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映画「ぼくらのよあけ」感想

 一言で、未知との遭遇という子供達の冒険譚や、親子二世代の物語というテーマは良いですが、ややノイズが多すぎて、中途半端な感じを受けました。もっと短く纏めた方がスッキリしたと思います。

評価「D」

※以降はネタバレを含みますので、未視聴の方は閲覧注意です。

 1万2000年をかけて地球に来た「未知なる存在」、もしそんなものに出会えたら…本作は、子供たちが、誰かと出会い、繋がり、知る、その痛みを描いた一夏の冒険を描くSFアニメ映画です。

 監督は『PSYCHO-PASS サイコパス』などの黒川智之氏、脚本は『カウボーイビバップ』・『交響詩篇エウレカセブン』・『怪盗ジョーカー』などの佐藤大氏、制作会社は『ぐらんぶる』・『さんかく窓の外側は夜』などのゼロジー、配給会社はGAGA/ エイベックス・ピクチャーズ、主題歌は三浦大知氏の『いつしか』です。
 原作は、今井哲也氏による同名漫画で、講談社アフタヌーンKCより、全2巻で完結しています。

・主なあらすじ

 西暦2049年の夏、主人公の沢渡悠真は間もなく地球に大接近するという「SHⅢ"エス・エイチ・スリー"・アールヴィル彗星」に夢中になっていました。
 しかし、ある日沢渡家の人工知能搭載型家庭用オートボット、「ナナコ」が何者かにハッキングされてしまいました。その「犯人」は、「二月の黎明号」と名乗り、「2022年に宇宙から大気圏に突入しようとして故障し、団地の1棟に『擬態』して休眠していた」と言います。「二月の黎明号」は悠真に、宇宙に帰るために手伝ってほしいと依頼します。ひょんなことから集まった悠真の友人達。彼らは、親には内緒で「解決」しようと考え、「二月の黎明号」の「極秘ミッション」に乗りますが…

・主な登場人物

・沢渡悠真(声- 杉咲花)
 阿佐ヶ谷団地に住む、宇宙好きな杉二小の4年生男子。彗星接近に夢中になります。友人の真悟・銀之介とともに、「極秘ミッション」に乗ります。

・ナナコ(声- 悠木碧)
 沢渡家の人工知能搭載型家庭用オートボット。沢渡家の一員で、悠真の親のような存在です。ある日突然、何者かに「ハッキング」され、機能停止してしまいます。

・岸真悟(声- 藤原夏海)
 悠真の友人で同級生。内気なメガネ男子。わことは姉弟ですが、性格は正反対です。

・田所銀之介(声- 岡本信彦)
 悠真と真悟の友人で小学6年生男子。年上ながら、彼らのミッションに付き合います。

・河合花香(ほのか)(声- 水瀬いのり)
 小学6年生女子で、小説家の父親と二人暮らし。ひょんなことから、悠真たちと知り合います。

・岸わこ(声- 戸松遥)
 小学6年生女子で、真悟の姉。気の強い性格で、八方美人です。クラスの女子と共に花香をいじめていました。

・沢渡はるか(声- 花澤香菜)
 悠真の母。遼と義達の幼なじみ。

・沢渡遼(声- 細谷佳正)
 悠真の母。義達の親友。

・河合義達(声- 津田健次郎) 花香の父。小説家。はるかと遼はかつての友人でしたが…

・岸みふゆ(声- 横澤夏子)
 真悟とわこの母。

・二月の黎明号(声- 朴璐美)
 ナナコの体を借りて、悠真たちに語りかけてきた謎の存在。

・SHⅢ (エス・エイチ・スリー)
 本作に登場する人工衛星、またはそれに搭載された人工知能。30年前に打ち上げられた人工衛星に搭載されており、数えきれないほどの星や衛星、天文現象を発見しています。現在運用されている全ての人工知能の元です。

1. 既視感はあるけど、子供達の一夏の冒険譚としては悪くはない。

 本作は、子供達の夏休みの冒険と、人工知能と宇宙の繋がりを描いた話です。一定の既視感はありましたが、一夏の冒険譚としては悪くはなかったと思います。いくつになっても、未知との遭遇はドキドキ・ワクワクするものかもしれません。

 まず、地球人と宇宙からの未知なる遭遇を描いた作品としては、『劇場版ドラえもん』・『ジュブナイル』・『メッセージ』・『E.T.』・『WALL-E』辺りと重なります。
 また、人工知能の機能やネットワークが別の人工知能に乗っ取られる話は、『サマーウォーズ』のラブマシーンでした。
 そして、「二月の黎明号」が空を飛んでいくシーンは、『エヴァンゲリオン』の使徒や、『シン・ウルトラマン』のゼットンみたいでした。この作者さん、庵野秀明氏から影響を受けてそう。
 ちなみに、取り壊し予定の団地が舞台となるのは、今年公開された『雨を告げる漂流団地』と重なります。※両監督同士の対談があった模様。あちらはあまり合わなかったのですが、こちらはまだマシなくらいです。

 欲を言えば、西暦2049年という今から27年後の話なので、もう少し未来感は欲しかったかな。オートボットはいるものの、正直今の我々の生活とあまり変わらない雰囲気だったので。

2. 「ぼくらのよあけ」のタイトルの意味は?

 本作は親子二世代に渡る物語となっています。そのため、タイトルの「ぼくら」というのは、悠真たち子世代だけでなく、親世代も含みます。
 子世代のカーストやいじめ、親世代のわだかまりなど、本作で描かれる人間関係はキレイなものではないです。それらがひょんなことから、結びつくことに。やがて紆余曲折を経て、皆が協力し、一つのミッションを成功させたこと、これこそが「よあけ」なんでしょう。
 別れはいつ訪れるかわからない、だからこそもし今反発し合っていても、出会った頃を思い出し、大切な人と時を過ごしたいと思う作品でした。

3. 物語の方向性は良いが、ややノイズが多く、中途半端だった。

 本作のストーリーは、地球に不時着してしまった惑星探査機「二月の黎明号」(便宜上「彼」とします)が故郷である「虹の根 (にじのね)」に戻りたいと願い、子供達によって、「彼」を動作させるのに必要な物体となるアイテム(キューブ状のコア)を親から引き継いで、願いを叶えるという内容です。ただ、やや全体的にノイズが多すぎて、中途半端な感じを受けました。

 「二月の黎明号」の宇宙船の再生・帰還を手伝う/同級生の間でのカースト問題に端を発するいじめ問題/自分の親たちの過去の秘密/人工知能の進化の末に引き起こされる大きな問題…など、本作では沢山の問題が描かれますが、正直ストーリーラインが多すぎて、メインプロットである「宇宙船の再生・帰還を手伝う」ことと、その他のサブプロットが上手く絡んでいたとは言い難いのです。

 後は、子供だけで立ち入り禁止のところに入った上に屋上で死にそうな目に遭うとか、取り壊し予定の団地で、30棟分の水を無断で使うとか、(水道はまだ使えたの?)設定上の突っ込みどころは多かったですね。勿論、フィクションとわかった上でも。

4. 大事なことを言葉で喋りすぎなので、途中から聞き取れなくなった。

 本作は、ナナコや二月の黎明号が人間達に沢山「説明」します。しかし、如何せんそれが長かったです。とにかく大事なことを言葉で喋りすぎなので、耳が痛くなり、途中から聞き取れなくなったので、疲れてしまいました。ちなみに、ナナコと二月の黎明号の話、お子さんはわかるのかしら?
 また、「二月の黎明号」という名前も長いし抽象的なので、覚えにくく、あまり印象に残りませんでした。

 最も映画『バズ・ライトイヤー』も説明台詞が多かったので、こういうパターンはSF作品にはありがちなのかもしれません。でも、あちらはCG映像のクオリティーとアクションにガッツリ力を入れていたので、そこはあちらに軍配が上がるかな。

 正直、上映時間が長く感じるタイプの作品でした。これなら、90分くらいにしたほうがコンパクトにまとまったのでは?途中、何度も寝落ちしそうになりました。

5. いじめやわだかまりのシーンが陰湿すぎる。

  後は、いじめやわだかまりなど、人間の負のシーンが陰湿すぎて、見るのがキツかったです。しかも、それらも結果的にはあまり昇華出来てないのがモヤモヤしました。
 まず、花香とわこのエピソードについては、わこのいじめっ子描写がとにかく陰湿なんですが、一方でやや記号的に感じました。
 最終的には二人は「引き分け」に落ち着きますが、今までハブっていたわこが、逆にハブになり自暴自棄になる描写が、弟の真悟を「外に向かわせる」だけの役割にしかなっておらず、展開としては今ひとつだったと思います。

 また、親世代・子世代ともに、「人を団地の屋上から突き落とそうとする」描写があるのは倫理的にどうなんでしょうか?
 親世代の「事件」により、義達は足が不自由になり、普段の生活では杖が必要になりました。そして、はるかと遼とは連絡を絶ち、長年会いませんでした。ここまでハッキリとしたわだかまりがあったにも関わらず、最終的には親同士が協力しようとしたのか…そこのキャラの心情の掘り下げも甘いです。※原作がそうだから、と言えばそうなのかもしれませんが。

6. 声優の演技には一部引っかかる点あり。


 声優さんの演技については、悪くはないのですが、いまいちな点も多かったです。
 主役の悠真役の杉咲花さんは健闘していたと思います。ただ、本業声優さんではない女優さんだと、どうしても女性声になりがちで、所謂「相撲声」でした。これは元の地声の質・演技指導・演出力の問題がありそうです。やはり、女性声優さんが少年声を違和感なく発揮するには、相当の訓練が必要なんでしょう。(他作品だと、『聲の形』の松岡茉優さんや、『未来のミライ』の上白石萌歌さんもそうでしたが。)

 ナナコ役の悠木碧さんは台詞が多い中、よくトーンを落とさずにやっていて流石でした。以前、You TubeにてSiriのモノマネをアップされていたのを思い出しました。

 二月の黎明号役の朴璐美さんの淡々とした話し方は、『鋼の錬金術師』の「真理」みたいでした。もしかしたら、それで本役に起用されたのかもしれません。

 正直、親世代のキャストは厳しいものがありました。流石に大人のキャストと中学生時のキャストが同じなのは違和感がありました。特に、ツダケンさん、中学生にしては声が渋すぎでした。これは、彼の演技力ではなく、演出の問題だと思います。

 本作、子供達の冒険譚としては悪くなかったのですが、もう少しプロットを整理して、コンパクトに纏めていたら、もっと面白かったかもしれません。良作になるポテンシャルはありながらも、勿体ない作品でした。

出典: 

・映画「ぼくらのよあけ」公式サイトhttps://bokuranoyoake.com/
※ヘッダーは公式サイトより引用。

・漫画「ぼくらのよあけ」マンガペディアhttps://mangapedia.com/%E3%81%BC%E3%81%8F%E3%82%89%E3%81%AE%E3%82%88%E3%81%82%E3%81%91-vrroots82

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