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短編小説集

23
物語は心の栄養。スキマ時間に圧倒的読書体験をどうぞ。
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記事一覧

カカシのこと 【短編小説】

 多様性が大事にされる現代社会。尊重と寛容。それでも、カカシはみんなからはぐれてしまった…

森下千尋
3週間前
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夢を買う【短編小説】

 「夢を買ったらしい」  北千住。駅前にあるチェーン店の海鮮居酒屋で小島先輩が言った。  …

森下千尋
2か月前
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ヴィンテージ【短編小説】

 ロレックスを左手首に付ける。午前十時五十五分を指す針を見て、作業机の前に立つ。学校の先…

森下千尋
3か月前
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【掌編小説】ひまわり/セーブポイントの先で

 ひまわり  花の絵を描いてくれと娘にせがまれたので仕方なくクレヨンで適当に数本描いた。…

森下千尋
8か月前
12

皇居ランでつかまえて

 走っている、あなたに会いたくて走っている。        ***    電話だ。塚元美…

森下千尋
11か月前
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はじまりを告げるレインボウ

     春  初心者でも簡単に育てられますよと言われて買った、ガジュマルを枯らした。こ…

森下千尋
1年前
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幻想のワンナイト

 九月二十五日 土曜日    「やっと見つけた……」  新宿最大級のクラブ『W』メインフロアのバーカウンター近く、人が入り乱れる中で、カジュアルな女子四人組の中に、おれは奈々を見た。  「なんか奈々のことめっちゃ見てるけど、誰?」  四人組で一番背が高い女が、不審な眼でおれを一瞥すると、奈々がこちらを向いて目を丸くした。困惑した表情で。  「さあ」  互いの目と目の焦点が、ピタリと合う。奈々は無理やり口角を上げて言う。  「……ストーカーじゃん?」  おれは強引に奈々の手を取

空中散歩

 「あれがいい」  私が指差した方向をハラミ先生も目で追いかける。  「あれに乗りたいので…

森下千尋
1年前
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きみとグッデイ

 潮風に吹かれる小高い丘の頂上に、トキばあと介護ロボットのグッデイは住んでいました。  …

森下千尋
1年前
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なまけものおやじののこしたローファー【短編小説】

 おやじが死んだ。  おやじはどうしようもないなまけものだったと(または、姫路でもトップ…

森下千尋
1年前
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【リラクゼーション・短編小説】ぐるぐる回る世界とささやかな日常に祈りを

 コロナ禍での出産だった。  男の子でも、女の子でも『空』と名付けようと決めていた。  …

森下千尋
2年前
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【短編小説】2・3月更新情報

カクヨムに、短編小説を二本書きおろしました。 一本目は、 【幻想のワンナイト】 恋愛モノ…

森下千尋
2年前
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【掲載のお知らせ】百花No.6 文藝書房

12月23日発売の 百花No.6 文藝書房に、 短編小説・睡眠ラジオが掲載されております。 下記…

森下千尋
2年前
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鬼ヶ島フリースタイル合戦

 バイト後、すっかり暗くなった帰り道。スマホにイヌからの着信が入った。  「ワッツアップ、メーン」3コールした後、俺は応える。  「桃太郎、おい、今、お前何処だ」  電話越しに聞くイヌの声は、相当に息が上がっている。  「どうした? ちょうどバイト終わったとこ」  くたくたの身体に当たる夜風が心地いい。肉体と時間を一日中労働に捧げて、ようやく自分だけの時間が始まる。はずだった。  「すまん……サルがやられた。至急、来てくれ」  イヌの声に一瞬鼓動が速まる。  「冗談だろ?」