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ほんの数分の思い出

「T先生が亡くなったそうだよ」

と今日、仕事の関係の人から聞いた。コロナではない、と言うことで少し安堵したが、突然のお別れに驚く。

T先生は大学時代に出会った先生。

と言っても、授業も受けたこともなく、私が大学一年生になったタイミングで定年退職された先生である。

ちゃんとお話をしたのは、私が大学院に進学してしばらくしてからのことだったと思う。

何かの用事があって、大学の別専攻の事務室に書類を取りに行ったところ、偶然T先生に出会った。

T先生はその頃、もう完全に引退されていて、地元に隠居していたそうで、東京に出てきたついでに、ふらっと大学に立ち寄ったそうた。

「あ、君は○○研究室の子じゃない?覚えてるよ」
と声をかけていただいて、少しお話をした。
どうやら学内の学会で私のことをなんとなく覚えてくれていたらしい。

その時はT先生の近況や、今は近所の昆虫に夢中だとか、少年のようなキラキラした話をされていて、笑顔でニコニコ、隠居生活を楽しんでいるのだなと感じた。

それは、ほんとに他愛のない、ほんの数分の出来事だったのだが、
T先生の魅力がギュッと詰まった時間で、当時色んな不安でたくさんの自分にとって、暖かい気持ちが心の中に流れ込んできたことを思い出して、今も確かに心の中に、その感じが残っている。

私の人生と、先生の人生がほんの一瞬、重なり合った時間で、なんだかとても印象に残っている時間だった。
私も普段行かない場所で、偶然東京に出てきた先生と出会ったのも、今思うと何かの縁だったのかもしれない。

帰宅して、日記を何年か遡って調べてみたけど、その時がいつだったか、わからなかった。
当時のことは、自分の中で、日記にも記すほどのことでもなかったのかもしれない。

それ以降、T先生にはお会いすることもお話することも、なかったように思う。

あれから何年経ったのかわからないけど、
先生とのお別れとともに、またあの時のほっこりした感覚が心に戻ってきて、ぽろっと涙が流れた。

T先生と私の一瞬の思い出を、今度こそ忘れないように、記しておく。

T先生はきっと、あちらでも楽しく自分の好きなことを追いかけてられてるのだろうなぁなんて。

ありがとうございました。

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