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スーパーナチュラル

彼の事が好きだ

細身なのに程よく筋肉のついた漢らしい腕と
悪い事をするのに慣れてそうな手先
長く伸びた睫毛
キスするとチクチクしてくすぐったい鼻下の髭と
眠たそうな瞼とそれに反して透き通っている瞳

光と光が重なると新しい色が生まれるように、
今の私は彼の光を纏って光合し、発色している
他の人の光では、今の私の色は無い
今の自分の光の色は意外なことに、かなり気に入っている。




細く見えるが漢らしい彼のその腕は、全てを包み込んでくれるような、なにか、丸みを帯びているような物を感じる。少なくとも、四角く尖ってもいないし歪な形をしている物でもないのは確かだ。

悪い事をするのに慣れていそうなその手先は、実は繊細でとても優しい。
私の目にかかりそうな細い髪の毛を一本一本優しく取り払ってくれる彼のその手先は細かい物を扱うのにとても適しているように見える。
荒んだこんな私の事をまるで高級なフランス人形を慎重に扱うかのように、私の眼のすぐ前で美美しくうごめく手先は私の性癖のどこかに刺さるものがあるのかもしれない。 

ほとんどの人から見れば私はピュアな人間とは程遠いはずなのに、どうして彼といると無垢な自分として息をしていけるのだろう。
彼が愛撫する私は限りなく、ピュアに近い。
もっとも、彼が手先で扱うものも等しく、ピュアなものが多い。


まるで仔猫を見るかのような瞳で見つめられると、自分がどれだけ彼に愛されているかを毎度熟知する。
その瞬間、耐え難い苦しみが心臓のポンプのひとつひとつから送られてくるのが分かる。

失いたくない。
そして彼にも私を失ってほしくない。
そう思うのである。

この類の不安からはこれから先も悩まされ続けていくという事を私は知っている。
というか人は誰しもある程度の年齢になるとそれを踏まえて生きるようになる。
経験し、学んでいるからだ。
残酷だが受け入れるしかない。


彼のダークな部分、そこに灯る小さな光の部分。
どの部分も迷わず掬い取ってキスしてあげたいと思う。
そして私にもまた影の部分が存在していて不思議と光の部分よりそれは多いと感じる。
彼もまた、そこを熟知してくれているような気がする。
私が闇の中にいる時、小さな光になってくれているから。

私と彼は似たもの同士、と同時に似ても似つかないようなふたりの人間だ。
ハーレイクイーンとジョーカーのように、運命共同体でもありながら自分だけの闇も持ち合わせている。それは互いに理解したい気持ちと理解されたくない気持ちが混在しているように思う。

彼となら、まさにあのシーンのように一緒に薬品タンクに飛び込んでみてもいい。
そう思うのである。

「一緒に生きよう」より、
「一緒に死のう(死ぬ時は一緒に)」と言われた方が腑に落ちるのは、おそらく真っ当な愛の奥の先には深い歪んだ愛というのも存在しているという事を知っているからだろう。
人間誰しも、人に言えないような事を思ったり実行したりした過去を持っていたりして、あたかも自分はいわいる”普通の人間”だと演じているだけの化け物なのである。
隠せている者、隠せていない者、または逆に披露したくて公にしている者。様々な人間がいるだけだ。


普通の人間を演じてるような人間たちに、私たちの良さはもしかしたら分からないのかも知れない。
だがそれで良い。
それってすごく特別なことだから。


もうこれ以上、影の部分を隠すつもりはない。
私はこういう人間なのだ、と宣言して胸を張って生きよう。
私には彼がいる。
いても、いなくても構わないけれどいてくれてかなり助かっているこの事実を幸せと呼ぼう。






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