レストランはパリに集中しているのは事実である。

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当時の私は渡仏してから数年が経ちリヨンで働き初めたばかりの頃であった。フランスに来てやっとの思いで料理人として働くことができるようになり、より多くの技術、深い知識、強い探究心と共に常に新しいことを求めていた時期。

同年代の料理人に比べてスタートの遅かった自分は焦る気持ちもあって毎日必死で目の前に現れる出来事を無我夢中で駆け抜けていた。

しかし料理人として知っておくべき根本的な部分の
『美食ってそもそも何?』
という疑問に対し自分自身が初めて何も理解できていないことに気付いたのである。

私はカフェで聞いた彼らの会話をきっかけに、美食の街リヨンを目の前にしてもっと本質的な美食の真理を知りたくなった瞬間でもあったのだ。

続きは【美食の街リヨン・後編】にて。

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Chef ichi

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