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心臓の音。

約一年前に訪れた、豊島。

四国にある香川県、3年に一度開催される、瀬戸内国際芸術祭が行われる島の一つ。
今年は開催年。

素敵な場所で素敵な出会いがあった。
その時の話をしたい。

女の子ふたりで九州からヒッチハイクをしていた。
その話はまた今度。

泊まっていたゲストハウスから港までは距離があり、船に乗るためには時間があまりなかった。
スケッチブックも雨で出せなかった為、近くのコンビニで男の人に声をかけ、港まで乗せていってもらえることになった。
高松港から、小さな船に乗って島に向かう。

港に辿り着くと、ボストンから来たという女の子と話した。困っていたので声をかけると、サイクリングで島を周りたいが、あいにくの天気の為やっていないと言われたという。バスが通っていてもうすぐ出発するところだったので、一緒に乗ろうと誘った。短い間だったが、お話をしてニックネームなんかつけ合ったりして仲良くなった。つけたニックネームは苗ちゃん。

島の奥にある、心臓音のアーカイブ。
そこは地の果てのようで、この世とは思えないくらい静かで穏やかな楽園のようだった。

奥まで見えない暗い部屋で、世界中で登録されている心臓音に合わせて真ん中にあるライトが光る。
私たちは光を頼りに手探りで1歩ずつ進み、一番奥に辿り着くとそこで体操座りをしたり、寝っ転がったり。来る人を驚かそうかとも思ったが、奥まで来る人はなく、そもそもそれはあまりに心臓に悪いのでやめておいた。
自分の心臓の音を録音し、海が見渡せる場所に設置されたパソコンに登録ができる。
他の人の心臓音を聴くこともできる。様々なメッセージと共にそこにはいろんな人がいた、規則的に波打つ心臓音、反対に不規則な心臓音。個性があった。生後数ヶ月の赤ちゃんの心臓音。その音は早くてパワフルで力強かった。
私は小さい頃から心臓の音に異常があるようで、大きな病院に検査をしに行った事があるが、命に関わるものではないと言われていた。
はじめて聴く自分の心臓の音は確かに少し不規則な音色を奏でていた。

アーカイブ前にある海を眺めていると苗ちゃんがやってきたので合流して、3人は海の次は山の奥へと向かった。
そこには、沢山の風鈴が木々と共に風と共に揺れて綺麗な音色が響いていた。風鈴には亡くなった人の名前が記されていた。

1時間に1本程しか通らない島の巡回バス、目の前で乗り過ごしてしまい、途方に暮れていると、軽トラのおっちゃんが玄関口の港まで乗せていってもらえることに。軽トラの後ろに乗り、木々が生い茂る高台からは遠くに海が見えて風が気持ちよかった。

港に着き、軽トラを降りるとおっちゃんは、すぐそこに面白そうな美術館があるから寄っていくといいと言われた、船が出るまで時間があったので行ってみることにした。そこは横尾忠則美術館だった。
古民家一棟が美術館になっていたが、中に入ると全く新しく新鮮だった。最後の絵にはこの島、この美術館、人生の全てが描かれていて、学芸員さんと話していて鳥肌のたつくらいの秘密が隠されていた。
そこに描かれていた高い木は館内の庭にも植えられており、その木は棺に使われるものなんだそうだ。
横尾忠則はそのポップで不気味な世界観の中に生と死をテーマに表現する作家でこの出会いからこの人の作品が大好きになった。

人や芸術作品との出会い、自然との調和、共存。
生と死を感じられた。導かれるようにして出会ったものたち。そして、この島には言葉にできないようなとてつもないパワーがあった。


一緒に旅していた女の子は別の用事があり、次の日から別々で行動する予定になっていて数日後に高松で合流することになっていた。お金も底をついていたので、1人でヒッチハイクで移動しようかと無謀なことを考えていたところだった。ここまで難なく移動してこれて無敵だと思い込んでいたが、実際は無力で臆病な私だ。
今思うと、初めて降り立った場所で心細く、きっと1人で泣いていたかもしれない。

その日の晩に祖父が亡くなった。
朝、親から連絡が入り早急に帰らなくてはならなくなったので高松駅まで見送ってもらい、1人で電車に乗りマリンライナーで四国を出て、岡山まで戻り新幹線で九州まで戻った。
きっと、私が無事に帰って来られるようにみんなの元へ帰したのだろう。と思っている。

島にいる間、ずっと不思議な気持ちだった。感じたことのない気持ち。自分と向き合う事が出来ていた。生きること、そんなタイミングで死ぬこと。
が身近に起こった。

自分の心臓が音絶えても、この場所に来ればこの時確かに生きていた自分に逢える。
人は死んだら骨しか残らないが、生きていた時の鼓動が遺せるのはいい。
此処は第二の墓だと思っている。

今回、豊島美術館には逝かなかったが、母体を感じさせる空間だときいている。
生きているうちにまた必ずこの場所を訪れたい。
その時は、祖父も連れていきたい。
祖父の名をつけた風鈴があの森に響くだろう。