松本晴子

家のなかの本と向き合う日々です。ふだんは建築・美術系の翻訳(日英仏)をしたり、あとは文…

松本晴子

家のなかの本と向き合う日々です。ふだんは建築・美術系の翻訳(日英仏)をしたり、あとは文章も書きます。 アントニオーニ学。アントニオーニ研究家。 ル・コルビュジエ『パリの運命』(共訳)。

最近の記事

『ヴェルサイユの宮廷庭師』 2014とアンドレ・ル・ノートル先生

アンドレ・ル・ノートル。 ある日、ふいに、その名前と顔が頭に浮かび、 離れなくなりました。 いわずとしれた、フランス庭園史上最大の巨匠です。 17世紀のブルボン王朝フランスにおいて、国王ルイ14世のもとで、ヴェルサイユ宮殿をとりまく広大な庭園の設計をお手掛けになられました。 幾何学的な屋外空間は、絶対王政の象徴的空間となります。フランスはヴェルサイユを起点にして世界に誇るペイザージュ文化を築きあげたとも言えるかもです。 誰もが憧憬するル・ノートル先生(たぶん)。 そんな

    • ミクニヤナイハラプロジェクト『船を待つ』@吉祥寺シアター

      2000年代初頭に、ダンス批評の界隈で、「ニブロールnibrollがすごい、矢内原美邦がすごい・・・!」という噂が、かけめぐりました。 春のつむじ風に誘われるように、ニブロールの舞台をみに何度か出かけた記憶があります。 コンピュータ仕掛けの無機質なセノグラフィーと、めくるめく舞台を駆け巡る若いダンサーたちのどこか学生っぽい若い肉感(?)というか、人間くささが、印象的でした。 あれから20余年。わたしにとっての勝手に20余年ですが。 吉祥寺シアターの改装前最後の公演リストに矢

      • 坂本龍一 + 高谷史郎"TIME"、田中泯@新国立劇場

        今年3月28日は坂本龍一教授の1周忌でした。 新国立劇場では、この日から、2021年にオランダのフェスティバルで初演された "TIME"の東京公演が始まりました。 晩に劇場に出かけて舞台を見るのは10余年ぶりでしたが、2020年代におけるセノグラフィーの洗練は圧巻でした。 他方で、音楽+映像は音楽+映像だけで、踊りと朗読はそれぞれで、それぞれを別々の舞台で見られたならば、印象もだいぶ変わるかもしれないとも思いました。 構成が全体的に説明過多に見えたのも、それは単にわたしの

        • 青木淳先生の退任記念展@藝大美術館陳列館

          「青木淳退任記念展 雲と息つぎ ―テンポラリーなリノベーションとしての展覧会 番外編―」 東京藝術大学大学美術館・陳列館1、2階 会期:2023年11月18日(土) - 2023年12月3日(日) https://museum.geidai.ac.jp/exhibit/2023/11/clouds-and-breaths.html 白っぽい室内に、現場の廃材を借り集めたような半透明のテープや足場が張りめぐらされています。 控えめだけど、微細な空気の質まで緻密に計算された

        『ヴェルサイユの宮廷庭師』 2014とアンドレ・ル・ノートル先生

          映画『白鍵と黒鍵の間に」池松壮亮主演

          映画『白鍵と黒鍵の間に」 富永昌敬監督、原作:南博 試写会で拝見しました。機会をいただきまことにありがとうございます。 https://hakkentokokken.com ジャズピアニストで著述家の南博先生による自伝的エッセイを映画化した作品です。 劇中で、主人公の「博」と「南」の二役を演じるのは、池松壮亮さんでした。 昭和63年。音大を出た後に、バブルに沸く銀座のクラブで演奏し賃稼ぎしながら、クセの強い仲間や客たちの間で日々もまれながらも、本場アメリカでジャズピア

          映画『白鍵と黒鍵の間に」池松壮亮主演

          アントニオーニの時代:『欲望』1966とジェーン・バーキン(中編)

          2023年8月に亡くなった映画批評家アルド・ベルナルディーニ先生は、1960年代半ばの自著の中で、アントニオーニが、ジェーン・バーキンを主役と発表していたと記述していました。 他所で同様の記述を見たことはない、というより、一般に手に入る範囲の書物で『欲望』公開当時のアントニオーニが「ジェーン・バーキン」に言及した記録は見かけたことがないので、わたし個人としては、すこし意外でした。 そもそもアントニオーニが自身の映画作品に好んで採用してきたのは、演劇学校出身の舞台俳優でした

          アントニオーニの時代:『欲望』1966とジェーン・バーキン(中編)

          アントニオーニの時代:『欲望』1966とジェーン・バーキン(前編)

          フランスで活躍したイギリス人女優、ジェーン・バーキン先生が亡くなられて、一ヶ月が経ちました。 お元気でいてほしかったです。合掌。 さて、バーキン先生。 バーキン先生といえば、無名時代に、ミケランジェロ・アントニオーニ監督による『欲望』Blowupへ出演していました。 バーキン先生は1946年生まれなので、1966年の映画公開時は20歳前後。 18歳で、最初の夫である映画音楽家ジョン・バリーと結婚し、1967年4月に長女を出産しているので、『欲望』出演は、結婚、初産という、

          アントニオーニの時代:『欲望』1966とジェーン・バーキン(前編)

          中国映画『小さき麦の花』@早稲田松竹

          お盆休み前。 高田馬場にある名画座、早稲田松竹で見た、二本立てのうちの一本です: 中国映画 『小さき麦の花』Return to Dust 監督・脚本 リー・ルイジュン https://moviola.jp/muginohana/#modal 2011年の中国西北地方の農村を舞台に、貧しい夫婦が、周囲から疎外されながらも、二人で手を取り合って生きていく物語。 村落のなかで、疎外され、笑いものにされながらも、夫婦は互いに支えながら、人間的な成長を遂げていきます。 夫婦が周囲

          中国映画『小さき麦の花』@早稲田松竹

          試写『6月0日 アイヒマンが処刑された日』

          試写『6月0日 アイヒマンが処刑された日』ジェイク・パルトロー監督 2023年9月8日(金)公開 試写で拝見しました。まことにありがとうございます。 アドルフ・アイヒマン。 第二次世界大戦中にアウシュヴィッツ強制収容所でユダヤ人大量移送を主導したナチス親衛隊員です。ドイツ敗戦でアルゼンチンに逃亡しますが、1960年にモサドに居場所をつきとめられてイスラエルに連行され、同国の裁判で死刑判決がくだされます。 原題を「June Zero」と題されたこのフィルムは、アイヒマンの

          試写『6月0日 アイヒマンが処刑された日』

          麻布台ヒルズ@ヘザウィック・スタジオ

          「ヘザウィック・スタジオ展:共感する建築」@森美術館。 もう終わってしまいましたが、大好評であったようです。 a+uの2023年3月号がヘザウィック・スタジオ特集で、作品解説とインタビューの翻訳をさせていただきました。ありがとうございました。 はてさて。 そんな、トーマス先生率いるヘザウィック・スタジオが現在、日本で手がけているのが、麻布台ヒルズであるのだそうです。 麻布台ヒルズ、昨晩の夕刊にデカデカと登場していました。設計者(デザイナー)の名前はありませんでしたが。

          麻布台ヒルズ@ヘザウィック・スタジオ

          映画試写:「アダマン号に乗って」ニコラ・フィリベール監督、2023

          試写で拝見しました。まことにありがとうございます。 パリの精神疾患専門のデイセンターと、そこに通う患者たちを捉えたドキュメンタリー映画です。2023年ベルリン国際映画祭の金熊賞を受賞しました。 舞台となるのは「デイケアセンター・アダマン」。 サン=モーリス病院(パリ郊外、ヴァンセンヌの森の南端に接する総合病院。ヴァル=ド=マルヌ県)直属の施設です。 「デイケアセンター・アダマン」の特殊性は、なんといっても、センター建物がセーヌ右岸に浮かぶ船であること。 アダマン号は、

          映画試写:「アダマン号に乗って」ニコラ・フィリベール監督、2023

          映画試写:『ノートルダム 炎の大聖堂』

          試写で拝見しました: 『ノートルダム 炎の大聖堂』ジャン=ジャック・アノー監督、2022 ジャンルとしては、いわゆるパニック映画でしょうか。 2019年4月15日に、パリ、フランスで発生したノートルダム大聖堂の大火災は世界に大きな衝撃を与えました。 本作品は、避難、鎮火活動を通じて、「犠牲者ゼロ」がいかに達成されたか、火災発生から沈下まで、フィクションをまじえつつ、事件の真相にせまります。現場におけるチームプレイと個々の消防士の勇敢で俊敏な判断など、全編IMAX撮影による

          映画試写:『ノートルダム 炎の大聖堂』

          絵画における身体表象とデフォルマシオン、とか。(メモ)

          今年2月に府中でみた諏訪敦先生展の余韻にひたってます。 あとから響いてくる展覧会、というのはなかなか稀有なので、以下、思いついたことをメモしてみました。 ******* まずは「写実主義」とはなにか、ということ。 美術史の授業の期末テストに出てきそうですが。 日本語の「写実主義」と「現実主義」は、両方ともrealism/ realismeの訳語だと思うけれど。個人的には、日本語レベルの「写実」と「現実」では、ニュアンスが異なると考えていて、それが、日本文化におけるこの

          絵画における身体表象とデフォルマシオン、とか。(メモ)

          映画試写会:「Winny」

          試写でみました。ありがとうございます。東出昌大、三浦貴大主演作。 すごく面白かったです。一見の価値ある硬質な社会派エンターテイメント。 東出昌大、三浦貴大主演。 松本優作監督・脚本、撮影・脚本:岸建太朗。 2000年代前半に話題となったファイル共有ソフト「winny」と製作者の逮捕、起訴と最高裁での無罪判決までをおう、史実にもとづく、いうなれば、告発型サスペンス映画です。「組織が個人を抹殺する」現実をストレートに告発する、硬質な社会派ドラマです。 こういう史実を追う形の

          映画試写会:「Winny」

          「原広司 建築に何が可能か-有孔体と浮遊の思想の55年-」展@湯島

          国立近現代建築資料館にて。 『集落の旅』とか『集落の教え100』とか、学生時代に熟読した世代としては、思想家、著作家としての原先生にもつよくひかれます。 先月の朝日新聞で、二週間あまり連載されていたた「語るー人生の贈り物」を、毎朝、楽しみにしていました。 展覧会タイトルとなった、原先生の初期著作『建築に何が可能か』のタイトルが、サルトルの『文学に何が可能か』に影響を受けていたこと、仕立て屋の息子として川崎に生まれ、日本全体が貧しかった敗戦期に飯田で少年時代をすごし、同級

          「原広司 建築に何が可能か-有孔体と浮遊の思想の55年-」展@湯島

          諏訪敦「眼窩裏の火事」展@府中市美術館

          2月に行きました。 現代写実画の大家である諏訪敦先生の展覧会。 興味深かったのは、「1章・棄民」で、完成作とエスキスを並べることにより、諏訪先生の製作過程に迫るところだった。 たぶん、ハルピンで亡くなった祖母を追慕する大作『HARBIN 1945 WINTER』だったと思うけれど(まちがっていたらすみません)、完成作であるキャンバスのとなりに方眼紙にえかがれたエスキスが並べられていた。 このエスキスは、おそらく、現実のモデルさんを写真にとるかスケッチするかして、リアル

          諏訪敦「眼窩裏の火事」展@府中市美術館